【Mas lejano 2】
長い永い。旅をしている。
「ただいま」
「学校は何時から?」
「明後日からになるわ」
「おかえり。セリス」
コサジタウンの家にセリスは帰ってきた。のんびりと徒歩で帰宅した。
たそがれのすがたのルガルガン、クレプスクロがセリスの後に家に入る。荷物はあらかた出してしまったようだった。
今回の引っ越しは飛行機で地方をまたぐため、家具は新しいのを買えばいいと切り替えて、必要なものだけを持ってきたのだ。
エステルが母親に学校について聞いていた。こちらは入学用の書類を送っていたのだが、アカデミー側の手違いで入学手続きが終わっていなかった。
セリスが問い合わせに行ったお陰で向こうがミスを気づいて、手続きは無事に終わった。エステルの年子の弟であるディートも来る。
リビングルームに四人が集まる。
「クレス」
エステルがクレプスクロの頭を撫でていた。セリスはこのルガルガンに黄昏という意味であるクレプスクロと名づけだのだが、エステルは発音が出来ずに
クレスと略していた。
「明日にはクラベル校長が来てくれて説明をしてくれるから。明後日には入学だ」
「余裕があった方がいいよ。いきなり寮生活みたくなっちゃったけど」
「テーブルシティからコサジタウンまでは軽くなら歩けるが毎日は大変だからな。イキリンコタクシ―があってもきつい」
予定としては明日、クラベル校長が直々にアカデミーに関する説明をしにきてくれる。
姉弟はアカデミーの寮の部屋を借りることにした。コサジタウンからテーブルシティまでは歩けない距離ではないが、毎日歩いて登校をするのは大変だ。
パルデア地方で必要なものは買いそろえるだけだったし、寮の部屋の分や自室の分をそろえていくということになったようだ。
エステルもディートもガラル地方にいたころに起きた事件の影響で親から離れて暮らすのには慣れてしまっていた。
「ガラル地方だとアーマーガアタクシーだったけど、ここはイキリンコ……? なんだ」
「トサカが着いたポケモンだな。見かけることもあるだろう。パルデアにはアーマーガアの天敵がいてな」
「いるんだ。天敵」
「アオガラスぐらいまでは見かけるがアーマーガアは滅多には見かけないな」
――あの場所にはいたけれども。
最後の言葉は心の中にしまっておく。エステルもディートもまだイキリンコは見ていないようだ。パルデアにいれば見ることにはなる。
「校長先生が説明をしてくれるみたいだけれども、その時にポケモンももらえるのでしょう」
「アカデミーは入学した生徒にポケモンが当たるからな」
「ポケモン。当たるんだ」
「楽しみだね。エステル」
「……ポケモントレーナーとポケモンバトルをすることになったら、よろしくね。ディート」
明日には説明を受けることになる。二人の母親がポケモンについて話す。セリスは頷いた。
アカデミーの生徒は入学すればポケモンが一匹当たる。エステルとディートはポケモンがもらえることにわくわくしていたが、
姉の方はか細い声で弟に頼みごとをする。
「解っているよ」
エステルもディートもガラル地方でポケモンのことは学んでいた。クレプスクロがエステルにすり寄る。心配をしているのだ。
彼女は引っ込み思案なところがある。ディートもそのことが分かっているため、承諾していた。
死んだと想っていた。
だが、生きていた。
『そこ』は余りにも冷たくて、『そこ』は余りにも暗くて。
さいはてのおく。
たからものがあるはずのばしょ。
(どうして……)
辿り着けたことが奇跡。
この場所に宝があると誰もが信じた。信じたけれども辿り着けた者はいなかった。
たまたま、たまたまだ。帝国が冒険者をかき集めていて、暮らしている場所にも援助してくれるというので名乗り出て、何人かと会って、
奈落へと飛び込んだ。
(私は生きているんだ)
辿り着いた場所。
