in the pink 跡地の片隅、プリンタニア達の集団の真ん中。塩野は大きなプリンタニアの背中でうたた寝をしていた。
すあまとそらまめの定期検診の間、塩野は邪魔にならないよう屋外でプリンタニアと戯れるのが常になっていたが、眠ってしまうのは珍しい。そらまめを肩に乗せた佐藤とすあまが近付いても起きる気配がない。
横向きになって何か考え込んだまま寝てしまったのだろう。塩野は集中しすぎて糸が切れるように寝落ちることがたまにあるが、今日は徹夜作業の後で寝不足という訳ではなく、もちもちのプリンタニアの上でする日向ぼっこがよほど気持ち良かったのか寝入ってしまったようだ。ゆるく開いた口からは時折何か寝言が聞こえる。
塩野を乗せたプリンタニアがのりごこちよいでしょ、と言いたげな顔でこちらを見てきたので、佐藤は額の辺りを撫でてやった。足元ですあまが何か言いたげに見上げてきたので、抱き上げてなだめるように撫でる。乗せなくていいからな。乗せられなくてもすあまはすあまだからな。適材適所、適材適所。
ちょうど体に当たるのか、すあまがシャツの胸ポケットを気にするように覗いてくる。ポケットの中には、佐藤が造形したプリンタニア型フィギュア。そらまめがホバーボードで一緒に持ってきてしまったので、とりあえずポケットに入れていたのだ。
取り出したフィギュアをすあまの額に当てるとほわりと薄ピンクに色を変える。まあまあごきげんらしい。
フィギュアに脳波測定器の機能を付けるだとか、塩野もよく考えつくものだ。もしかすると所長のアイデアなのかもしれない。どちらも行動力の塊だ。二人で盛り上がって追加した可能性だってある。
何故かフィギュアに突進しようとするそらまめを制しながらその額に軽く触れさせると、すあまの時よりくっきりとしたピンク色になった。
「その突進は怒っているんじゃなくて楽しんでいるのか……?」
すあまよりはっきりした意思表示のそらまめだから色がより濃く出たのだろうか。楽しいことを楽しい、嫌なことは嫌だと全身で主張する姿はどことなく塩野に似ている。
すぐ横で無防備に寝る塩野に、佐藤の胸の中で僅かに好奇心が頭をもたげた。
そろそろと手を伸ばし、フィギュアを塩野のおでこに当てた途端、佐藤は言葉を失った。
寝ているはずなのに、そらまめ以上に鮮やかなピンク色になるなんて嘘だろ!
慌てて離して色が白に戻るのを確認してから、今度は自分の額に当ててみる。すあまと同じぐらいのほわりとした薄ピンク。
もう一度塩野の額に当てる。濃く鮮やかなピンク色が明滅してチカチカと光っているようにすら見える。炭酸がパチパチと弾けるような感じにも似ていた。塩野は口をもにょもにょと動かしていたがまだ起きる気配はない。
「……もっと…たべろよ……」
「何をだよ」
思わずツッコミかけたが塩野は相変わらず夢の中。もにょもにょした口の動きは夢で何かを食べているからなのか、それとも何か喋っているのか。よくはわからないが楽しそうなのはフィギュアを触れさせなくてもわかる。
起きている自分よりも寝ている塩野の方が楽しんでいるなんて不思議だと一瞬思ったものの、それが塩野らしいし自分らしいなと気付いてしまえばもう苦笑するしかなかった。
「……なぁ……あ……と…さ……」
むにゃむにゃと寝ぼけながらも、楽しそうに呼びかけてくる塩野の寝言はいつもと同じ声色だったから、そこにはきっと自分がいるのだろう。