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    COMOYAMA

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    寂しがりは手をとって(3/3)

    ##小説

    夕暮れの中、街道の轍をたどって歩く。さきほどまでの騒動がウソのように、帰り道は平穏で静かだ。
     先を行くベリトの背にソロモンは話しかけた。

    「なあ、あの時幻獣と出てきたのは…」
    「俺様の獲物だからだろ。頭掴んでやったら暴れやがって。俺様ごと壁を突き破るかと思った時に、やっとテメェが喚びやがったんだ」
    「そ、そうだったのか…でもすごかったよ、ベリト。ベリトを信用しろって言ってくれたから、慌てずに済んだんだ」
    「んなこと言ってねえぞ。テメェが出来ることを信用しろって言ったんだ」
    「…あれ?」
    「…今まで俺様を信用してなかったと」
    「違う違う!」

     あたふたと否定するソロモンに詰め寄る。眉間を見れば本気で怒っていないことはわかった。苦笑してごまかすと、ふんと鼻を鳴らし、また歩み始める。

    「俺様、腹減った」
    「そうだな。早く帰ろう」
    「割いたヘビの腹からごろごろヴィータが出てくるの見たら余計だぜ」
    (そういうものか…?)

     話しながらふと、昔の記憶がよぎった。こうして黄昏時に、誰かと家まで歩いた思い出。

    「なあ、ベリトは」
    「ん?」
    「小さい時のさ、帰り道の思い出とかあるか?」
    「そりゃある」
    「そっか。やっぱり一緒だな」

     心の中では、ベリトのことをどこか「メギド」と区切っていた部分がある。でも、ヴィータに生まれて育ったことは自分と何も変わらない。邪本の時や今日だって、協力して乗り越えられた。
     おんなじだ。勝手に抱いた親近感を、彼に伝えようか迷っていると、

    「手出せ」

     振り向いたベリトから急に手が差し伸べられる。
     戸惑いながらも従うとぎゅっと繋がれて、疲れた体をぐいぐいと引っ張ってくれた。

    (なんにも言わないんだから)

     それもベリトの優しさなのだろう。思わず笑みがこぼれる。
     こういうふうに誰かと手を繋ぐなんて、本当にいつぶりだろうか。子供の頃くたくたになるまで遊んで、夕闇の中手を引いてくれたのは誰だっけ。

    (…誰、だっけ)

     思い出の中にある温かい大きな手は、祖父。泥で汚れた手は、友達。細く小さな手は好きだった女の子。

    (でももう、誰も)

     その誰とも、もう手を繋ぐことは出来ない。
     じんわりと夕陽が滲む。目を閉じてもう一度開けると、きらきらと輝く水面のように屈折した。手を今、繋いでくれている彼に伝えることがあるのに、言葉がうまく出てこない。

    「…ベリト」
    「ん?」

     昨日、ベリトのことを寂しがりだと言った。けどそれは今の自分も同じなのかも知れない。
     今日一日たくさん遊んで、冒険して、手をつないで共に帰る今も、足りない。満たされる前になにもかも消えることが怖かった。
     伝えなきゃ。必死の思いで声を振り絞る。

    「俺、ベリトのこと、もっと知りたい。もっと近くがいいよ!」

     ベリトはぴたりと足を止めたが、無言のまま振り返らない。
     返事に困っているのか、無視されてしまうのか。なにも言えなくて、ただ背中を見つめた。

    「少しは俺様の気持ちがわかったようだな」

     そう呟くとベリトはソロモンの手を引いた。
     向かい合って、ベリトがその顔を覗き込めば目を赤くした少年は視線をそらし、はにかんで俯く。その生きた少年らしい仕草が好きだった。

    「なら来い。これからはいちいち確認すんなよ」

     ベリトの言葉に安心したのか、ソロモンが遠慮がちに胸に頭を押し付けてくる。

    「ベリト」

     名前を呼ばれて、思わず口角が上がる。無垢なものだ。きっと思いもしないだろう。ベリトもまた舞い上がっていることに。
    いっそこのまま、自分の体に溶け込ませたいほどだと思っていることに。

    「クク、寂しがりめ」
    「ベリトと同じだよ」

     そうしているうちに夕陽は完全に姿を隠し、月が現れ、湖面は凪いだ。

    「暗くなっちゃったな」
    「テメェ、夜になる前に帰れたことあるか」
    「ない…かな」
    「だよな」

     やっぱりおんなじだ、と笑い合い、並んで歩いた。
     星空の下、手を繋いだまま、次の冒険の約束をしながら。
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