蝉しぐれ東と西では鳴く蝉が違うという。玄武は自然の変化にはうといほうでそれには気づかなかったが、横浜に引っ越してきてアオスジアゲハが少ないことには驚いた。ユズやカラタチや夏みかんの樹にあつまるのはもっぱらナミアゲハで、あの翅に人工塗料のような青水色が走るアゲハはめったに見ない。それを朱雀に言ったら、朱雀は北海道のアゲハは真っ黒なのだと言った。
「夏によお、植え込みとかにすげー集まるんだよ。20とか30、それくらいいる。マジで真っ黒で、普通のちょうちょみてえな模様とかねえんだ。あとでけえ。ガキのころとか、襲われるみてえで怖かったぜ」
ヒッチコックの「鳥」みたいだと言うとその本は読んだことねえ、と返ってくる。一度名画を徹底的に見せる会でも開くべきか、と思いながら真っ黒な蝶たちに襲われるちいさいあかいすざくを想像すると口角が自然と上がる。
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