帰りしなに歩み寄る白光が黒に埋まり、黒色は闇へ溶けるように消えていく。
鎧通しのように扱われることの多いその刀を懐へ収めた直太郎は一息つくと明るい調子で声をかけた。
「本日の討伐は完了しました。皆さん、おつかれさまです。」
その言葉と共に戦場だったこの場の空気は緩み、安堵の息と労いの言葉で不穏な気配が押しやられていくのだった。
搬送ルートの見回りと異獣討滅の任についていた竹・梅階級による人員の中から、直太郎はある人物を見つけ歩み寄る。
軍刀を二振り提げた男——最近ではうどんをめぐってちょっとしたイベントがあった——珠岡宗貴も直太郎に気づき、おつかれさまでしたと挨拶を交わした。
松に上がり指示を仰ぐ立場から、指示を出す立場へと移った。
その関係もありよく人員の動きを見るように心がけていた直太郎はこの時に思った事を彼へ伝えようとしたのだ。
支部へ戻る足並みを揃えて隣へとついた。
「先ほどは良い動きでしたね。少し駆け込み過ぎではないかと思うところもありましたが……結果、おかげさまで想定より早く討伐が済みましたよ。」
「いえ、それは俺のおかげというわけでは……。他の方が優秀だったからでしょう。」
直太郎の言葉に眉を上げたあと、照れ隠しのような口調で謙遜の言葉を連ねる。実際にこの場に居た者は皆、真面目で良く動いていたが直太郎は「いいえ、それだけでないからお伝えしようと思って。」と彼の謙遜をさらりと流した。
「珠岡さんが周囲をよく見ていらっしゃる動きをしていましたから。立場で言えば命を預かっている身ですし、私、ちゃんと見ているんですよ?」
「なるほど、視野が広いんですね。」
「ええ、かなり。
そういえば普段からもよく気を配っているところを見ますし、そういう人徳も大事ですものね。素敵な志だと思います。」
ありがとうございます。と、どこか口ごもらせながら礼を述べた彼は落ち着かないように眼鏡をかけ直す仕草で表情を隠していた。
これまでに何度目かのよし、ちゃんと伝えたぞ!という達成感の胸中な直太郎の横で、珠岡が歯切れ悪く言葉を零した。
「なんだか落ち着かないですね……。当たり前のことをそう持ち上げられるのは。」
ふふ、と細く緩く笑みの形に息を零す。
ああこの人は。実のところ目に見えない隔たりがあるのだなと感じるが、更に実のところそういった事を気にしない人間が直太郎なのであった。
「貴方にとって当たり前のことこそ、良きものと感じたら伝えたいのです。それこそ当然のことなんですよ。」