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    tea_w1th_lem0n

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    昔書いてたywpd二次創作が出てきたので供養。

    ywpdみじかいの「東堂の横顔」
    なだらかな稜線のような白い頬はやがて鋭角の顎へと収束する。形の良い顎の上、絶妙な位置に配置された唇は自然な血色で艶やかに紅く、そのすこし上にある鼻は高すぎず、それでいてすっきりと整っている。鼻の頭にかけて伸びる鼻梁はすっとまっすぐに通って涼しげだ。頬の上へと悩ましげな陰を落とす、烟るような、黒く長い睫毛に縁取られた瞳は目尻にかけて吊り上っており、それでいてひどく大きい。光の加減で藍色にすら見える澄んだ瞳は、いまはただ直向きに黒板を見つめていた。

    「荒北と休憩」
    ぱたぱたと汗が落ちる。細い体に纏わりついた青いTシャツが紺色に変色していた。首筋の髪はへたって張り付き、前髪は額にくっついて折れ曲がる。そして、肩で息をしながらローラーから降りた男は、ふらつきながらこちらへやってくると、差し出したボトルをひったくるように受け取るやいなや口をつけた。ぐっと押し込まれて凹んだプラスチック製の容器から、勢いよくスポーツドリンクが吐き出され、男の喉へ飛び込んで行く。ごくごくと嚥下するのに合わせて白い喉仏が上下するのがわかった。

    「新開とうさぎ」
    ヒクヒク鼻を鳴らして、小さな、茶色い体は男の腕の中に収まった。よしよし、かける声はただ、優しい。無骨な手のひらが裏腹にごく丁寧な手つきで背を撫でて、耳の後ろをくすぐった。その姿はまるで、母親のようにも見える。そしてそれは、彼が望んだかたちに他ならないのだ。

    「三年と筆跡」
    綺麗というより几帳面そうな字がまっすぐ並んでいた。見えない四角い枠の中にきっちりと収められた文字たちは教科書のお手本をよく真似て、とめ、はね、はらいに気をつけているのがはっきりと伝わってくる。筆圧が強いせいでノートが文字の形に凹んで、次のページまで跡が残ってしまうらしい。(福富)
    少し丸っこくて可愛らしいので、女子の字のように見える。少し曲がったり、伸ばした線が短かったりして、文字があちこち踊っているような印象を与えるのだが、実際は螺旋の上にまっすぐ並んでいる。はみ出しかねない大きさはのんびりとした気象こそ現れているのだけれど、すこし読みづらい。(新開)
    書道の時間の、お手本のような字だ。流れるような筆致とバランスは美しく、かつ読みやすい。漢字をすこし大きめに、平仮名をすこし小さめに書いてあるのだ。特に平仮名の曲線は優美で、漢字の払いは躍動感さえ感じさせる。(東堂)
    やや右上がりで、乱暴に書き殴られているようでいて、読めないほど汚くはない。続けて書いているのだろうか、払った先や跳ねた先に細い線が残っている。止めも払いも関係なく勢いよく伸ばされて、跳ねだけはぴん、と激しくはねる、独特のクセがある。(荒北)

    「カーボンフレームと小野田」
    炭素樹脂は軽くて強い。化学の問題集に並んだ記述に、ふとあの黄色い車体を思い出した。BMC、といったか。そしてつられるように、その持ち主であるメガネの男の子の顔が頭に浮かぶ。その自転車前のと違うの、そう聞いた私に、「カーボンフレームで出来てるんだって」と教えてくれたときの、満面の笑顔が印象的だった。クラスで、自転車部の子が周りにいないときは少し自信なさげで、うつむきがちな男の子。そう思っていた彼の印象が変わったのは、確かにあのときだった。そして、予想外にも、私の胸の歯車が動き出したのは。正しいものには○、誤っているものは×をしなさい。問題文をなぞったが、頭に入るまでに時間がかかる。その間に、ぐるぐるとまた、あいつの声が頭を回る。「自転車って、速くて、みんなで乗ると、すっごく楽しいんですよ、って、あの、真剣勝負なんですけど、それはそうなんだけど、やっぱり、楽しいんです」二年連続クラスが一緒で、でもきっとあいつはそんなこと別段意識はしていないのだ。かちり、芯を送り出して、シャーペンを動かす。普段より丁寧に丸を描いた。次の試合、観に行こうかな。

