Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    よしば

    @yoshi_R_K

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💫 🌱 🍖 🍟
    POIPOI 13

    よしば

    ☆quiet follow

    #奏千週ドロライ
    お題【子供体温】

     パチ、と瞼の開く音がして、奏汰は目を覚ました。真っ暗な部屋の天井が目に入り込んでくる。
     ゆっくりと首を動かして部屋の様子を窺うと他の二人はまだ眠っていて、起きるにはまだ早い時間だと自覚する。日が昇るのが遅い時期だから朝早い仕事が入っていると、まだ夜半なのかもう朝なのか判断がつかないことが多いが、感覚からしてもまだ早い時間だろう。念のため枕元に置いてあるスマートフォンで時刻を確認したら、四時を過ぎた時刻を示していて、やはり早い時間だったのだと目を瞑る。
     しかしどんなに強く目を瞑っても、一向に眠気が来ない。今日は一日仕事が入っているので、今から起きてしまうと昼間に眠くなってしまうかも知れない。だが頑張って寝ようとすればするほど目が冴えていく。
     五分くらい布団の上でゴロゴロと転がってみたものの、やはり眠れる気配がなく体を起こす。水でも飲めば多少は落ち着くかも知れない。そう思ってできるだけ音を立てないようにベッドから降りるとそろりそろりと歩いて部屋の扉を開ける。
     星奏館の共同スペースは常に電気が付いている状態だ。だが夜半は節電の為か暖房の類いは抑えめになっている。肌寒い廊下を歩きながら何か羽織り物を持ってくるべきだった、と思いながらキッチンを目指す。
     キッチンに辿り着く頃には体は冷え切っていて、指先が少し白くなっていた。お湯は苦手だがこれは白湯とかにした方が良いかもしれない。いくら節電の為とは言え、廊下くらいはもう少し暖かい設定にしても良いのではないだろうかと誰に向ければいいかわからない文句を心の中でぶちぶちと呟く。
     キッチンの前にある共有スペースは電気がついていた。ここは誰もいない時には電気を消すのがルールだから、この時間に電気が付いているのは誰かいるのかただの消し忘れかのどちらかだ。凍えきっていた奏汰はそれを確認するのも億劫で、さっさとキッチンへと入ってヤカンに水を入れてコンロにかける。電気ポットもあるが、少しお湯を沸かすだけならこちらの方が早い。
     熱くなりすぎないようにとコンロの前でお湯が沸くのを待っていると、こちらへと近づいてくる足音が聞こえた。やはり共有スペースに誰かいたのだろうか、とそちらへ顔を向けるとそこには意外な人物が立っていた。
    「奏汰?」
    「ちあき……?」


