結婚したレイノマ「ただいま」
「おかえり」
レイが帰宅するのを、風呂上がりのノーマンが出迎えた。何故かレイの黒いパジャマを着ていた。上だけ。繰り返す、それはレイのパジャマである。
上下セットでありながら色をカスタムでき、肌触りも良く乾燥機に放り込めるそれは彼らのお気に入りで鬼リピしている。白がノーマンで黒がレイ、下は色を交換して、色違いでありながらお揃いというとんでもない代物である。
ノーマンが着るとパジャマからにょっきりと足が生えている状態になる。華奢で肩周りに肉がないため、裾が余ってギリギリ見えない。惜しい。なにがとは言わないが見えない。下着の有無までは分からない。
レイはくらりと脳が揺れた気がした。今にも倒れそうである。愚息はすこぶる元気になった。
「ハァ〜……風呂入ってくる」
「……そのままでもいいよ?」
「汗かいてるから」
レイにとっては全然よくないのだ。彼はノーマンを傷つけることを禁忌としている。欲に任せて抱き潰すなどもってのほかだ。一旦冷静になりたい、とレイは距離を置く。
しかしノーマンはお構い無しにずいっと迫り、肩に顔をうずめた。
「レイのにおい好きだけどなぁ」
そういうところである。
「ノーマン……“待て”くらいできるだろ?」
「ごほうびくれる?」
甘えた声で耳元に囁く。ふふっと笑う吐息の追撃に、レイは下唇を噛んだ。
「うん」
「どうしよっかなぁ」
すう、と首筋に顔を寄せる。レイの匂いはノーマンを魅了してやまない。虫が花の香りにつられるように、それは抗い難いものだ。だと言うのに随分ひどいじゃないか、とノーマンは左手でレイの頬をなぞった。薬指の指輪がきらきらと光っている。
言外の猛抗議にも屈せず、レイは頬にひとつだけキスをして離れた。とろけそうな青い瞳と目が合った。
「すぐ行くから」
「……わかった、いい子にしてるよ」