かわいくても、きけんなこいぬ 仔犬はとても耳が良い。大きな耳を立てて、主であるヌヴィレットの言葉一つすら聞き逃さないように常に周囲の音を聞いている。その成犬にもあるその癖をヌヴィレットは「ほどほどに」とよく忠告している。それは仔犬が聞いても面白く無い話ばかりが聞こえてくるからだった。ヌヴィレットの職場では特に。
『待て』を言われたリオセスリはドアの前で待っていた。ほんの少しの間だけ、とお気に入りのノンビリラッコのぬいぐるみを抱えて大人しくしている。こつこつと行き交う人がリオセスリを見て、普段の彼を知っている人からすれば随分可愛らしい姿をしているせいか「かわいい~」「ヌヴィレット様を待っているのね」と言葉が聞こえた。ここにはヌヴィレットを悪く思う人間は殆どいない。あのひと程、公正無私に物事を見るものは居ないからだ。彼は贔屓をしないし、正当に評価をする。駄目なものは駄目だと言い、良いものは良いと言う。けれどそれが、面白く感じない者がいるのも事実だった。
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