今のところは平和(彼の感覚では)ザレラムの命令で北の大陸からファレナ女王国に来て太陽宮で王子殿下の同録係として雇われた。あっさりと。
よくもまあ外部のよくわからない人間を雇ったなとなったが理由を察した。
貴族の派閥争いが王宮内部にも来ている。
「ハルモニアに比べたらマシだけど」
「貴様の自国と比べるな」
マークが定期的に報告を送ってくれるけれど、ハルモニアより楽ですよここ、とゼクセンのことを書いてくれているとサルバが前に教えてくれた。
アイツもゼクセンに行ってちょっと長い。
書庫にて、つい先ほどまで命を狙われていた王子殿下は命を狙ってきた暗殺者を殺した俺に対してはっきりと返している。糸を使って、首を絞めて終わり。
使用人のフリをした暗殺者は死んでいる。
「人形にしようかなぁ」
「止めろ」
「オルハゼータ様が崩御してからさらに荒れてるね」
今のところ、女王の座は空位だ。オルハゼータ様が死んで本来ならば女王の座は長女であるシャスレワール様が継ぐはずなのに次女であるファルズラーム様がその座を欲しがっている。この国はバロウズ家とゴドウィン家という二大貴族が特に強くてファルズラーム様はそそのかされたところがあるのだけれども。
話ながら死体を糸で巻いて”しまって”おく。
「アーメスが隙をついてきそうだが」
「まだしばらくは平気だよ。戦争はヒトも金もかかるから。それより内部だ」
向こうは五大部族の綱引きだし、今のところは大丈夫だ。
「どう見る」
「王子に弟か妹が生まれるからまずそれを祝わないと」
「……そっちか?」
「大事だよ。それで動きが決まるし何よりお兄ちゃんだよ王子」
王子の母君であるアルシュタート様は妊娠している。この国は女子に継承権が当たる。ファレナ女王国だからだ。だから王子は王族だけれども立場が弱い。
「そんなにいいものか」
「昔、レンが好んでた双子が互いに支えあってたって」
俺のもう一人の人格であるレン。
あの頃はレンに体を貸していて俺は料理ぐらいしかまともに起きなかったけれども、クールークを巡る戦いにも参加していた。罰の紋章を宿した双子。
今も生きているはずだけれども。
真面目な話をすれば、女子が生まれれば場合によってはファレナを継ぐことにもなるかもしれない。これからの展開次第だが。
「何にせよ。待機か」
「そうなるね。戻ろうよ」
朗読係として俺はここにいる。王子殿下の味方として。王子が遊んでいたところを発見しましたと言って終わりだ。
俺の認識としては平和な日々は今のところ続いている。