三途のお嫁とチョコレート「はい、バレンタイン!」
珍しいことに、タケミチは弁当を置いて帰らず皆に手作りチョコ菓子を配っている。
「人妻からのチョコなんで、あんまり嬉しくないかもですけど!」
「え~、蘭ちゃんうれしー♡ お返しにディナー行く?」
「いいな兄貴、最近できたあのホテル取るか?」
「蘭くん竜胆くんとは絶対行かないっすね。場所だけとって下さいよ。チヨくんと行くんで」
「釣れないなぁ」
「俺らの誘い蹴るとかお高く止まりやがって」
口ではグチグチ言ってるが、嬉しそうにタケミチにまとわりついている。
それをニコニコしているタケミチだが、珍しい事に心底嫌そう、と言うよりも嫌悪感を滲みだしている。このバカ兄弟、只者ではないと思っていたが、人を疑う事を知らない南極ペンギンみたいなタケミチに嫌悪感や敵意を持たせるなんて才能だ。
「……これ、何……?」
「豆腐で作るチョコケーキらしいです! 体に良さそうだったから。マイキーくん甘いものばっかり食べてるし、ちょっとでもヘルシーなの探したんですよ」
マイキーが貰った透明の袋を早速開き食べ、止まっていた。
その声には戸惑いと不味い、という含みがはいっている。
ボスはこういうのが大っ嫌いだった。食への冒涜。材料の無駄と1度切れていた。暴れるはしないが、タケミチへの好感度爆下がりだろう。
「不味かったかな……? すみません……」
流石に不味そうな態度にタケミチはしょんぼりし、そんなにも悪い味かと食べる。
「んーヘドロ。まぁまぁだ」
やはり豆腐は豆腐。どれだけココアパウダーを使おうとこいつは豆腐を隠しきれてない。食に関してこだわりは無いのでそういう物だと思うと食べられる。
スイーツ男子のマイキーからすれば邪道だろう。
ずっと黙って齧ったそれを見つめていたマイキーが口を開いた。
「……タケミっち……そんなに俺の体心配してくれて……。結婚する? 俺の健康管理お嫁さんになってしてくれる?」
「ンギイィイイ!!!」
薬をキメた時以上の変な絶叫が出る。ついにここまできやがりましたか?!
「あはは! 俺、もう春千夜くんのお嫁さんなんでごめんなさい。三途武道なんすよ?」
ジョークと受け取ったのか面白そうに笑った。
「え? 三途武道って……三途の弟って意味じゃなくて?」
こっ、コノヤロウ!! 人妻属性ブチアゲ過ぎて新しい世界線を開いてやがった!!
「えっ、チヨくんのことお兄ちゃんって呼ぶんすか?! ち、チヨ兄ちゃん……」
照れたタケミチはこちらに向き、戸惑いつつ放たれた言葉の暴力(光属性)に心臓を押える。
「ヘドロっ……っ、うっ……!!」
止まったかと思った。
俺まで新しい扉を開きそうになった。と言うより開いた。
「俺も! 俺も! リンお兄ちゃんって呼んで!!」
「蘭兄って呼んで~♡」
「嫌っすね」
キッパリと断るタケミチだ。
「今度、お兄さんにお付き合いのご挨拶行かないとだなタケミっち」
「俺、お兄ちゃん大好きだからマイキーくんを紹介出来ないかな!!」
「タケミっちの意地悪……」
「ごめんねマイキーくん?」
よしよし、とマイキーの頭をタケミチは撫でる。その手に嬉しそうに頭を擦り付け、甘える猫のようだ。
「ん、タケミっちだから許してあげる……」
「それじゃ俺もう帰ります! 居座ってしまってごめんなさい。皆さんこれからもお仕事頑張って下さいね! チヨ兄ちゃんお仕事頑張ってね!」
「ばっ……クソドブ……!?」
頬にチュッとして行ってしまう。
数少ない今月一回目の夜はコレで決まりだな……!
「あの……ボス……」
「……何、三途……」
「ありがとうございます!」
「死ねよ三途……マジで死ね」
珍しくマイキーが夫夫間のいい仕事をした! 流石俺の王!!
家に帰ってもお兄ちゃんと呼ばれ、ベッドの中でも「お兄ちゃん」と呼ばれ、大変興奮するシュチュエーションだった。
ボス! 本当ありがとうございました……!!