聖夜は君と【聖夜は君と】
日本のクリスマスはカップル向けイベントになってしまった。
そうなってしまったのはつい最近だと田山花袋は聞いている。花袋が生きていたころ、クリスマスというのは男のイベントだったからだ。
「雪だ」
「本当だ。花袋君。ホワイトクリスマスだよ」
帝国図書館の裏門にて田山花袋は夜空から降ってくる白色を見た。隣にいるのは北村透谷だ。
透谷は白を基調としたクリスマスのドレスを着ている。花袋の服はサンタクロースの衣装だ。
花袋は帝国図書館のクリスマスを何度も経験しているが、今年のクリスマスは文豪の一部がサンタクロースやサンタクロース関連のものになっていた。
サンタクロースになった文豪たちは児童館やお年寄りのところなどに行き、クリスマスを祝いに行っている。奉仕活動というべきかもしれない。
そうなったのも、クリスマス前にブックサンタをやってみようということになったからではあるが。
ブックサンタとはお金を寄付をしたり本を選んで寄付したりして、本を生活が大変な子供たちに配るというものである。
「クリスマスのイベントは成功したから、後は俺たちのクリスマスだな」
「うん。クリスマスパーティだね。終わって次の日にツリーは片付けるみたいだけど」
「夢野が乗り気だったな」
「あの人、クリスマスに短冊をつけるのが気に入らなかったみたい」
どうやらと透谷はつけているが、気に入らないものは気に入らないだろう。短冊は七夕で日本の夏のイベントだ。
去年のクリスマスは手違いでクリスマスツリーを片付けるのが遅れてしまって、岩野泡鳴がじゃあ短冊ぶら下げようぜと夏用に取っておいた短冊を
そばにおいてツリーを笹飾りにしてしまったのだ。
夢野久作はサイコパスなところはあるが自分なりの図書館の美学を持っている。
その美学に短冊を付けたクリスマスツリーは入らないようだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「パーティには間に合った?」
「おう。何とかみんな時間通りに来るはずだ。吉川が遅れるかもって言っていたが」
サンタクロースの服装をしたルイス・キャロルとトナカイの角を付けたサンタクロースの姿をしたアルチュール・ランボーが裏門へとくる。
二人はここから離れた児童館の方にサンタクロースとトナカイとして本を届けに行っていた。
これから文豪達や図書館スタッフでクリスマスパーティが行われる。忘年会もほんの少しだけ兼ねていた。
「何かあったのかな」
「サンタクロースに扮してお年寄りのところを回っていたら倒れたお年寄りを発見したり、怪しいと想った家を訪ねてみたら強盗が襲っていて、
強盗を撃退していたって」
「……吉川さんだから」
「嘘じゃないよね」
キャロルが心配をしていたが透谷が事情を話す。
吉川英治はサンタクロースの服装でご老人方のところへ行っていたのだが、トラブルに巻き込まれたらしい。そのトラブルも彼ならば
粉砕してしまうところがあった。吉川だから。ランボーとキャロルが顔を見合わせる。
「好きな人、大事な人と過ごすのがクリスマスだし、幸せに過ごしてほしいよね。降誕祭だし」
「実際はそうなんだよな……聖夜。救世主が降誕した日だな」
「そうだよ。日本は……お正月があるからすぐに終わらせるみたいだけど」
「お正月もいいと想うけど」
この日はキリスト教のイベントで救世主が降誕された日だ。この日じゃないかみたいなことにはなっている。
日本は正月があるのでクリスマスが終わればすぐに正月に切り替わるのだが、西洋ではクリスマス、クリスマス関連のイベントは継続している。
その代わり、新年を祝うのは三が日とかはなく正月ですぐに終わる。
「お正月は旅行に行くんだ。君たちも?」
「ドイルさんを保護者にしていくんだ」
「いたほうがごまかしがきくって」
「大事だよな。誤魔化し」
ここにいる者たちは年末年始は旅行に出かける。帝国図書館は年末年始休暇に入るからだ。
やや長めの休みになる。雪が、降り続けている。
「雪、積もらないみたいだけれども」
「雪かき……今年、来年はしないといけないかな」
「まだ分からないけれど」
「したくないよな」
クリスマスについて、これからについて彼等は話す。まだ、聖夜は終わらない。
賑やかなパーティが待っているし、大切な人と過ごす時間も、待っている。
【Fin】