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    いぇる

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    本編できてないのに後日談を書くやつ〜〜〜〜〜

    ##直太郎

    凍飛沫-IteShibuki(b)「よくもまあ、こんな仕打ちにしたもンだ。」

    遠くでカン、カンと鋼を打つ音が聞こえる。
    痛いほどの沈黙の末に目の前の老人はそうぼやいたのだった。呆れと侮蔑、少しの怒りを滲ませて重たく吐かれた。

    「せっかくお譲りいただいたのに、申し訳ありませんでした。」
    「ふん。所詮はモノだ。いつか使いモンにならなくなる。だが、この小刀はすでにテメーの血の味を覚えた。もうお前さんの思う力にはならねえよ。」
    「......はい。」

    老人、いや刀匠はもう一度ため息をついた後、目の前の小刀を箱にしまい直太郎へと視線を送る。ほとんど視力の衰えた、と言われてもわからないほどの鋭い眼差しに背筋が勝手に伸びていく。

    ただ必死だった。己の刀を駄目にしたのはその結果だ。そんな言葉は言い訳にしかならず、直太郎は相槌をうつので精一杯だった。

    「こいつは俺のとこで供養する。お前さんも、先の討伐のことは忘れろ。満寿美の小僧に散々言われるだろうがな。」

    これから大変だぞ、それで"嫌"になるかもな。
    言外にそんな言葉を含み、冗談のように投げかけられた台詞に直太郎は小首を傾げて一拍間を置いてから一言返した。

    「師匠からは、すでに。」
    「……は、」

    はーっはっは!そうかそうか!!お前さん、バカだなぁ!!!

    それまで怒りすら向けていた刀匠の気配が愉快のそれに変わり、ガラガラの喉からガラガラな笑い声が吐き出された。
    何を喋るにしても吐き出すような老人がひとしきり膝を叩き笑ったところで、再度向けられた視線にはむしろ同情の気配すら感じるようであった。

    「お前さんもなかなか頭が堅いやつだな!小僧がお前さんに何か胸の内を話した訳でもあるまい。そんなことするようなヤツじゃねぇ。だというのに、お前。
     自分の胸に穴開けておいて、よくヤツの下を続けていられるな。」

    まだ閉じかけている最中の風穴がじぐりと呻いたような気がした。

    忘れろと言ったその次に穴が空いた記憶を想起させる。意地の悪い老人の台詞に直太郎は下がりかけていた視線を真っ直ぐ前に向き正した。

    「確かに、私は師匠のことを百も知らないでしょう。
     ですが、私は師匠の百分の一も同じ志があります。

     私が師と仰ぐのに必要なのは、それが淀川満寿美であるということだけです。」

    はっ、と溜息に似た空気を吐いた刀匠は愉快そうに眦を下げて小刀の箱に蓋をした。

    「なよっちいナリして言うじゃねえか。まあ好きにやりな。だが、二度と俺に刀の供養をさせるんじゃねえ。」
    「は、はい。その……ご迷惑を、おかけしました。」
    「迷惑かけられてナンボの仕事してンだよ。ほれ。次のお前さんの相棒だ。もうお前さんの血で汚そうなんて思えない代物だ。」
    「っ……その、刀を......私に……?」

    背後からズッと差し出されたのは白く意匠が拵えられた短刀であった。
    確かに、汚れをつけてしまえばとても目立ってしまいそうな装いだがこの刀匠が言っている意味はそれだけに留まらない。
    刀の道に詳しくない直太郎にもわかる。刀を『供養』する男が差し出した短刀に込められたものを。

    「先の小刀に名は無いが、こいつにはある。
     『氷剣』だ。属性付与の親和性もあげて叩き上げた。よく使え。」
    「その、私には、私には畏れ多いです。
     まだ未熟で常に必死で、心の乱れに簡単に流されてしまうのです。そんな私には勿体ない刀です……。」

    すでに箱にしまわれた小刀。それを握っていた時のことを思い返す。
    己の血を吸わせることを知ってしまった。生死すら些細なものとして命を冒涜的に扱うことができてしまった。
    全ては、次の死に悲しむ者が出る前に。そのために。
    だからと言ってその辺の刀であればなんでも良いなどと、この老人の前では口が裂けても言えないことだが。
    とにかく、既に穢れている己の手で握って良いものだとは思えなかったのだ。

    「一人前に甘んじる機会なんか一生ねぇよ。氷剣がお前さんの面倒を見ると言ったんだ。大人しく懐護られてろ。」
    「う……」
    「それに、身の丈に合わないと思うなら釣り合うように己に磨きをかけるのが道理だろうが。さっきの威勢はどうした?あぁ?」
    「は、はい……そのとおりです。ありがとうございます。」
    「俺からの話はこれで終いだ。」

    もっと有難い教えでもしてやろうかと考えていたが、気が変わった。
    よく考えりゃ、俺には槌を振るっている時間の方が大事だからな。

    そうして鍛冶場へと戻っていく刀匠に礼の言葉と共に深く頭を下げた。
    託された新たな相棒を懐に招き入れてその場を後にする。

    じぐり、と傷が痛む。
    忘れろ、と老人は言った。忘れるな、と引き攣れる痛みが訴える。

    忘れるな、忘れるな。
    死んでもこちらには来てくれるな。



    「……もう、来ないものと思っていたよ……。」
    「何度も聞きましたよ。でもその度に私は『また来ます』と返しましたでしょう?」
    「いつもとは訳が違うでしょう。君が起き上がらなければ、きっと僕は。」

    困り眉をさらに下げて薄桃色の向こうに隠れてしまう。改めて戦闘の時とは雰囲気がまるで違うなあ、などと呑気にそんな感想を抱いていた。

    「私は起き上がり、自分の意志で、この足でここに来ました。あの時のように謝罪をするためではありません。」
    「では……。」
    「私はまだ折れていません。このようにここに居ます。そして、貴方に、師匠にだって私の意志は折れさせません。もっと強く在りたいのです。次に誰かが傷つく前に。」

    師と仰ぐ薄桃色の男に向かい、そう宣言する。
    まだ見上げるほど差のある位置から、けれども真っ直ぐに。

    「これからも、よろしくお願いします。師匠。」
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