一番弟子に物陰でぱこぱこされる石川定信の話1一番弟子に物陰でぱこぱこされる石川定信の話
四十の男盛りである石川は女遊びが好きな方ではあったし、女を虜にするのも得意な方であった。
今は特に長尾の弓取の指南役としての立場もあるので、求めれば求めるだけ女と遊ぶことができる。
特定の相手は作らない…それが主義だ。
「休まず射かけよ。儂が止めよと命ずるまで!」
厳しい声で命じ、俵の的と向き合う弟子達の後ろを行き来する。
石川が常日頃から厳しく接している彼らの弓術はそれは見事なものであったが、延々と放ち続ければ肩も腕も落ち、指の力も抜けて、正確さが失われてしまう。
戦においてもそのようになることがあるだろう。
その極限状態において的を射抜く能力が、長尾の弓取りとして必要なのだ。
その厳しい鍛錬にて石川の眼鏡に叶うた者は数少ない。
四人の弓取のみ、丁度五日前に行った同じ鍛錬において石川が良しを授けた。
彼らは今回の鍛錬には参加せず、無心で矢の補充を行っていた。
…ただ一人を除いて。
「……先生」
立ち止まって腕を組み弟子達の背を一つ一つ鋭いまなこで見つめていた石川の背後に、一番弟子の長尾博基が立った。
「なんだ。お主も矢を運んでやらぬか」
「三人で足りておりますよ」
弟子とはいえ他人に背後に立たれることに、良い気などない。
石川は軸足を変えて気を紛らわせた。
が。
「先生…五日前のことですが」
博基が石川の耳に唇が触れる程接近し、囁きかけてくる。
ぞぞっと悪寒が背骨を駆け上り、石川は肩を捻った。
だが両の二の腕が掴まれてしまう。
博基の体と石川の背が、ぴたりと密着した。
…五日前のこと、忘れようにも忘れられぬ。
よもや愛弟子に性的搾取されていたなどという悲劇を突き付けられた日を、忘れられるものか。
その日石川は、酒に薬を盛られ、結果博基に犯されたのだ。
「皆に自慢したいので、皆にここで申してもよろしいですか」
脅しだろうか。
脅しだろうー…。
「先生が私の情人になったと知らしめたいのです」
…脅し?
あの日に背筋が凍るほどに甘ったるい、独占欲がごぽごぽ沸き立つような愛の告白をされたが、それはこちらを揶揄っているとばかり思っていた。
だが、違うのか?
いや、まさか。
「先生、先生…」
大の男に体を密着されて抱き込まれては、流石に振り払うのは難しい。
とはいえ弓を補給する三人にもその弓を真剣に射続けている弟子達にも現状を絶対に目撃されたくないので、なんとかこの腕から抜け出さねばならぬ。
だが博基の手が腹の前で組まれてしまい、いよいよ進退極まる。
「先生、ここに…」
矢を番えてそれを引き絞る博基の美しい指が、石川の臍の下辺りをこすこすとくすぐった。
そして指の腹で慈しむように撫でてきた。
耳には熱い呼気。
そして尻の谷間には、ごりっごりっと竿状の硬いものがー…。
「…私の子種が放たれて、先生、全身を痙攣させて、何度も…何度も何度も、何度も…極まっておられましたね…」
石川は羞恥に目元を紅蓮に染め上げた。
その目尻に博基の長い舌が伸びてくる。
れろっと舐められた瞬間、悪寒と共に、あの日の快楽が腹の底に強制的に思い起こされた。
「ッ…離さぬかっ…」
「ですが先生…、先生の匂いを嗅ぐと摩羅が痛くて仕方がないのです…先生、裏手へ回りませんか?」
道場の裏手は回ってしまえば、誰かが探しに来ない限りは道場の壁と塀に挟まれて完全なる閉鎖空間、死角である。
そのようなところへ連れ込まれてはそのままなし崩し的に抱かれてしまー…いや、あの時と違い薬を盛られたわけでもない。
抵抗はできる。
だがわざわざ犯される危険をー…。
「早くなさらないと、先生…はぁ、先生…頸から香る汗の匂いが堪りませぬ…」
愛弟子は緩く腰を振り、袴の中ですっかり隆起した魔羅を尻の谷間で扱かんとしてくる。
「早くなさらねば…、大きな声で貴方とのことを皆に叫んでしまいそうだ…」
やはり脅しではないか!
石川は腹を撫でてぞくぞくの要因となっている博基の手の甲の皮を指で摘んでぎりぎり捻った。
博基はぱっと手を引いた。
石川は体ごと振り返り、博基の胸ぐらを掴んで鼻面がぶつかり合う距離まで引き寄せて唸った。
「話をつけねばならぬ…!来い愚か者が…!!」
込められる全ての負の感情を込めて怒りをぶつけたというのに、博基は頰を綻ばせて〈あの夜以来の二人きりですね〉と嬉しそうに応えるのだった。
……
続く?