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    おいなりさん

    カスミさん……☺️

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    おいなりさん

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    ケイスミ

    まるであの男には心が読まれているような、そんな気分にさせられる時がある、とケイは頬杖を突いていた。
    何となく気が沈む、今日はケイにとってそういう日だった。
    開店前のスターレス、その奥にある、バーカウンター。
    的確な指示と入念なチェックで店の開店準備はもう終わり、後は時間が来れば店を開けるだけという、特に何をする事もない時間。
    瞬きをする間に終わってしまうその刹那が、唯一、というのは大袈裟かも知れないが、ケイにとってはそれに等しい、気の休まる時だった。
    今日は珍しく、暇を持て余せば暴れるようなキャストも居ない。
    ただただ静かなその時を、瞼を閉じてじっとしていると、左の方から控え目にグラスを置く音が聞こえて来た。
    少しだけ顔を音のした方へ傾け、瞼を薄ら持ち上げてみると、そこには少しだけ緊張した面持ちのカスミがグラスをケイの方へ差し出している所だった。
    ーーほら、こうして音もなく、必要な時に現れる。
    「あー……、もしかしてお邪魔でしたかね」
    罰の悪そうに頬をポリポリと掻くカスミに、ケイは問題ないというように軽く首を振った。
    「良かったら、一杯どうッスか」
    逆三角形のグラスに透き通った赤褐色が注がれ、それよりも鮮やかな赤を纏ったチェリーがそっと添えられていた。
    「ロブ・ロイか。開店前から酔わしてどうする気だ?」
    「これくらいでケイは酔わないじゃないッスか。ささ、景気付けにどうぞ一杯。自分の奢りッス」
    「……頂こう」
    くっ、と傾けられたグラスから、ケイの唇へと流れ込む赤。
    触れたチェリーに軽くキスをして、絡め取るようにして舌を巻き付けた。
    その妖艶な雰囲気にカスミの視線は自然と釘付けになり、酒を飲んでいないカスミの頬がほんのりと赤く色付いていた。
    「馳走になった」
    押し戻されたグラスに、はっと意識を取り戻したカスミが慌てて手を伸ばす。
    「いいえ、これくらい。あ、そろそろ開店ッスね」
    惚けていたのを誤魔化すようにして、フロアの方へ目をやるカスミ。
    その手がグラスを掴んだ時、ケイもまた、カスミの手を掴んでいた。
    「け、ケイ?」
    「カスミ、ロブ・ロイの意味を知っているか?」
    ぐっと手を引っ張られ、急激な接近で目を白黒させたカスミは、耳元でケイに囁かれた言葉にか、その声になのか、茹でられたように首を真っ赤に染めてしまった。
    「楽しみにしている」
    そう言って、黄金に光る絹糸を靡かせ、姫達のエスコートへ向かうケイ。
    その顔は憑き物が落ちたように、先程までの物憂げな影はもうすっかり晴れていた。
    ーー全くあの男は、こうも人の心を読んだように気分を変えさせてくるのだから、面白い。
    ふふ、と誰にも知られないようにケイは笑っていたが、そんな風に揶揄されているとは露知らず、カスミはバーカウンターの中で、すっかり小さくなっていた。
    「そんな意味で出したんじゃないのに……」
    未だ耳に残る低くセクシーな声に頭を抱えながら、カスミはそうぼやいては叫びそうになる衝動を必死に抑えていた。

    end.
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