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    mh_nurumayu_yk

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    mh_nurumayu_yk

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    こちらのオー晶♀小説→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18189559の晶ちゃん目線のおまけ小説。

    #オー晶♀
    #まほやく男女CP
    Mahoyaku BG CP

    拝啓、冬のような貴方へ「……あ……」
     目が覚めて視界に飛び込んだのは、白い天井だった。寝惚けた頭でそれが自分の部屋のものだと気付いたとき、ピピ、とスマートフォンのアラームがけたたましく鳴り響いた。
     指先でうるさい音を消して、目を擦る。目元は涙でしとどに濡れていた。
     夢を見ていた。
     もう二度とは会えないヒトと会う夢だった。
     不思議な感覚だった。夢の中で私は、自分が夢を見ているのを分かっていた。
     分かっていたから、ずっと言えなかった想いを告げた。夢だから良いだろうと、そして夢の中でも彼はどんな反応をするのだろうと、そんな考えがあったから、告白の言葉が口をついて出た。
     だってあれはまるで、夢でありながら夢ではないように、リアルだったから。

    『ねえ、どうして? どうして僕の頭の中からは、消えてくれなかったの?』
    『さっきだって、ようやくミスラに痛い目見せてやれるかもってところで、おまえに邪魔された。今回だけじゃない。おまえが帰ってからずっと、おまえが僕の中にいるんだよ!』

     感情を爆発させて、震える声で言葉を紡ぐ様子は、私の心をひどく突き刺した。あんな姿はあの世界にいるときでも見たことがない。
     夢の中なのに、傷付く心がちゃんとあった。
     自分のことを覚えておいて欲しいなんて、そんな我儘は言わない。
     言わないだけで、思っていないわけではないが。
     手紙を挟んだのは、「運」に身を任せようと思ったから。想いは告げられない。けれど完全に隠しておくのは、無かったことにするようで寂しい気がして。
     見つからなかったらそこで諦める。もし見つけてもらったら、「貴方を愛する誰か」がきちんといたのだということを知ってくれれば良い。
     かける望みはその程度だ。
     まさか本物の彼が、夢のように自分のことを覚えているなんて思わない。だからあの夢は、きっと自分の願望からくるものなのだろう。じゃなければ、あんな都合のいい夢なんて、きっと見ない。
     私は朝日の射し込むカーテンを開けて、窓にもたれ掛かる。
     そうして大事な記憶を思い返すように、そっと目を閉じた。


