拝啓 春へ置き去りにしたあなたへ おしまいはほんとうに突然で、それはよく澄んだ、春のおわりだった。
「ご無沙汰しております」
警察官の夫と、私と、それから子犬のハロ。ふたりと一匹暮らしのマンションに突然訪れたのは、篤実そうな男性だった。
夫の部下だという男性は、『風見』さんと名乗った。彼と顔を合わせるのは確か、これが二度目。高い背丈と、あのひととは正反対に吊り上がった瞳がつよく印象に残っている。
どうぞこちらへ。そう室内へ促した私に、春の空気をまとった彼は、ただ首を横に振った。
「きょうは、こちらをお届けに伺ったんです」
そうして手渡されたのは、真っ白な陶器の蓋物だった。私の両手のひらにちょうどぴったり収まるほどの、つるりと丸くて軽いそれ。薄い生成りで包まれているのに氷みたいに冷たくて、受け取った途端、言いようのない焦燥感が背を駆け抜けた。
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