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    花屋と女子高生3

    現パロ
    お花屋さん晴信(記憶あり)
    ×
    女子高生政子(記憶なし)

    続きです!

    折角政子に再会できたというのに、名乗るどころか店の場所さえ教えていない。
    もう一度会えるだろうかと例の駅前に出店したかったが、店を空け続けるわけにもいかない。
    昼下がり、晴信は店の前で仕入れたばかりの蜜柑の苗木に水をやりながら、溜息を吐いた。
    足元で柴犬のまさがきゅんきゅん鼻を鳴らすたびに遊んでやる為手にしたじょうろをぴゅっと振って水をかけようとしてやると、まさは喜んでくるくる回ってそれを避けたり、わざと浴びようとした。
    晴信はそれを心ここに在らずといった感じで行っているのだった。

    「……はぁ…」

    あの日、諦めていた日暮れ。
    通りかかった政子に夢中になって店のネームカードを薔薇の花束に添えわすれてしまったことは、人生最大の過ちである。
    政子からこちらを探してくれるわけがない。
    五百円で薔薇の花束を押し売りしてきた髭もじゃ花屋の三十路男など、何が嬉しくてあのように可愛らしく同級生からも人気のある女子高生が気にかけて探すというのだ。

    「……だがなぁ…」

    ここで諦めてどうする…と、晴信は唇をきゅっと結び、思った。
    約七百五十年ぶりの再会なのだ。
    恋焦がれていたのだ。
    奇跡的に同じ時代に生まれたのだ。
    たった十三歳の年の差だ。
    そんなもの、あの時代からすればさしたる差ではない!
    あの時代からすればだが!!

    「すみません」
    「はいいらっしゃーい…ぁぁぁぁあ!!??」

    思考を邪魔され少しやけっぱちな間の抜けた声で、晴信はくるりと客の方を振り返った。
    そこに立っているのがまさに今恋い焦がれていた愛しい女でなければ、無様にじょうろを取り落としたりなどしなかっただろう。
    がらんごろーんとじょうろはアスファルトを跳ねて、女子高生の水色のスニーカーの方へと転がった。
    足先に水が飛び、晴信はぼっと頰を染めた。

    「もももも申し訳ない…!すまん!」
    「いえ。中まで濡れていないので」

    凛とした声である。
    はぅっ…と息を呑みながら顔を上げると、きりっとした顔付きの政子がそこにいるではないか。
    晴信は頰だけではなく額も首も耳の先までも何もかもを燃え上がらせた。
    政子はセーラー服姿だった。
    白に青のラインの入ったエナメルバッグを斜めがけにして、やはり竹刀袋を肩にかけて背中の方へとくるりと回している。
    政子は遠慮がちに口を開いた。

    「あの、一昨日、駅で花を買わせてもらったんですが…」
    「あっ!はっ…!勿論覚えてるよ…!薔薇の花をもらってくれた子だ…」
    「はい、そうです」

    政子の表情が和らいだ。
    晴信の心臓はあちこちへとびゅんびゅん飛び回っている。

    「よかった。検索して色々探して、この店だったのかなと思って」

    びゅんびゅんしていた心臓に、今度はびぃんと矢が突き刺さって矢羽がびんびん震えた。
    まさか政子の方が探してくれていた!?
    何故!
    どうして!?
    もしや、記憶がー…。

    「折角お花を買わせてもらったので、貴方に花が長持ちするお世話の方法を聞けたらなと思って。探していたんです」

    転がっているじょうろを、まさがボールのように転がして面白がり始めた。
    がらーんごろーんがらーんごろーんと、やたら喧しく音を立てる。
    だがそれも、晴信の心臓の音と比べればさしたる大音量ではなかった。

    「わ、わざわざ?」

    今の時代ネットで調べれば切花の延命方法などいくらでも出てくるだろう。
    名前も知らぬ、店もわからぬ…そんな男を探す必要が、はたして、あっただろうか。
    晴信が胸に手を当てぜぃぜぃ尋ねると、政子は形の良い眉を僅かに下げた。

    「迷惑でしたか?」

    晴信は食い気味に首を左右に振りたくった。
    すると政子は安堵したように息を吐き、ふふっと笑んだ。
    晴信は足元がくらくらして、しゃがみ込みそうになるのを踏ん張って耐えた。

    「よかった。貴方は花を愛しているような気がしたから、貴方に聞けたらなと思ったんです」

    政子の微笑が傍にある。
    流石にそうはしないが、手を伸ばせばその頰を撫でて髪に触れられる距離にある。
    晴信は鼻の奥がチリチリ焼けているような気がした。
    その焦げ臭さが目を熱くして、涙が溢れそうになった。
    誤魔化すために鼻を啜る。
    そして、髭の下で破顔一笑した。

    「花のことなら任せてくれ。私はー…安達晴信だ」
    「厳原政子です。綺麗な薔薇をありがとうございます。安達さん」

    がらごろがらごろと、まさがじょうろを蹴り飛ばして駆け回っている。
    まるで気にならない。
    政子だ。
    政子。
    政子だー…。

    「早速…世話の仕方を教えようか。店の中にどうぞ」
    「ありがとうございます、お邪魔します。ほらわんこちゃん、君もおいで」

    政子の優しい呼びかけに、自分が掛けられた言葉でないにもかかわらず、晴信は耳が蕩ける思いだった。
    政子が来てくれた。
    また会えた。
    お互い知るところとなった。
    夢のようだ。
    幸せだ。


    帰りがけ、政子は〈先輩の引退式で渡す花束〉の予約をしていった。
    また会えるということだ。
    晴信は天にも昇る心地で、今まで生きてきた中で一番幸せな一日を終えたのだった。
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