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    mayynatsukk

    なつ(@mayynatsukk)のポイピク

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    mayynatsukk

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    最近晶ちゃんに元気がないと思っていたヒースクリフが彼女の悩みを知って解決しようとする話。
    「つまり、賢者様は想い人がいらっしゃる、ということです、ね?」
    それを知ったヒースクリフの行動は…。

    晶→ヒースクリフ→晶視点で話が進んでいきます。

    #ヒス晶♀

    限りなくきみに近い存在 散歩で行った原っぱで見つけた白い可憐な花。一本取って、花びらを撫でた晶は、無意識にその花びら一枚抜いていた。いや、一枚だけではなかった。
    「好き、嫌い、好き、嫌い……」
     花占いなんていつぶりだろうか。そんな可愛らしい行動をする自分がいる微笑ましく思う自分と冷ややかな目をする自分がいることに気付く。それでも自分の中にある少しの乙女心には逆らえなかった。
     たとえこれが「嫌い」で終わったとしても、それが本当だとは限らないことは知っている。けれど、こうして行動をしている自分の乙女心を大切にしたいと思ったのだ。
    「嫌い」最後の一枚が虚しく芝生の上に落ちる。「ええっ⁉」
     たとえこれが「嫌い」で終わったとしても──……そう思っていた気持ちはどこへやら。全く持ってそんなことはなく、晶はがっくしと肩を落とした。
    「も、もう一本!」
     自棄になっていた。「好き」で終わらなければ気が済まない。そんな気持ちでいっぱいだった。もう一本花を取って晶は再び、「好き、嫌い」と交互に言い始める。
     その時。
    「賢者様! こんなところにいらっしゃったんですね!」
    「わあっ!」
     突然上から掛けられた声に晶は跳び上がり、花を手放していた。
    「突然お声掛けしてしまってすみません、大丈夫ですか?」
     晶に声を掛けたのは、東の魔法使いであるヒースクリフだった。
    「大丈夫です。すみません、私の方こそ驚いてしまって」
    「いえ」ヒースクリフは申し訳なさそうな顔のまま、首を横に振ると晶が手放してしまった花を拾い上げ晶に渡す。
     ありがとうございます、と言って受け取ると、ヒースクリフは渡してくれた花を不思議そうに見つめていた。
    「ヒースクリフ?」
     どうかしましたか? と続けると、彼は悲しそうな顔で言った。
    「その花……花びらが抜けているようですが」
     ああ、と晶は思った。なんて心優しい青年なのだろう、と。花びらが抜けてしまっていて本来の姿ではないことを悲しんでいるのだ。
    「すみません。その、花占いをやっていて」
    「花占い?」
    「はい。知りませんか? 花びらを抜いて、好き、嫌い、と言うんです」
    「好き、嫌い……」
     ああこれは知らない顔だな。と分かった晶は、眉を下げて頷いた。
    (この世界にも花占いはあるかもしれないけれど、ヒースクリフは見たことがなければ知らないかもしれない。なんとなくシノもしない気がする。ここは実際にやってみせるのがいいかな。えーっと、好きと嫌い、さっきどっちまでやったっけ?)
     花びらに伸ばしかけた手が止まる。晶はヒースクリフに声を掛けられてすっかり忘れてしまっていた。
    「賢者様?」
     止まっている晶に不思議そうにヒースクリフが声を掛ける。
    「えっと、花占いというのは、花びらを一枚ずつ抜きながら、好き、嫌い、と交互に言って、最後に残った花びらが好きであれば想い人に想われている、というものです」
    「へえ」
     ヒースクリフの顔が楽しそうにほころんだ。しかしすぐに、何かに気付いたような顔をした。

