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    kusari_to_yaiba

    デュエスえちえち

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    kusari_to_yaiba

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    ※死ネタにしよ♪と思って描いていた小説なのですが、描いてる途中で希望も見えたので殺しはしなかったです。難しかったので途中で止まってるので供養。

    当たり前のように紡がれた日常。俺にとっては日常でも、お前にとっては違うのかもしれない。俺の日常が少し人と違って、お前が許せないことだったとしても…それでも俺は、俺の使命を全うするんだ。これは別に自分がそうしたいからではない。そうするほうが〝楽〟だから。

    -----


    鏡のゲートを潜り抜けた後、俺たちは教室に向かう。なんなら教室に直接ゲートを繋げてくれればいいのに、生徒たちの怠慢を許してはくれないようだ。あと3日すればホリデーに入るので、気を張らなくては。僕は自慢の制服の襟を正して気合を入れた。その瞬間肩に衝撃が走る。思い切り掌で叩かれたようだ。こんなことをするのはヤツしかいない。

    「…エース、お前な」
    「オハヨ、デュースくん。」

     僕の痛がる顔を見てニヤリと目を細める彼は、この学校の問題児のエース・トラッポラだった。いつも一緒にいることが多いが、彼の行動は読めないことが多い。…自分がそういうことができるタイプではないからかもしれないが。せめてもの反抗で睨んでみたが、微笑まれてしまった。自然と歩調を合わせて歩き始めると、エースが口を開いた。


    「デュースはさホリデー中何すんの?マジホイで峠を攻めちゃうわけ?」
    「ちょっと馬鹿にしてるだろ、お前。まぁそんなところかな…マジホイの整備もしたいし。エースは何するんだ?」


     僕が聞き返すと、少し間隔をあけて「内緒〜」と答えた。別に隠すことないだろうと不服に感じたが、さして興味もあるわけではないので聞き流した。それが気に食わなかったのか、エースが僕の足を蹴る。コイツは口が上手いくせにすぐ手を出してくるので、僕が思っているより子供なのかもしれない。


    「もうすぐさ、赤い月の夜が来るの知ってる?」
    「赤い月の夜…?なんだそれ」


     僕が聞き返すと、エースは少し影がさしたような顔をして「やっぱ知らないか」と呟いた。赤い月の夜…何かの行事だろうか?僕の少ない記憶を辿っても、やっぱりそんな行事のことはわからなかった。


    「俺の地域限定であるイベントみたいなものがあるんだけど、俺の家が代々その主催なんだよね。んで、俺がそのイベントの主役なんだけど…」
    「へー、すごいじゃないか。立派なことだな。何をするんだ?」
     

     トラッポラという苗字はそこまで薔薇の王国では珍しいものでもないが、そんなに有名な家柄なんだろうか?エースとの実家はそこまで離れているわけではないと思うが、そんな行事を薔薇の王国でやっているという噂は聞いたことがなかった。


    「んー、儀式みたいな?わかんねー。俺もあんまり興味ないんだよね。そういうの。」
    「何だそれ、まぁ頑張れよ。」


     唇を尖らせたエースが不服そうにこちらを見ている。その手前、朝のチャイムが鳴り響いた。このチャイムはあと5分で教室に行かないと遅刻扱いをされてしまう合図だ。急がないと優等生としての品格が失われてしまう。僕は早足で学園の門まで駆け寄ると、左手をエースに掴まれてしまった。今度は何だと、少し青筋が額に浮かぶ。勢いよく振り返ると、珍しい顔をしたエースが立っていた。

     
    「ねぇ、デュース。ちょっとサボらねぇ…?」
    「は、何言ってんだお前…」


     お願いだから、と腕を引かれる。その顔は切羽詰まったような顔をしていて、普段のお調子者のエースからは想像ができないものだった。ただ事じゃないな、と思い僕はその腕に引かれるまま学園を背後にした。



    ----



     ハーツラビュル寮に戻った俺たちは、特に一言も交わすことなく自室へと戻った。エースは制服のジャケットをハンガーにかけて壁にかけている。自分も真似してジャケットを脱いでベットにかけた。そのままベッドに腰かけると、自分のスペースにいたエースが少し覚束ない足取りで僕の隣に腰掛けた。


    「さっきの話さ、続き聞いてくれる?」
    「赤い月がどうとかいうやつか」


     そう。と答えるエースは何だかいつもの調子ではなくて、こちらも困る。元気もないようだし、本調子でないのは確かなようだった。


    「あれね、ただの儀式じゃないんだ。」


     目を伏せながら落ち着いた声で言葉を発しているエースは、いつもとだいぶ雰囲気が変わっていた。どこか言い慣れた言葉を話すような、それでいて少し恐怖を滲ませるようなそんな喋り方だ。エースは汗ばむ細長い指を絡み合わせながら親指で手の甲を撫でている。癖なんだろうか、どこか落ち着かない様子だ。意を決して、という表情で口を開いた。


