モブが🎍に絡んでボコられるモブしてんの話
ちょっと聞いて欲しい。
車好きな俺は深夜のドライブが好きだった。ドライブと言っても普通のドライブとは違う。
ノロノロ運転の車に絡んで公道レースになるか、困ってビビる相手を見るのが好きだった。
だって気分がいい。
悪趣味というやつや、いつか痛い目にあうと言われていたがそんなこと知ったこっちゃない。
そんな気持ちでその時までは過ごしていた。
その日もダチと一緒に深夜のドライブ。
そうしたら黒の何年も前の型落ちした軽が初心者マークをデカデカと貼り付けノロノロ走っている。
これはいい獲物だ。
スピードを上げ追い越し目の前に割り込み急ブレーキをかけてやる。
運転手は地味な男だとバックミラー手が確認できた。
焦った様子に車内でダチと笑い合う。
「ハンドルギューってして焦ってんじゃん!」
「すげーマヌケズラ!道塞いでやろうぜ!」
「いいな!」
そのまま停止してやると一緒に止まる。
どうしたものかと慌てているとバックして追い越そうとするのでこちらも追い抜かせないようにバックしてやる。
初心者のバックなんてそう簡単に上手くいかない。
「あいつ泣きそう~」
「泣きだしたら受ける」
ケタケタ笑い合う。
クラクションでも鳴らすか?鳴らしてきたら怒鳴ってやろうと中の様子を見ているとスマホを取りだし電話。
「あいつポリに電話してる?逃げるか?」
「俺ら別に止まってるだけだし構わねーよ」
数分電話したと思ったら強引にハンドルを切り追い越した。
軽い衝撃とギギかボコか音がなり、スられたのが分かり頭に血が上る。
「あの野郎……!!!」
「ははは!スられてやんの!」
「ふざけんな!!」
それなりのスピードで逃げるが型落ち軽など簡単に追いつくクラクションを鳴らし、ギリギリまで車体を詰めて煽ってやるとコンビニの駐車場に逃げ込みやがる。
いい逃げ場所だが、それはスられてなかったら、の話。こっちは被害者だ。
「テメェコラ!!降りてこいやクソ野郎!!」真横に停車し、勢いよく車から飛び出しガラスをぶっ叩くと顔色の悪い男はスマホを握りしめ半泣きだ。
思ってたより若い男だった。気弱そうでこれは吹っかけられるとニヤついしまう。
「車ぶつけて逃げれると思ってんのか?!今すぐ100万もってこい!!」
ダチと2人でコイツの軽を蹴ったりドアを開けとうと何度もノブを引っ張る。
騒ぎに気付いたコンビニ店員が店内から外をかるく伺ってくるが入口からは少し離れて見えにくい位置で停車したおかげでちゃんと見えない様子だ。
「タダで済むとおもってんじゃねーぞ?!俺は梵天にダチがいんだよ!!テメェ逃げられると思ってんじゃねぇぞコラ!!」
そうこうしているうちに1台の黒のセダンが駐車場に入ってくる。
そこから降りてきたのは車に似合わない、いや、逆に似合っているのか?派手な髪色の3人。
ピンクと紫。ホストか何かか。
そいつらがコチラに目を向け、近寄ってくる。
スーツの癖に難いのよさが何となく分かる。
「なっ……なんすか……?」
「こんばんはー。なに?トラブってんの?」
紫髪の短髪がヘラヘラしながら話しかけてくる。
「別に……ちょっと当て逃げされたんで、話つけようとしてるんすよ……」
「そいつは大変だ。やっほー」
紫の長髪が短髪に似た笑みを浮かべ軽の中に手を振る。
「アンタらにはカンケーないんで。コイツと俺らで話つけるんで大丈夫っす」
人当たりのいいダチが対応する。
「あー、そうなの?でもさー俺ら超親切だからさ?」
「そうそう」
「な、サンズ?」
短髪が言い、長髪が頷く。
後ろの方に隠れていたピンク髪に2人が目配せすると不機嫌な顔を更に歪める。
