それでも好きとは言わねぇんすね/シン大✽2〈時は遡りシンのとある朝のこと〉
「今日の開店業務は大牙とメノウか」
店が開店して客の出入りが安定した頃に出勤すればいい。充分間に合うし今日は昼からのシフトになっている。まだ新調して履き慣れない黒の革靴でいそいそとシンは店に向かっていた。なぜなら今日、朝一番に厨房で行われる事をシンは知っているからだ。
『シン…おめでとう』
5/7に厨房ではなく事務室だったが誕生日に大牙がシンに珈琲を振る舞ってくれた。それから妙にシンの中で珈琲が居心地のいいものになっていたのだ。果実の爽やかな酸味の後にカカオのほろ苦さが追って来て余韻として甘さで満たされる感覚が忘れられない。きっとあいつの事だ業務前のルーティンとして珈琲を淹れているに違いないと容易に想像できた。特別に用意してもらうものではなく普段の味とやらにも興味が湧いてしまった。
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