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    おいなりさん

    カスミさん……☺️

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    おいなりさん

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    月蝕見たーーーー寒かったなぁーーーー

    文章がめちゃくちゃだなぁ……

    ##真スミ

    月を蝕む月を蝕む



    「今日、月蝕があるらしいッスよ」

    朝起きると、狭いベッドの中で隣に寝転んでいるカスミがスマホを弄りながらそう言った。
    これって、いっしょに見に行きたいってことなのかな。
    長い前髪がカスミの表情を隠してしまっているせいでコトバの意味を上手くつかめない。
    もちろんおれはいっしょに行きたい、けど。

    「カスミは、月蝕見に行くの?」
    「そうッスね〜。うーん、でも、この時間だと仕事が終わるかどうかわかんないッスね」
    「そっかぁ」

    しょぼん。
    期待でふくらんでた気持ちがそんな音を立ててしぼんだ気がした。
    ととと、とカスミがスマホをタップする。
    何か返信が来たみたいだけど、それを確認したらすぐに画面をオフにしてスマホを枕の上の方に放ってしまった。
    それから、すり、とカスミがすり寄ってきて。

    「真珠は見に行きたい?」

    ナイショ話するみたいに、少し小さな声。
    おれは反射的に頷いて、行きたいです、って言った。
    でもすぐに慌てて訂正。

    「あ、えと、カスミといっしょに行きたい!」

    近くにあったカスミの手をぎゅっと握ってそう言うと、カスミの口がふにゃふにゃになって、こらえ切れないって感じで笑い出した。

    「ふ、ふふふ、なるほど。真珠にそんな風に言われたら、ちゃちゃっとお仕事終わらせないとッスねぇ」
    「……見に行けるの?ふたりで?」
    「任せてくださいッス〜」

    そう言ったカスミの唇がどんどん近付いてきて、気付けばおれの口とくっついていた。
    柔らかい感触が一瞬だけして、すぐに離れていく。
    追いかけると、カスミの人差し指がおれの口をむにっと押した。

    「それじゃあ、また今晩。自分車出すんで、家で待っててくださいッス」

    カスミはそれからすぐに着替えて出て行ってしまった。
    机の上にはいつの間にか朝ごはんの準備がしてあった。


    +++ +++ +++ +++

    あと10分で着きます、そうメッセージが届いたのは17時を少しすぎたくらいだった。
    すぐに出られるように上着を着て、財布とスマホをポケットに突っ込んだ。
    戸締りや電気の確認をしてから靴を履いていると、チャイムがピンポーンと鳴った。

    「お帰り、カスミ」

    そう出迎えると、カスミはにこりと笑ってからただいまの声と一緒にハグをしてくれた。
    あったかい、けど外の空気のせいで少し冷たい。
    カスミの冷えた手を温めるように手を繋いで、おれはカスミといっしょに玄関を出た。

    カスミが向かったのは、あまり人気のない港だった。
    17:40。
    ビルも街灯も遠くて、薄暗いその場所からは綺麗に月が見えていた。

    「三日月?」
    「今日の月蝕は、もう影になった状態で昇って来てるみたいッス。ほら、薄暗いところ、少し赤く見えるッスよ」
    「あ、ほんとだ。不思議だね」
    「そうッスねぇ。外に出て見てみるッスか?」
    「うん、そうする」

    海から吹く風は冷たかった。
    車の中が暖かかった分、余計にそう感じたのかもしれない。
    思わず体を縮こまらせていると、カスミが肩を抱いてくれた。

    「やっぱり外はちょっと寒いッスねぇ」
    「うん、そだね。でも、カスミとくっついてるとあったかい」
    「ふふふ、それなら良かった」

    見上げた月の光は、よく見てないと気付かないくらいにゆっくりと欠けていく。
    17:50。
    いつもみたいに、何でもない話をしながら月を眺めた。
    17:55。
    なんとなく、カスミの手に触れた。
    それから、指を絡めて、ギュッと握った。
    18:00
    月の光ってるとこがすごく薄くなって、
    18:01
    赤黒い色が月全体をほとんどおおって、
    18:02

    「カスミ」
    「はい?」
    「……すきだよ」

    きょとんとした顔のカスミ。
    18:03
    少し血色の悪くなったその唇に、自分のをそっと押し当てた。
    握ってた手の力を強くして、逃げられなくして。
    カスミの唇を食んで、カスミの呼吸まで食べてしまった。
    ぬるぬる絡む舌の柔らかさと熱さにくらくらする。

    「ん、ぁ、しん、じゅ、っ、ん、ンぅ」

    途切れ途切れの吐息におれの心臓がドクドク飛び跳ねる。
    18:04
    ちゅぱ、と唇が音を立てて離れると、カスミのかおれのかわからない唾液が唇の間を伝って、垂れ下がって、ぷつりと切れた。

    「……もう、家帰るッスか?」

    その問いにおれはスグにこくんとうなずいて、カスミといっしょに車に乗った。


    帰りながらミラー越しに見る月は、少しずつ光りが大きくなっていった。
    それは、月にかかる地球の影の面積が少なくなってるからだとカスミは言った。

    「そうそう、ちょうど、真珠がキスしてきた時が月蝕のピークだったみたいッス」
    「え、そうなの?見損ねちゃったね、ごめん」
    「いえいえ、全然。月蝕なんて年に一回は起こるッスから。また来年見ればいいんスよ」

    来年。
    そのコトバに胸がざわざわする。
    来年も、カスミはおれのとなりにいてくれるんだろうか?
    その形がどうしても欲しくて、

    「……来年もいっしょに見られる?」

    と聞いてしまった。
    カスミはすぐにもちろん!とは言ってくれたけど。

    「…点と言いたいッスけど、まあ、スケジュール次第ッスかねぇ」

    そっかぁ、と、なんだか今朝と似たようなやり取りをして、またおれの気持ちがしおれてしまった。
    でも、もしかしたら。
    そう思って、カスミにコトバを投げる。

    「いっしょに見ようよ。来年も。おれはカスミといっしょがいい」

    カスミはそれを聞いてどう思ったのかはわからないけど。
    やっぱり今朝と同じように笑いながら

    「真珠にそんな風に言われたら、見に行くしかないッスねぇ」

    と言ってくれた。
    月は、もう半分くらいまで光が戻っていた。

    「……月、きれいだね」

    ぽつりと呟く。
    カスミはほんの少し考えてから、

    「手が届かないものだから、ッスかね」

    と言った。



    end.
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