金木犀のジャム 大家さんに、はい、と手渡されたその小瓶には、小さなオレンジ色の花が浮かんでいた。
「金木犀のジャムなの」
「手作りですか。すごいですね」
「趣味なのよ、ジャムづくりが。イチゴでしょ、マーマレード、りんご、金柑なんかも」
にこにこと笑うその目尻の皺に、日々の暮らしの楽しさが刻まれていた。回覧板と一緒に小瓶を受け取った俺は両手が塞がっていて、不格好なお辞儀しか出来なかった。
「それじゃあ、ハンコを押したらお隣に回してね」
「ありがとうございます」
朝のロードワーク帰りに、集合ポストの前で偶然会うにはタイミングが良すぎた。俺は大家さんの背中を見送りながら、さては俺の音で朝起こしてるな、と察する。もっと静かにドアを開けるようにしよう、この家は古いから音が筒抜けだ――
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