    「二年生福富について」
    福富は強い。普段はいっそ天然といっていい自由さなのに、一度ロードレーサーにまたがれば、百獣の王を思わせる風格を纏う。絶対的な強さへの自信ーーむしろ、強者であること、それが彼のアイデンティティであるかのごとく。わたしは平凡な人間だから、そんな彼に憧れるのと同じくらい、彼に恐ろしさを感じてしまう。強さを本心から信じられることは、確かに強さだ。持ち得ることができるのは、真の強者のみ。でも、信じ切っている彼は、いつか自分より強い人間に出会ったとき、どうなってしまうのだろう?薄氷のような危うさは、持たざる者の妬み嫉みが生み出す幻に過ぎないのだろうか。けれどわたしは、それが幻などでなかったことを、じきに知ることになる。

    「敗北について/真波」
    終わったのだと、そう悟った。流れて行くアスファルトからゆっくりと顔をあげた、彼の目に飛び込んだのはライバルの黄色いジャージの背中で、ライバルが躊躇いがちにその両腕を天へと突き上げるその姿だった。
    二言、三言。交わした言葉に嘘はなかったし、いい勝負だと心は震えていた。けれどその端から、軋むような音を立てて何かが壊れて行くのもわかっていた。考えるより先に、体の力が抜けた。補給係のチームメイトの呼びかけてくる声が、どこか、ひどく、遠いところで聞こえたように思われた。
    我に帰ったとき、彼は靴を履き替えもせずに、ふらふらと居場所を探していた。力なんて少しも入らなくて、人気のないところにたどり着いた途端、彼は糸が切れたようにへたり込んだ。そしてその瞬間、じわりと目が熱くなって、景色が歪んだ。
    歪んでもなお、山の上からの景色はひどく美しかった。登ってきた道のりが一望できる。坂を上ってくる選手達の姿がぽつぽつと浮かんでいる。今しがたまで彼もまたその中の一人だったのだという感覚、これもまたひどく遠かった。まだ走っているような気もした。けれどそれがただの妄想に過ぎないことくらい、彼が1番知っていた。疲弊した体も、折れた心も、彼の敗北を色濃く語っていたからだ。
    (なんで?)
    どうして負けたのかな、何が足りなかったのかな。俺は練習してた、一生懸命走ってた、コンディションだって悪くなかった!
    先輩達どんな顔してるかな、俺が台無しにした、叱られるかな、叱られて当然だ、だって俺が負けたんだ!
    それだけじゃない、俺が、俺が坂道くんをインハイまで連れてきたんだ。坂道くんさえいなければ、ひょっとしたら、俺は、箱学は。
    福富さんは駄目だって言ったのに。だって楽しかったから。俺が楽しかったからなんだっていうの?だって、俺が!
    そんなことばかりが頭を駆け巡ってたまらなかった。気付けば涙がこぼれて溢れて、頭ががんがんと痛んだ。タオルに押し付けた顔が熱い。それでもまだ、顔を上げられる気はまるでしなかった。

    「認識について/東堂」
    俺は自由に走れといったんだ。東堂はそう言って山岳を見下ろした。俺はお前に優勝を取らせる気は無かったよ。それはお前が未熟だからでなく、お前が一年だからだ。お前に最後を託さねばならなかった、俺たちの責任でもあるのさ、真波。だから気にやむな。
    それにお前が負けたのはお前のせいじゃない。お前は精一杯やった、相手がお前より強かった。それだけだ。あまり自分を追い詰めるな。お前がやるべきことは、反省という名目で自分を突き刺すことでも、後悔と罪悪感に縛られて空回りすることでもない。自由に走れ、真波。楽しめ。それこそがお前を強くする。お前はお前らしく走ればいいんだ、だってそれが1番速いんだから。無論、俺には負けるがな!
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