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    jujuno_yu

    エロ、グロ節操なし。女体化大好きマン

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    jujuno_yu

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    にこちょぎの夏の話と鍛刀キャンペーンの話になる予定

    長義という刀は夏が嫌いだった。…と、称するには些か語弊があるかもしれない。何せ、自分と同じ姿形をした”山姥切長義”という同位体はこの界隈にごまんと──とまではいかないが、他にも存在するのだから。みな等しく本歌と偽物の問題に悩まされてはいるが、趣味嗜好はそれぞれ異なっていることが多い。これは、山姥切長義という刀だけでなく他の刀剣として顕現しているその他大勢にも同じ現象が起きている。個体差、というものだ。
    であるから、この本丸の山姥切長義は夏が嫌いな個体だった、という表現が正しい。
    本丸というものはそれぞれ独自の結界に守られている。外の世界とは隔絶された空間であるために、その内部に流れる時間は所によって様々だ。本丸の数だけ、そこにはその本丸独自の文化が築き上げられ、当たり前のように横たわっている。まさに千差万別。この長義が属している本丸の主は外界との時間差を無くすために景趣などで調節し、外界と同じ時間と季節を歩んでいる。これも本丸独自の文化というやつになるのだろう。
    外界は七月の下旬に差し掛かる頃。日中の気温は三十五度を超えていた。つまり、猛暑の真っ只中である。当然のようにここの景趣も夏だった。

    「あっつ……………」

    長義は本丸の縁側の廊下に横たわっていた。見る者がいれば熱中症を心配して駆け寄ってくるであろう。だがそれを見る者はいない。喧しい蝉時雨に混じって、遠くの方では猛暑にも負けずに水遊びではしゃぐ他の刀剣たちの楽しそうな声が今でも響いていた。
    とくれば、いつもは背筋を伸ばし纏う空気をピンと張り詰めている長義も、一振りで居れば取り繕うことも出来ずに暑さにお手上げ状態なのである。
    独りごちる。Vネックの襟元をぱたぱたと上下させ、じっとりと汗と熱気の孕んだ胎内に風を送りこむ。背後の、肌に当たる床材はすでに長義の体温が移って温くなっている。涼しい面を探してごろんと寝返りを打つさまは普段とのギャップを感じさせていっそ滑稽に映ることだろう。手元の団扇で扇いだとて、お情け程度のそよ風が軒下に取り付けられた風鈴を揺らしたとて、体の熱は発散されずに籠るばかりであった。
    徐ろに瞼をあげる。軒下の向こうに広がるのは雲ひとつない目が覚めるような青天井と、燦々と降り注ぐ日光。直射を避けていても、あまりにも目に眩しい。額に手を翳す。生温い風がまるで長義の心の陰りを煽るように、ねっとりと体に纒わりつくようだった。

    「……………………………」

    夏は嫌いだ。嫌なことを思い出すから。
    人の体を得て、何度この酷暑にやられて倒れかけたことか。そしてその度に人の体のままならなさに何度憤ったことか。ずっと春の景趣でいいのにと強く思う。そうすればこの暑さも、胸のざわめきもいくらかはマシになる。
    春は、先に待ち構えている別れを口惜しくあれど、まだ、それを誤魔化して笑って居られたから。昔の話だ。






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