「俺に迷惑かけてんじゃねぇよクソドブ!!」
その瞬間腹に衝撃。呼吸が一瞬止まり、喉に凄まじい痛みが走る。
「っ……?!っガッ!!」
喉が潰れて声が出ない。
「ちょっ……みんなやめてください……!!」
運転席から男が慌てて出てくるのが見えるがすぐに腕を売ろ手に締め上げられ、腹に膝がめり込みさらに呼吸が出来ない。
「うっせーカス!!だから1人でドライブ行くなっつったんだ!」
「はー?蘭ちゃんを動かして、やめてください~って何?そこは蘭君つよーいでしょ?」
「俺らで良かったじゃん。お前の飼い犬と飼い猫が行くってうっさかったぞ」
何気ない会話なのに手と足が止まらない。
気付けば彼らの乗ってきた車の他にハイエースがこの瞬間を周りから隠すように止まっている。
ダチと共に地面に蹲る。
「タケミチはトラブルホイホイなんだから1人で行動すんな」
「ううう……竜胆くん、俺も好きで引き寄せてないんすけど?!」
「マイキーが俺が行くって聞かねぇ……ドブの存在ごときで首領の時間を浪費すんじゃねぇ!!」
「サンズはタケミチに厳しい~。蘭ちゃんはタケミチに優しいから、マイキーに俺の事推しておけよ?おい、コイツら運んどけ」
朦朧とした意識の中、誰かが手足を持ち上げ結束バンドだろうか、後ろ手に縛り上げ足首も拘束した。
「えっ……2人をどこに連れてくんすか……?」
「てめぇには関係ないことだ。知ってどうすんだよ」
「俺は海水浴がいいと思う」
「登山って気持ちいいんじゃね?」
誰の声かも分からない。ビニール袋を頭にぶさられ俺は死ぬんだ、それだけがわかった。
「……酷いことしないでくださいね?!俺、確かに悪いことしてないけど怖い思いしたけど、2人もこれ以上酷いことされる程悪いことしてないので!あ、あと……この人の知り合いが梵天だって……」
「うっせーヘドロの分際で俺に命令すんな!!いいからコイツら連れてけ」
「うちにこんなカスと付き合ってるやついるのか?マジなら粛清だなー。免許証、車検証とっとけ」
「はー疲れたわ。あ!蘭ちゃんいいこと思いついたわ、残業代タケミチ出せよ。マイキーかココから引き出せんだろ?1本用意しろ」
「えぇ?!無理っすよ!!残業代……え、エナドリでいいっすか……?」
「今夜は頑張って欲しいのタケミチ~やだ~タケミチさんのエッチー」
「違っ……!」
「クソだせぇドブの車はクラゲが運転しろ」
「は?!んなダセェ車乗れるかよ!」
そんな声はドアの閉まる音と車の揺れで消えていく。
ハイエースの車内でも何人かから殴られ蹴られ痛くて仕方ない。どれくらい走ったのか、どこかで引きずり下ろされまたそこで暴行。
走馬灯。何故他のやつが止めた時に止めなかったのか。後悔と家族の事が頭をよぎり意識を俺は手放した。
「あんたあれ人じゃない?!生きてる?!死体?!」
「ッ……ガッ……ァ……」
「生きてる!どうしたのお兄ちゃん達?!はやく警察連絡して……!!」
目を開けると樹木が見える。いったい何が……?そうだ。確か昨日の夜ヤバいやつに……。
周りには登山客、と言うより山菜採りの中年が囲んで騒いでいる。
命が助かった事に安堵し、涙が出た。
そのまま救急車がやってきて警察の事情聴取。
全部話したが、コンビニの防犯カメラは機材の故障でその日1日の録画が無くなっていた。
見つけ出された映像は俺たちが軽を追い回したところ。
軽の持ち主に事情を聞いたが、見たヤツではなかった。
男だったはずが、持ち主は女で車は盗難にあっていたそうだ。今朝車が消えていることに気付き届け出を出している。
これだけ立派な暴行の後があるのに警察の処理は泥酔して山に入って遭難。事故として処理された。
もう二度と車は運転しない。