杜松実の自白薬を添えて 真夜中のホテル・レバリーは乾いていた。先程抜けたばかりの廊下を振り返ると、そこは控えめな照明が淡く光を放つのみ、静まり返った空気に満ち満ちている。完成された空気だ。時計なんて見なくても一歩足を踏み入れれば肌で時刻を感じられる。夜中にふと起きてしまって、水を飲むためだけに部屋を出る、あの感覚。
穹はそれほど暗闇が好きではない。どちらかというと賑やかな場所が好きだ。けれどもラウンジは眩いばかりで空虚である。そもそも夢境を売りにしているのだから、(ロビーを除いて)現実のレバリーに留まる旅行者は元よりそれ程多くはない。だというのに昼夜問わずラウンジだけは光量を保ち、いかにも暇そうにグラスを磨くバーテンダーをこれでもかと照らし出している。ただ、それだけだ。絢爛さに反してあまりにも寂しい空間だった。階段脇のステージ上のグランドピアノは沈黙を貫いている。それと遊んでいたあのピアニストは、今はもう夢の中だろうか。
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