    「つまり、賢者様は想い人がいらっしゃる、ということです、ね?」

    「えっ⁉」
     そうだけど! 突然ヒースクリフが晶の心臓を突っついてきたようだった。
    「違うのですか?」
     綺麗な目を瞬かせヒースクリフは首を傾ける。綺麗な青色の瞳が太陽の光にきらきらと輝いて、まるで吸い寄せられるように晶は首を振っていた。
    「ち、違わないです」
     違わない。けれど、今はそのことよりも、花占いの話だ。晶は口頭で説明したものの実際に花びらを抜いてヒースクリフに見せることにした。
    「好き、嫌い、好き、嫌い……」
     一枚花びらが残った。
    「好き、ですね」ヒースクリフが言った。
     まるでそれは、水たまりに小さな波紋ができるような、どこか余韻を残す声だった。晶は残った花びら一枚に向けていた視線をさっとヒースクリフに向ける。
     想い人がいる。ただそれだけだ。誰かに教えてほしいと言われたって言えるようなことではない。だから、これからもずっとそのつもりだった。
     ──少なくとも、今この瞬間までは。
     ヒースクリフの顔は微笑んでいた。そう認識したとき彼は目を伏せた。それでも口角はほんの少し上がっていたから、微笑んでいるのか悲しんでいるのか分からなかった。
    「良かったですね、賢者様」
     ヒースクリフの手がゆっくりと伸びて、晶が持っている花びらが一枚だけ残った花に手をかざす。
    「≪レプセヴァイヴルプ・スノス≫」
     聞き慣れた彼の呪文が聞こえ、そこからそっと手が離れる。花は元通りに、いや、別の花になっていた。それは、晶の世界にあるピンク色のガーベラによく似ていた。
    「あの、ヒース、この花は」
     なんですか、と続けようとしたところでヒースクリフが晶に言葉を被せてきた。
    「最近、賢者様が悩んでいるように思えていたんです。もしかして好きな人が関係していましたか?」
    「え……」
    「応援しています」
     その瞬間、ヒースクリフとの間に見えない壁ができたような気がした。そして彼は続けたのだ。
    「俺にはそれくらいしかできませんから」
     その表情を見たとき、晶は「失敗した」と思った。思ったのに何も言えなかったのは臆病な自分が顔を出したからだ。

     好きな人がいる。けれどそれが誰かなんて言ってはいけない。それに相手だって困るに決まっている。いつか晶は帰る。そのいつかさえ分からない。そんな中で告白なんてできるはずがなかった。

     ▽▽▽

     晶には好きな人がいる。それをヒースクリフが知ったのは本当に偶然だった。
     最近、賢者である晶が悩んでいるように思っていた。たとえば食堂にて、ご飯を食べながらふとしたときにため息をついていたり。中庭の掃除をしている姿を見掛けたときに俯いていたり。図書室で賢者の書を眺めながら考え事をしている様子だったり。
     そんな姿をこの数日見掛けることが多かったから何か力になれることはないかと模索していた。しかしそう思えば思う程なぜか晶を見かけても一人でいることがなくて。悩みは解決したのだろうか? と思ったら、今度は何に悩んでいたのだろうかと気になってしまう。そしてその悩みは自力で解決できたものなのか、それとも誰か──他の魔法使い──が解決してくれたのか、と。
     だから昨日、シノが賢者がいない。午後の授業でオレのかっこいいところを見せるって言っていたのに。と言われたことがきっかけで探していたところに偶然晶を見掛けることができて良かったとその時は思った。その時、までは。
     それがまさか花占いの最中でましてや晶に好きな人がいることを知ることになるとは。
     今となっては自分はうまく笑えていたかと気になる点はあるけれど、なんとも思っていない装いをするのであれば一緒に魔法舎に帰るべきだった。そのあとすぐに晶が戻ってきてくれて良かったけれど、あれから会話らしい会話はできていない。