     ぬるめに湧かしたお湯をマグカップに入れ、共有スペースで千秋と向かい合う。どうやら彼はここで本を読んでいたらしくて、机の上には栞の挟まった本が置いてあり、顔には眼鏡をかけていた。
     マグカップを両手で包み手を温めながら、じとりと千秋を見つめる。
    「奏汰が起きてくるなんて珍しいな」
    「そういえるほど、ちあきは『よなか』におきているんですか?」
    「いやそういう訳ではないが……。別に体調が悪いとか、そういうのじゃないぞ?信じてくれ」
     奏汰の視線の意図に気がついたのか、千秋は慌てて弁明する。曰く、たまたま目が覚めてしまって眠れずに、眠くなるまで本でも読もうと思ったが部屋だと他の二人を起こしてしまうかも知れないので共有スペースで本を読んでいたということだった。
     悪いことをした言い訳をするように捲し立てる千秋がどこかおかしく、寒さで損なわれていた機嫌は少し向上した。
    「そういうお前こそ、こんな時間に目が覚めるなんて珍しいだろう。どこか調子が悪かったりしないか?」
    「べつに、『たいちょう』がわるいことはないですよ」
     実際体調におかしなところはないのだ。昨日だって特に調子の悪いところはなかったし、寝付きだって普通だったはずだ。ただ急に目が覚めてしまって眠れない、というだけだし、ここに来たのだってただ水を飲みに来ただけだった。千秋みたいに長時間いるというわけではないのに体調不良を疑われるのは少々遺憾だ。
     とはいえ千秋も好意で心配しているのがわかっているので、だいじょうぶですよと繰り返し言って安心させる。千秋は怪訝そうな顔をしていたが、疑うのも良くないと思ったのかそうか、とだけ言って口を閉じる。
     思えば最近二人きりで話をするという機会はめっきり減ってしまった。こんな時間ではあるが、彼と一緒にいれるということに心が弾んで、もしかして彼と一緒にいるために起きたのではないかと思ってしまえるほどだ。
     このまま夜が明けるまで語り明かしてもいいかも知れない、なんて思いかけたが、今日はこの後仕事があるのだ。どんな仕事でもコンディションが悪い状態で行くわけにはいかない。奏汰も立派な社会人だ、そこはきちんとわきまえている。
     手に持っていた白湯をぐ、と飲みきって千秋へと目を向ける。
    「ぼくは、もうねようとおもいます。ちあきもはやくねるんですよ」
    「……大丈夫か、寝られるのか?」
     何度も起きたことがある経験者は言うことが違う。奏汰が眠れないであろうことを見抜いているのだろう。心配そうにこちらを見つめる千秋へと肩を竦める。
    「きょうも『おしごと』なので、『むりやり』にでもねないと」
    「ふむ。奏汰、すこしこっちにこい」
     一体どうしたのかと思いながらも、言われるがまま千秋の座っているソファへと近づく。そのまま腕を引かれて、千秋の隣に座らされると彼が膝にかけていたブランケットを二人の肩にかけて肩を引き寄せた。
    「ちあき?」
    「やっぱり冷えているじゃないか。体を暖めないと眠れないと言うし、少しの間で良いから暖めさせてくれ」
     俺は子供体温だからな、なんて言う千秋の肩は彼が言うとおり暖かく、じわじわと体温が移ってきて寒さが和らいでくる。
     熱いものは苦手なのだが、どうにも彼の熱さだけは昔から嫌いになれない。最初に抱きしめられたときも、こうしてどんどんぽかぽかしてきて気持ちが良かったのを思い出す。
    「ちあき」
    「ん、なんだ?」
     いつもの煩さはなりを潜め静かな声色で聞き返してくる千秋に、ああこれはもう甘えてしまっていいのだと思い両手を差し出す。
    「ても『つめたい』んです。『あたためて』くれますか?」
    「うむ、もちろんだ」
     彼は差し出した手を己の両手で包んでにこりと微笑みかけてくる。こうした些細な触れ合いも最近は少なくなっていたな、と思い出して少し寂しくなる。しかし今そんなことを考えても仕方が無いので、今は目一杯彼に甘えようと千秋の肩に己の頭を乗せる。
    「……ここで寝るなら毛布を持ってこないと、」
    「いえ。ねませんから、もうすこしこのままでいさせてください」
     ほんの少しでも千秋と離れるのが嫌で、立ち上がりかけた彼を引き留めて肩にぐりぐりと顔を埋める。子供体温だと自称するだけあって、冷えた奏汰の顔よりも随分暖かい。
     そのまま瞼を閉じてしまえば、心地よい体温がじわじわと伝わって気持ちよくなっていく。
    「奏汰、奏汰?」
     何故か千秋の声が遠くなっていき、体に力が入らなくなっていく。肩に乗せていたはずの頭はずるずると落ちていき、あこれは千秋の膝だな、なんて認識したところで奏汰の意識は消えた。


     翌朝目が覚めると、目に飛び込んできたのはかくんかくんと船を漕いでいる千秋で、そのまま膝枕で寝てしまったのだと急に恥ずかしくなった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺👏👏💖☺☺☺❤😍☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works