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    花月ゆき

    @yuki_bluesky

    20↑(成人済み)。赤安大好き。
    アニメ放送日もしくは本誌発売日以降にネタバレすることがあります。

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    花月ゆき

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    六畳一間のボロアパートに滞在中のれいくんのもとへ あかいさんが突然やってきて…
    赤安は恋人同士。
    オチは特にないです。。

    #赤安
    #ゆる赤安ドロライ

    第16回お題「雨」 夏のはじまり。降谷は地方へと向かっていた。組織の末端の人間が、上の指示を受けて妙な動きをしている兆候があり、監視の命を受けたためだ。
     飛行機で現地に到着すると、空港の建物の中にいてもわかるほど、激しい雨が降っていた。待合室にある大型のテレビには、台風二号接近中、とテロップが入っている。今はまだ序の口で、明日から本格的に雨風が強まるようだ。明日は空の便も欠航し、交通機関も動かないかもしれない。監視対象は明日この地を訪れるようだが、予定の変更もあり得るだろう。
     空港でタクシーを拾い、監視のために用意されたアパートへと向かった。小さな町なので空港からは距離がある。一時間ほど走ったあと、タクシーは住宅街の外れの道に止まった。代金を払いタクシーを降りる。降谷の目の前には、驚くほど年季の入ったアパートが建っていた。
    「まさか、ここか?」
     アパートの前へ行く。部屋は一〇一号室。一階の一番右端の部屋へと向かった。
     事前に渡されていた部屋の鍵をドアの鍵穴に通す。くるりと回ってかちゃりと鍵の開く音がした。間違いない。この部屋だ。
     ドアを開けると、昼間とはいえ陽が乏しく、部屋の中は暗い。部屋の中央にある紐を引くと、円形型の蛍光灯にあかりが灯った。
     横殴りの雨で傘など役に立たず、全身が濡れてしまっている。タオルで水滴を拭いながら、降谷は部屋の様子を見渡した。
     部屋の広さは六畳の和室。ユニットバスとなっていて、トイレとシャワーは部屋の中にあった。
     一度あることは二度ある、とはよく言ったもので、以前、このアパートと同じ、いや、これ以上に古いアパートで監視作業をしていたことがある。そのアパートには部屋の中にシャワーすらなかったので、近所の温泉に入りに行ったりもした。そのときと比べると、今回は滞在しやすそうである。
     冷蔵庫やシンクの下にも、一週間程度は過ごせるよう食料や備蓄品が入っている。台風が来ると多くの店が閉まってしまうので、事前に準備されているのはありがたかった。
     盗聴器の類がないことも念のため確かめて、降谷はシャワーを浴びた。湿気と暑さで汗をかいていたので、幾分すっきりする。
     監視対象が隣の一軒家に姿を現すまでは、自由時間だ。髪を乾かしたあと、降谷は畳の上に寝転んだ。激しい雨風の音だけがよく聞こえる。久しぶりの畳の感触が心地よく、降谷はいつしか意識を手離していた。
     ぽた、ぽた、と何かが畳に落ちる音がして、降谷は意識を引き戻される。時計を見ると午後五時を過ぎていた。音の正体を探っていると、窓際から三十センチほど離れた場所に、天井から水滴が零れ落ちていた。
    「雨漏りか」
     畳に落ちた水を拭き取り、台所から洗面器を持ってくる。洗面器の中に、ぽた、ぽた、と水滴が落ちるのを降谷はぼんやりと眺めた。
     年季の入ったアパートだ。屋根も劣化しているに違いない。明日から台風の暴風域に入るとの予報が出ているが、この部屋で本当に雨風を凌げるだろうか。
     ふと気になりスマホを見る。電波は問題なく届いているようだ。連絡がつけばどうとでもなるだろう。降谷は開き直ることにした。
     ここに来たときよりも雨風は強くなっている。窓ガラスが割れないよう雨戸を閉めた。台風が多い地域なので、こんな古びたアパートにも雨戸はついているようだ。
     雨戸を閉めると、すっと陽の光が寸断される。静けさと暗さが一気に押し寄せてきて、少し息苦しさを感じた。
     そこへ、間の抜けるようなベル音が鳴った。来客を知らせる音だ。警察関係の人間がこの部屋に来るとは聞いていない。降谷は緊張した。
     降谷は静かに拳銃を持ち、ドアの覗き穴に近づく。ドアの前には、意外な人物が立っていた。
