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    ふぇいきゅん

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    ふぇいきゅん

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    自創作『それが造られた華だとしても』の番外編です。

    誘拐犯と優等生 私がその子に目を奪われたのは、言うまでもない『綺麗な子』だったからだ。
     すとんと丸みを帯びた頭部は遠目から見ても小さい。さらさらと風を通す髪には天使の輪がある。黒の半ズボンから伸びる脚は細く、小学生男児にしては珍しく傷ひとつなかった。
     何より驚いたのは、目鼻立ちが整っていたこと。シャープな輪郭と、小さな口元からこぼれる笑顔。くりっとした大きな目、それを縁取る睫毛は少女のように長かった。完璧な見てくれをしていた。
     性格は大人しいようだった。彼と話している子供は、気弱そう、真面目そうな、といった印象を与える子ばかり。やんちゃな子とは付き合わず、かといって暗くもない。彼自身は太陽のような子だった。
     彼はいつも、バス停に一人で現れる。それまで話していた友達に「バイバイ」と手を振り、ランドセルのベルトをしっかり握って、てくてくと歩いていく。
     私はその道中、声をかけようとしたことがあった。だが、できなかった。「あ、しゅうくーん!」と、甲高い女子の声に遮られたのだ。
     彼は瞬く間にもみくちゃにされた。五人ほどの女子中高生に囲まれて熱い抱擁を交わし、くしゃくしゃと頭を撫でられる。彼は人懐っこい笑顔を彼女らに向けていた。うんうんと頷き、「一緒に帰ろう」とバスに乗りこむ。まるで、お前ごときが触れるなと、暗に言われているようだった。私は踵を返し、退散した。
     それでも私は、彼がよかった。彼に触れてみたい。その大きな瞳のなかに入ってみたい。捉えられたい。
     私は再び、バス停までの道中を狙った。友達は別の通学路や学童に散っていく。今がチャンスだと思い、私は踏みこんだ。

    「あぁっぁ、あの」

     ひっくり返った蛙のような声が出る。少年はきょとんとした顔で私を見上げた。黒真珠の瞳に間抜けヅラの私が映りこむ。

    「あ、あえっと……一人?」

     声が震えて、ヒヒヒヒヒと笑っているようになる。軽く咳払いをして、

    「よかったらおうちまで、送っていこうか」

     低い声で彼を誘った。
     彼はじっと私を見つめて、そしてこくりと頷いた。思わず眉間がぴくりと動き、えっ? と心に迷いが生じる。

    「ジュース。買っていい?」
    「あ、ああ、うん……」

     彼は私の答えを聞かずにもう動き出していた。道沿いの自販機に走り寄り、指をさして私を振り向く。無糖の缶コーヒーだった。

    「あっ、うん、わかった、いいよ」

     言葉より態度で示す子のようだった。これがいい、買って、と私に挙動で訴えかける。私は財布から小銭を取り出し、彼に缶コーヒーを買ってあげた。ついでにと、自分の分の水を購入する。

    「ありがとうございます」

     彼は小さな手のひらで缶コーヒーを包みこみ、嬉々として私の隣を歩いた。コンビニの駐車場に停めた車に乗って、向かった先は私の住むボロ家。
     忘れものをしたから一緒に降りてほしいという旨を伝えると、彼は言うとおりに応じてくれた。私に手を差し伸べて、手を繋いで玄関の扉を開ける。誘拐犯は私のはずなのに、まるで彼にいざなわれているような妙な気持ちになった。
     彼は狭い一室をきょろきょろと見渡し、折り畳まれた布団の上にぼすんと座った。平たく潰れた布団の上で、ぴんと伸ばした両足をぷらぷらと揺らす。気づけば私は、ペットボトルの水を飲んでその様子を凝視していた。
     缶コーヒーを脇に置き、彼は片方の靴下を脱いだ。殻を剥いたゆで卵のようにつるんとした腿と、手のひらサイズの素足があらわになる。しゃぶりつきたくなる爪先がぴょこぴょこと蠢いて、私は我慢の限界だった。
     彼の足元に跪き、震える手でその脚に触れる。滑らかな肌触りに、私の腰がぞくりと疼いた。
     ちらりと彼を窺えば、彼は無表情で私の手元を見つめていた。目が合わなかったことに安堵する。怯えていて声も出ないのだろうか。
     私はひっそりとほくそ笑み、彼の足首を掴んで、脛からふくらはぎまで丹念に手を這わせた。膝裏のくぼみを指でくすぐり、太腿を撫で上げて舌で吸い上げる。白い肌にいくつもの赤い痕がつき、支配欲が満たされていく。
     ここからが本番だと、ズボンのゴムに指をかけた。耳元でゴッ──と衝撃。鈍痛がして、私は一瞬、何が起きたかわからなかった。
     横倒しになった私を彼が爪先で蹴り上げ、仰向けにする。
     彼はつまらなさそうに私を見下ろしていた。手には真っ黒な靴下が、先端を歪な長方形に広げてポタポタとしずくを垂らしている。血ではなく、コーヒーだった。

    「へたくそ」

     なぜ彼が部屋に入ってすぐ片方の靴下を脱いだのか、合点がいった。

        * * *

     ゆうかいはんはたおれました。
     近頃、学校周辺に子供を値踏みする怪しい人がいるって、クラスで話題になっていた。あ、こいつだって、すぐに気づいたよ。
     だから退治した。みんなを守るため? 街の平和を保つため? ううん、違うな。
     僕は学校の『優等生』だから。善いことをするのは、『普通』のことだから。これくらいやって当然のことだよ。
     誘拐犯の財布からお札を抜き取り、キッズケータイで免許証を撮った。脚には舐められた痕もある。大人が誰を信じるかは明白だろう。
     それじゃあ学校に帰って、先生に言ってやろう。
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