数多の犠牲の果てにたどり着き、自分も死にかけたのに、死んでいない。
体の傷が癒えていた。
何故、と問いかけた先、視界を移す。
彼女は。
『それ』を両目に入れる。
天井。
ここが家であることにセリスは安堵を覚えた。久方ぶりに帰ってきた古郷での久方ぶりの朝である。予定としては姉弟が入学するまで、
家にいることにはしていた。目処が立ったらパルデアを巡ることにはしていた。およそ、二十年ぶりの故郷だ。
セリスの部屋を一家は用意してくれて、彼女はというと部屋にはろくにものは置いていない。長年の生活でミニマリストにはなってしまっていた。
傍らにはクレプスクロが眠っていた。
スマホロトムで時計を確認する。時代が進んでいた。パソコンを使わなくてもスマホがあれば何でもできる。
まだまだ転がっておくことにした。
数時間後。
「はじめまして。エステルさん。ディートさん。アカデミーの校長のクラベルと申します」
「エステルです」
「ディートです」
「校長先生。わざわざご足労を」
「こちらのミスですから」
「ミスとはいえ、来るのが凄いな」
ぎりぎりまで寝ていて、起こされて、着替えて、食事をとって待っていたらクラベル校長が家を訪れた。エステルとディートは制服を受け取っている。
教科書は軽めのものは受け取って残りは自室となる寮においてもらった。教科書は全部揃えると重いのだ。
「二人とも着替えてこい」
制服は春夏秋冬とあり、一通り受け取った。クラベルが説明をしているのを聞いてからセリスに促されて二人は着替えに部屋に戻る。
「セリスさんとは昨日ぶりですね」
「そうだな。迅速な対応を感謝する」
クレプスクロはボールの中にしまっている。
クラベルは今のアカデミーの校長だ。アカデミー、というかパルデア地方は故郷ではあるが、最低限の情報しかいれていなかった。
姉弟の母親が紅茶をクラベルに出す。クラベルは紅茶を飲みながら、アカデミーについては改めて話した。
アカデミーはパルデア地方でも、世界でも有数の歴史を持つ学び舎だ。学ぶことに関しては非常に強く、ポケモンのことだって学べる。
「総合コースを二人は選択して」
「担任はジニア先生になりますね」
セリスも話を聞いていると姉弟が着替えて降りてきた。私服からアカデミーの制服に着替えている。背中にはバッグを背負っていた。
「どう?」
「似合っているぞ」
「サイズもぴったりだ」
「二人とも、立派なアカデミーの生徒です。次はポケモンの説明をしますので外に」
エステルは長袖に長ズボン、ディートは半そでに長ズボンであったが、服は好きに着替えられる。
セリスも校則が書いてある紙を読んでみたが極端な改造をしなければいいらしい。二人は帽子もかぶっていた。
制服に着替えると姉弟もアカデミーの生徒になるのだとセリスは改めて想う。それは姉弟の母親もそうらしく、嬉しそうにしていた。
「私も見ていていいか?」
「構いませんよ」
「ポケモン」
「どんなのだろう」
セリスやクラベル、エステルとディートは家の外に出た。
今日は晴れていて、太陽の光が強い。花壇の花は姉弟の母親が整えたのか、綺麗に植えられていた。引っ越した時に届くように準備はしていた。
「ポケモンさんたち、出てきてください」
クラベルがモンスターボールを投げると、三匹のポケモンが現れた。緑色の猫のようなポケモン、赤いわにのようなポケモン、青と水色の鳥のようなポケモンだ。
「ニャオハとホゲータとクワッスだな」
「はい。くさねこポケモンのニャオハさん、ほのおわにポケモンのホゲータさん、こがもポケモンのクワッスさんです」
三匹のポケモンはそれぞれ鳴いた。ニャオハ、ホゲータ、クワッスはパルデア地方の御三家だ。
御三家というのは各地方の初心者トレーナーが育てることになるポケモンの総称だ。育てやすいというのがある。エステルが興味深そうにポケモンたちを見下ろしていた。
ディートも隣で見ている。