    「ヒースは賢者様のことが本当に好きなんだね」
     午後三時。クロエとルチルとのお茶会にて『賢者様が最近悩んでいるんだけど』と話題を切り出すと、そうクロエが言った。
    「え? うん、好き、なのは間違いないけど……」
     と言った途端、きゃーっ! と黄色い声が二人から発せられる。目がきらきらと輝き出して、ぐっと前のめりになって、「やっぱり!?」と声を揃えて聞いてくる。
    「前からそう思っていたんだけど、やっぱりそうだよね!」
    「賢者様の世界で言う恋バナ聞かせてほしいな!」
    「え!? 恋、バナ……!? 俺の好きはそういうのじゃないよ!?」
     クロエとルチルの勢いに驚いて仰け反ってしまう。慌てて否定するヒースクリフにクロエとルチルは顔を見合わせてそれからすぐに姿勢を正した。
    「そっか」クロエはそう言って、「俺たちの方こそごめんね。決めつけちゃって」と続けながら眉を下げる。
    「う、ううん! 俺の方こそ盛り上がりに欠けちゃってごめん」
    「いやいや、全然! 確かに賢者様最近会ったときに元気ない気はしてたんだ」
    「うん。何かに悩んでるんじゃないかって思っていて」
     アールグレイの紅茶に映る自分の顔は少しだけ情けない表情をしているように見えた。
    「あの、さ」
    「うん?」
    「賢者様の話とは別なんだけど、もしも二人に好きな人がいたとして。その人にも好きな人がいると知ったらどうする?」
     スミレとフレッシュグリーンの瞳がヒースクリフをじっと見つめる。三人とも何も言わずお互いを見ながら時々ぱち、ぱちと瞬きをする。この無言の時間がとても空気が重たくなってきた時、「そうだなぁ」とルチルが柔らかい声で言った。
    「私なら、応援はしつつその好きな人のことを知ろうとするかな」
    「え? 好きな人のことを?」
    「うん。だって自分の好きな人だよ? きっと良い人に決まっているじゃない! だから私は好きな人の好きな人も知りたい。誰か分かって、もしうまくいきそうなら、幸福の魔法をかけたいかな」
     ルチル。と名前を呟きながらヒースクリフは感心の眼差しを彼に向けていた。
     ヒースクリフ一人なら見つけられなかった答えだ。彼の優しさによって、彷徨っていた良心がすとんと落ち着きを取り戻したみたいだった。
    「それ、すごくいいね! 確かに好きな人の好きな人は良い人だと思う!」
     おひさまみたいに明るい笑顔でクロエがルチルに言っている。その顔が純粋できらきらと眩しい。
     賢者様の好きな人。想像すると胸がきゅうっと締め付けられるような、もやっと黒い霧のようなものが胸の中を漂うけれど彼女の好きな人はきっと良い人に決まっている。 それこそルチルやクロエのような人であれば嬉しい。
    「参考になったかな?」
     首を傾けたルチルの星色の髪の毛がさらりと揺れる。ヒースクリフは微笑んだ。
    「うん、とっても。ありがとう、ルチル。クロエもありがとう」
     自分のこの表情がどう映ったのかは分からない。クロエとルチルはじっとヒースクリフを見て、「頑張ってね」と言ってくれた。

     きっと晶が悩んでいたことは、彼女の好きな人について。
     好きな人がいて告白に悩んでいるのかもしれない。
     自分が晶にできることといえば、話を聞いてあげることだ。晶がそんな話をしたことがなかったので考えたことがなったけれど、もしかすると元の世界に想い人がいるかもしれない。
    (そうだとしたら会いたい、よな……)
     話を聞いていけば魔法で映し出すことができるだろうか。
     きっと現在進行形で晶は悩んでいるかもしれない。何かしてあげたい。元気になってもらいたい。そう思うのに晶の好きな人のことを考えれば考えるほど、紅茶や茶菓子の味は感じられなくなっていた。