    「赤井」
     降谷は信じられない気持ちでドアの鍵を開けた。
     赤井はライフルバッグと似た形状のバッグを背に担いで立っていた。ぽつ、ぽつ、と、ドアの前に水滴が落ちる。赤井は頭上から足元までびっしょり濡れていた。傘を持っていないので、車を降りてそのままやって来たのだろう。
    「君に会えて良かった。もう一便遅かったら欠航していたよ」
    「ちょっと、ずぶ濡れじゃないですか! 早く入ってください! 風邪引きますよ!」
     早く早くと促して、赤井を部屋の中に招き入れる。大きなバスタオルを赤井に手渡して、ユニットバスを案内した。
     赤井がシャワーを浴び終えるのを待つ間、降谷はぼんやりと考えを巡らせた。
     赤井には、仕事でしばらく地方へ行く、とだけ伝えていた。状況によっては場所も期間も変わる可能性があったため、赤井には自分の居場所が特定できる情報は何ひとつ伝えてはいなかった。いったいどうやってここを突き止めたのか。誰かに聞いたのか。赤井自身が調べたのか。
     そもそも、なぜこんな場所までやってきたのかがわからない。唸りながら考えていると、シャワーを浴び終えた赤井が部屋へと戻ってきた。
    「この洗面器は?」
     畳の上に置かれた不自然な洗面器に、赤井は真っ先に違和感を覚えたようだ。
    「ああ、そこ、雨漏りしているんですよ。古いアパートですからね、屋根も老朽化が進んでいるんでしょう」
    「雨漏りか」
     赤井は興味津々といった様子で、天井を仰ぎ見ている。
     降谷は冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して、赤井に手渡しながら言った。
    「ところで、なぜこんなところに?」
    「君がひとりで面白い場所に滞在すると君の部下から聞いてね。追いかけてきたよ」
     いったいどんな手を使って情報を聞き出したのか。油断ならない男である。
    「面白い場所って……この通り、今回の台風を無事に過ごせるかもわからない場所ですよ」
     以前、赤井とふたりで六畳一間のアパートに滞在したことがある。年季の入った古いアパートで、風呂もないような部屋だった。しかし悪いところばかりではなかった。大の大人ふたりに六畳は狭すぎるが、すぐそばに恋人がいる嬉しさもあった。
     非日常的な空間は、赤井にとって面白いものなのかもしれない。赤井の表情はどこか生き生きとしているようにも見える。
    「電波さえ入ればどうということはない。いや、たとえ電波が入らなくとも、君さえいてくれれば楽しいよ」
     本心なのだろう赤井の言葉に、降谷は顔が熱くなるのを感じた。だがすぐに、顔から熱が引く出来事が起きてしまう。
     突然、轟音が鳴り響き、目の前が暗くなったのだ。
    「停電」
     スマホのライトで周囲を照らす。停電は明らかに雷の影響だろう。ほんの少し玄関のドアを開けてみると、ドアを開けるのにも力が必要なほど、強い風が吹いていた。住宅街だが、電気の灯りと思われるものが見当たらない。この周辺一帯が停電しているのだろう。
     部屋を探索していたのか。背後でどこかの扉が開く音と、赤井の声がした。
    「ロウソクがあるな。これを使おう」
    「ええ」
     シンクの下から、ロウソクと灰皿を取り出す。
     降谷はアルミホイルで簡単な土台を作り、灰皿の上にロウソクを立てた。赤井はマッチに火をつけ、ロウソクへと火を移す。
     ちゃぶ台の上に灰皿を乗せて、ロウソクの灯りをふたりで取り囲んだ。
     雨戸で締め切った暗闇に、ぼんやりとロウソクの火の灯りが浮かぶ。ロウソクの灯りは遠くまで届かない。その代わり、近くにいる赤井の顔がやわらかく浮かび上がっていた。
     なんとなくお互いに黙り込んでしまうと、部屋の中は雨風と雨漏りの音だけになる。
     びゅうびゅう。ざぁぁぁぁ。ぽたぽた。
     ふと、畳の上に置いた手の甲に温もりを感じて、降谷はびくりと身体を震わせる。赤井の顔を見ようとしたところで、すっとロウソクの火が消えた。少しの混乱のあと、赤井にぐいと強く抱き寄せられる。
     赤井がこれから何をしようとしているのかがわかってしまい、降谷はぶわりと身体が熱くなるのを感じた。
     明日この地へ上陸する台風は、雨風をますます強く激しくしてゆくだろう。本来の任務に就くまで、今は恋人との時間に身を委ねてみようかと降谷は思った。
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