エスケープ ちょっとこっちと袖を引かれて連れていかれた先は、招待客の控え室として提供されている幾つかの部屋の内の一室だった。部屋の隅に置かれた、規則正しく振り子を振る柱時計に目をやる。開宴してまもなく二時間が経過しようとしていた。宴たけなわな今となっては、浮つくばかりの喧騒から遠ざかろうとする者などひとりもいやしない――俺達ふたりを除いては。
こんな人気のない場所――それも、パーティー会場から一番離れた部屋に俺を連れ出すなんて、もしや逢い引きでもしようって魂胆かい?
「は? バカ?」
予想通りの一蹴がいっそ清々しいくらいだ。
「人に酔ったの。視線に酔ったの。何なのよ、あいつら、ひとのこと舐めるような目で見やがって。キモいキモいキモいキモすぎっ! 気持ち悪いったらないわ」
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