     ▽▽▽

     やってしまった。
     昨日、花占いをした場所で晶は呆然と立ち尽くしていた。散歩をしていた通り道で「そういえば昨日ここでヒースクリフに花占いをしていたのを見られたんだった」と思ったところで足が鎖によって進まなくなったかのように動けなくなったのである。
    「花占いなんてするんじゃなかった。よりによってヒースに見られるなんて」
     はぁ、と大きなため息をついても昨日のヒースクリフの切なそうな表情が忘れられない。
     応援しています。
     ヒースクリフは晶にそう言っていた。けれど、その表情はちっともそんな風には思っていない顔だった。しいて言うなら、好きな人がいたんですね、という切なそうな表情。
    (もしかして、ヒースは私のことが好きとか)
     ……いや。いやいやいやいやいや。そんな都合の良い話あるはずがない。なら花占いをもう一度してみようかとも思えない。だってこれはただの占いだ。
     だけど、晶に好きな人がいる。それを知られてしまったことが。それがヒースクリフだったことが。晶にとっては誤算でやらかしてしまったと思わざるをえなかった。
    「はぁ……」
     大きなため息を吐いた時だった。
    「賢者様」と声を掛けられたのは。
    「わあっ⁉」
     聞き慣れた声に肩が跳ね上がる。晶はぐっと首を回して声を掛けた彼を見上げた。
    「ヒースクリフ……ど、どうかしたんですか」
    「すみません、驚かせてしまって。ちょっとその、昨日のことで」
    「昨日の」
     そのワードを呟きながら背中からつららが下がってきたように足元までが冷え切った。
     一体何だろう。
     異世界から来たのに、この世界で恋をするな。とか?
     ヒースクリフはそんなことを言わないと分かっているのに、マイナスの思考になってしまうのは彼が真剣な表情をしているからだ。
     しかもクロエに教えてもらっていたけれど今日はルチルも入れて三人でお茶会があったはず。もう夕焼けで空も木々もオレンジ色へと変わっているというのにこうして晶を探しに来てくれた。
     しっかりと彼と向き合って晶は顔を上げた。
    「なんでしょうか?」
    「ええっと。その」
     歯切れが悪い。ヒースクリフは視線を彷徨わせ、そして意を決したように口を開いた。
    「あの、俺も賢者様の好きな人のことを好きになりたいんです」
     頭の中が真っ白になった。今も冷たいままの足で立ち続けているのが不思議なくらいだった。
    「昨日応援するとお伝えしたじゃないですか。そのためにはまずは賢者様の好きな人を好きになることからかなって」
    「……は」
     真っ白だった頭の中が少しずつ、少しずつ運転を再開し始める。
     ヒースクリフは晶の恋を応援してくれると言う。
     しかも晶の好きな人を好きになりたいと言う。
    「た、確かに。私の好きな人をヒースが好きになってくれたら私は嬉しいです」
    「そうですか」
     そう言ったヒースクリフの瞼が少し伏せられる。切なそうな表情に晶は顔を歪ませてしまった。
    「ヒース……」
    「大丈夫です。賢者様。そんなに心配そうな声を出さないでください。俺、頑張ります。少しだけ辛いなと思ってしまっただけで、本当に平気ですから」
     頑張ります。平気ですから。そう言っても顔はとても切なそうで。本当は応援なんてしたくないと言っているのが分かってしまって。晶は胸の前で自分の手をきゅうっと握った。自分の胸を掴まれて痛いと言う程の力で。痛いと悲鳴を上げる前に、無意識に言葉が出ていた。
    「……ヒースです」
    「……え?」
    「ヒース、なんです」
    「え?」
     驚いた顔が晶へと向けられて、何を言われたか分からないと言った様子で目を瞬いていた。
    「すみません、急に! 困りますよね。こんなこと! 忘れてください!」
     ヒースクリフがあまりにも切なそうな顔をするから言ってしまった自分の本音。好きだと自覚してからこの気持ちをどうするべきか悩んで悩んでどうにもできなくて。花占いでもして気を紛らわせようとした。たったそれだけの行動によってヒースクリフに好きな人を白状してしまうなんて昨日の自分が聞いたら驚くだろう。
    「私はこれで!」
     森のもっと奥へと走り出していた。
    「待ってください、賢者様!」
     そう声がしたって立ち止まることはしたくなかった。
     ポツ。ポツポツポツ……雨が降り出しても関係なく走り続ける。
     このまま走り続ける自分に魔法をかけたい。知らない世界に移動して着地する魔法をかけたい。そんなことをできるはずがなく、晶は自分が魔法使いでないことを恨んだ。
     伝えるつもりなんてなかった気持ちを言ってしまったことに晶の目に熱いものが込み上げてくる。この先、ヒースクリフに会ったら何を伝えればいいのか分からない。
     弱いシャワーが降り続けるのであれば、いっそのこと大粒の方がいい。自分の気持ちが全部流れてなくなってしまうくらいの方がいい。もしくは暗闇に飲み込まれて自分の姿が消えてしいたい。早く夜になってほしい。
    「賢者様!」
     後ろからヒースクリフの声がしたかと思えば追い付かれていて並走されていた。その顔は随分と必死そうに息を切らしていた。そして見てしまった。瞳がきらりと雨ではない雫で光っているのを。
     その青い空みたいな綺麗な瞳で見つめてほしいと願い始めたのはいつからだろう。賢者とその魔法使いの関係でいられたら良かったのに。
    (あのね、ヒースクリフ。私、私──……)
     さっきまでは雨が大粒になって自分の気持ちを全部洗い流してしまいたかったのに、その気持ちの方が流れていた。今の晶は流されたくないと思っている。洗い流してしまったら、この気持ち全部なかったことになってしまうから。