    「…赤い月の夜の正体はね、赤い肉を纏った魔物なんだよ。」
    「まも、の…?」


     突然のことすぎて理解ができない。赤い月の夜なのに、肉で魔物なのか?僕の脳味噌がキャパオーバーになる手前で、エースが僕の手を握った。びく、と体が反射的に強張る。しっとりとしていて華奢で柔らかい肉質の手が僕の骨ばった手と絡む。手袋をしているのでその温度がどの程度なのかはわからない。少しだけそれがいやらしい、と思い唾を飲み込んだ。じっと熱を帯びた瞳に目を奪われる。エースの真っ赤な目が僕を見ている。


    「俺の住む地域ではずっとその魔物を神様として崇めて暮らしてきたんだ。」
    「め、珍しい地域だな…趣味が悪い」


     手袋越しにエースの指の体温が上がっていくのがわかる。心なしか頬も赤いし、呼吸も乱れている。なぜ、そうなっているのかは僕にはわからない。ただ一つ、なぜか一度もエースに〝そう言った感情〟を抱いたこともないのに、僕はエースを魅力的に想っていることが不思議だった。


    「その神様はね、不定期に俺の住む地域の血しか混ざっていない純潔の人間の子を嫁にもらって生きるんだ。毎年とかじゃなくて、赤い月が見れる時期しか姿を現せないらしい。それは数百年に一度とかそんなレベルの時もあれば、2年連続で…とかそういうこともあったみたいなんだけどさ。んで、その赤い月が見れるのが今回のホリデーなんだけど…」


    〝血筋の濃くて若い人間が俺しか残ってないんだよね。〟


    …とエースは苦しそうに笑った。
    突発的すぎて理解に苦しむが、とりあえずエースは魔物の番になる…ということだろうか。さっぱり意味がわからない。だいたい番になってどうするんだ?


    「嫁になったらさ、その魔物と、その…交わって新しい神様を宿さないといけないんだって。子宮がなくても俺が養分になるから、性別関係ないらしい。」
    「は…、え?」


     意味がわからない。つまり、死ぬということだろうか。背筋が凍る。とても嘘つきのエースがつくような嘘と思えない、真実と信じがたい事実に恐怖さえ感じる。なぜそれが真実だと思ってしまうのかはわからないが、普段のエースを見ていればなんとなくわかってしまう。終わりが近いのだと。


    「倒す手段はないのか?」 
    「そんなのあったら、魔法でもなんでも使っていくらでも倒してるよ。どんなに魔法や刃物や銃火器をぶちかましても死なないんだもん。防壁魔法とか、なんか使ってるのかな?魔法解析学とか頑張ってみたけどわっかんなくてさぁ?赤い月の光から魔力を合成してるっぽくて、とてもじゃないけど太刀打ちできないんだよね。」


     力ないように笑うエースはらしくなかった。まるで今までずっと考えてきたことを話すかのように饒舌に喋る姿に同情する。ずっと日常生活を送っている上で脳の半分くらいをこの事実が占めているだろう。ベットから伸びた長い足をぶらつかせながら僕の手を握る力を強めるエースはたぶんきっと寂しいのだ。孤独で、死への恐怖に押し潰されそうで、それでも笑って生きている。


    「別に逃げちゃってもいいんだろうけどさ、俺のせいで家族も友達も死ぬのはちょっと夢見が悪いっていうか…だから、その…ね。」


     夢見が悪い、というのは彼の少しの仮面なのだろう。本当はずっと辛いはずだ。繋いだ手はまだ離れていない。


    「やりたいことやってから、死にたいな…なんて。思っちゃうんだよね。」
    「…死ぬなんて簡単に言うなよ」


     瞬きを数回した後、目を細めてエースは笑った。僕が素直にこの話を受け止めていることに驚いているのだろう。まだとても長いとは言えない月日しかともに過ごしていない俺たちでも、それでも友達と名乗れるくらいの時間は過ごしてきた。そんな友達が死を受け止めている事実が胸を苦しませる。呼吸すら気管が詰まってしまったかのようにままならない。


    「ねぇ、俺恋人できたことはあってもすぐ別れちゃってたんだよね。だから死ぬまでに恋愛したいし、キスもセックスもしたいんだ。あとは結婚だってやっぱりしてみたかったし、それなりに幸せに死にたかったし…それに、死ぬのもったいないくらいの優秀な俺じゃん?なんか、もっと…」


     そこで言葉を途絶えさせるエースは、何度も思ってきた言葉なんだろう。僕にできることがあるならば、その夢を叶えさせてやりたい。最後に詰まらせた願いも。
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