花嫁と竜 6月は雨の季節だ。特にこのワノ国ではうんざりさせられるような長雨に見舞われる。それでも人々は逞しくホーキンスの故郷の山中では、長雨といえば春先の季節のことで、冬の終わりと命の芽吹きを感じさせるものであった。窓辺に置かれた古い木彫りの像もあの故郷で作られたもので、今ではしとどに降り注ぐ薄暗い雨天の鈍い光を受けてただ静かに佇んでいる。旧い神を模したこの像__人によってはただの獣面の人形にしか見えないであろう__もいわば繁栄と豊穣を齎す神を表すものだ。オロチとカイドウの悪行によって荒廃したこの土地も、恵みの雨を受け少しずつ活力を取り戻してきている。人々が豊穣と繁栄を神に祈り縋る姿は、例え遠く離れたこの地でも変わらないらしい。
しかしこの長雨ではどこに行くにも憂鬱だ。雨に濡れるのも跳ね返った泥を浴びるのも考えるだけで気が滅入る。しかもカードも外出は凶事だと示している。という訳でホーキンスは自室で一人、遠出をした恋人の帰宅を待ち続けていた。
「……暇そうだな、ホーキンス」
「そうでもないぞ、もうすぐ夏至が来る。それまでに済ませておかねばならない仕事が山積みだ」
手持ち無沙汰に手の内で転がしていた像をテーブルの上に置く。
……ご丁寧に純白のヴェールまでセットである。