    「賢者様!」

     再び呼ばれて腕を引かれる。けれど、ヒースクリフの顔を見る事ができなかった。
    「こっちを向いてくれないのですか」
    「無理です。だって、今、すごい顔しているから」
    「そんなこと」
    「わ、私がダメって思ったらダメなんです!」
     顔を見ることも。
     ヒースクリフを好きになることも。
    「ヒースクリフには、幸せになってほしいから、だめですよ。……私ではだめなんです」
     雨が降っていてよかったと思う。涙が溢れてしょうがない。
     冷たい指先が晶の頬にゆっくりと触れた。手袋が外されていて、その指先の温度がダイレクトに伝わってくる。
    「泣いています」
    「これは、目にゴミが入って」
    「嘘をつかないでください」
     うっ、と小さく唸って顔を伏せる。ほっといてほしいのに、ほっとかないでほしいと思う感情はぐちゃぐちゃだ。
     晶の顔に触れていたヒースクリフの親指の腹が涙を拭う。拭って目の端で止まると、その手のひらがゆっくりと晶の耳に、そして後頭部を撫でていったかと思うと、彼の匂いでいっぱいになった。枕元に置いているサシェの匂い。ヒースクリフの肩に額が触れていた。
    「賢者様は俺を幸せにしてくれないのですか?」
    「し、資格がないと思います」
     晶の言葉にヒースクリフの腕の力が強まった。この行き場のない手はどうしたらいいんだろうと思いながら、晶はヒースクリフに抱きしめられたまま動けないでいた。
    「賢者様のことが好きです」
     それは、ヒースクリフの口から発せられるなんて思ってもいなかった言葉。
     嘘、と小さく呟くことさえもできないほどに驚いて動けもしない。

    「自分のこの気持ちが恋なのも分かっていなかった。でも、昨日好きな人がいると知ってから嫌だなと思ったり、賢者様の好きな人を好きになりたいと言ったけど本当は嫌だって思ったり、して。あなたの好きな人を知って、自分の気持ちにようやく気付けたんです」

     いつものヒースクリフからは想像もできない程に、滑らかに伝えられていく気持ち。夢を見ているんじゃないかと思ってしまう程、信じられない言葉の数々。
    「それにこうして、賢者様が俺の腕の中にいること、幸せだなって思うんです。誰かを抱きしめることができること、それが賢者様であることが俺はとても嬉しい」
     しっかりと抱きしめられている。でも痛いとは思わない。花束を優しく抱きかかえるような。大切な宝物を抱きかかえるような。彼の体温から大切にしなきゃいけないと言うような決意の熱が伝わってくる。
    「賢者様」
     優しく紡がれる声は今も降り続いている雨のように、ゆっくりと胸の中へとしみていく。
    「同じように幸せを願ってくれませんか」

     資格をくれるのだろうか。彼と一緒に幸せになる資格を。
     限りなく近い存在でいられる資格を、この世界にいる限り。

    「ヒース、あの。私」

     ヒースクリフが渡してくれたあのピンク色の花は晶の部屋の花瓶に飾られている。あの花の意味を教えてもらいたい。その時彼は一体どんな顔をしているのだろう。
     花束を優しく抱きかかえるように。大切な宝物を抱きかかえるように。彼に大切にしたいと伝えるために晶はヒースクリフの背中に腕を回した。どうかこの熱意が伝わりますように。そう願った時、伝えたい言葉が喉を通った。

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