    『私は明日、元の世界に帰るんです。だから、貴方とはお別れです。オーエン』
     「大いなる厄災」との決戦を控えた前日、オーエンは厄災の傷の彼の人格を現した。私は慌てて彼の手を引いて、魔法舎の裏の森へと連れて行った。
     そして二人でのんびりと森を散歩しながら、傷の彼にも事実を告げると、オーエンはショックを受けたような表情を浮かべた。
    『賢者様、帰っちゃうの……? もう賢者様とは、会えなくなる……?』
     私が静かに頷くと、彼はいっそう傷付いた顔をした。今にも泣き出しそうだ。その態度は本当の子供のように見える。
    『寂しい……やだ、賢者様と、ずっと一緒がいい』
     縋るような表情で見つめられて、胸の奥がズシンと重くなった。
     結局、私がこの世界にいるうちには彼らの傷は治せなかった。スノウとホワイトは今年の厄災を倒せたら、治す方法が見つかる可用性が高いと言っていたが、果たして本当に治るのかはまだ誰にも分からない。保証さえない。
     まるで幼い子供のような彼を置いていくこと。彼を治せなかったこと。罪悪感で押し潰されそうになる。
     願わくば、彼らの傷を治せるまでこの世界にいたかった。私は賢者として、己の役目を全う出来た自信がない。
     けれどこの世界と元の世界を繋ぐエレベーターの扉が開くのは、厄災との闘いを終えたその日の晩というほんの一瞬の隙間だった。タイミングを逃したら最後、私は元の世界に帰れなくなる。
     本当はもっと彼らと一緒にいたいのだ。私はオーエンに恋だってしている。しかし自分の全てを投げ捨てて、この世界を選ぶことは自分には出来なかった。やはり私が帰るべき場所は、元の世界なのだ。
    『その寂しささえ、すぐにきっと消えるものだから。大丈夫ですよ』
     言っていて私はひどく泣きたくなった。最低な慰め方だと我ながら思う。
     彼は首を傾げた。
    『どうして? 寂しいが消えるって、どういうこと……?』
    『貴方たちは、賢者のことを覚えていられないからです』
     鼻の奥がつんと痛い。目の奥がじんとあつい。涙をこらえるのは、こんなにもつらいものだったか。
    『わす、れる? 僕は、賢者様のことを、忘れちゃうの?』
     震える声で、彼は私の顔をじっと見ていた。『……はい。きっと』
    『っ、そんなの、やだ!』
     オーエンは目に涙を浮かべて、縋るように私の手を握った。ぱさりと彼の被っていた帽子が地面に落ちた。
    『僕は賢者様のこと、忘れたくない……!』
    『オーエン……』
    『忘れられるより、忘れるほうが、僕はずっとずっと、寂しい……』
     はっと息を飲んだ。
     もう限界だった。ぼろぼろと私の瞳からは、涙がこぼれ落ちる。
    『賢者様との思い出は、僕にとって大切な宝物だから。暗くて何も見えない世界でも、きっと蝋燭の火みたいに、僕のことを照らしてくれるんだ』
     その言葉で、「彼」と過ごした日々が頭の奥でちかちかと星のように瞬く。恋をしながら過ごす日々は、これまで生きてきた人生のなかで一番、輝いていた。
     その恋を、私も忘れたくなかった。
     そう。忘れられるよりも、忘れるほうが、ずっとずっと寂しいのだ。
    『…………』
     あの少し意地悪で可愛い彼も、同じことを言ってくれるだろうか。
     忘れたくないと、そう言ってくれたなら、それにまさる喜びなんてこの世にない。
    『賢者様、泣いてる。賢者様も、痛い?』
    『え……』
    『僕、ずっと、胸がぎゅーって痛くて、苦しいんだ』
     心臓をおさえて眉を下げるオーエンに、私は涙を零しながら頷いた。
     胸が痛い。張り裂けそうなほど、心が悲鳴をあげていた。
    『おあいこだね、賢者様』
    『はい。……はい、そうですね。オーエン』
     私は彼の頬を撫でて、宝石のような雫を拭いとった。まさか最後の日に傷の彼に会うだなんて思っていなかったが、きちんと彼にもお別れは必要なものだろう。
    『私、貴方のこと、忘れません。貴方が私との思い出を大切にしてくれたように、私も貴方との思い出を、大切にしていきます』
    『あ……』
    『そうしたら、遠い世界にいても繋がっていられます。ひとりぼっちじゃないんだって、思えます』
     私が泣きながら精一杯微笑むと、オーエンは目を見開いた。
    『僕、ひとりぼっちじゃ、ないの……?』
    『ひとりぼっちじゃありません。私がずっと、貴方のことを覚えています。覚えていたいんです』
     息を飲む音が耳に届き、彼は頬を染めて笑った。それがあまりに幸せそうな笑顔だったから、私はその顔に見蕩れてしまった。
    『嬉しいな。僕、本当に嬉しい。たとえそばにいなくても、僕はひとりぼっちじゃないんだ……』
     私が触れる手の上に彼は自分の手を重ねて、猫のように擦り寄った。
    『……賢者様の手、あったかいね。春みたい』
     そして手を重ねたまま、彼は真っ直ぐに私を見て言った。
    『僕も、賢者様のこと、絶対忘れない。覚えていたい』 
    『オー、エン……』
    『もし、この世界に僕以外のオーエンがいるのなら……きっと、同じことを言うと思うんだ』
     私は呆然と目を開いた。
     声が胸の中心を穿って、そしてじんわりと熱をともす。
     彼の言葉が本当になるかは分からない。過去の賢者の魔法使いは皆、賢者のことを忘れている。
     けれど、もしかしたら彼は本当に、なんて思うくらいに、その目は本気だった。
     そうなったらいいのに、なんて思ってしまう。
     だってそうだろう?
     好きな人に自分を覚えていて欲しいなんて、人間ならきっと誰もが思うことだ。
     ……嗚呼、けれど。
     もしも呪いのように、あの意地悪な彼を苦しめてしまうくらいなら、忘れて欲しいのもまた事実。
     恋というのはいつだって矛盾だらけで、振り切る勇気なんてものは持ち合わせていない。
     この先どうなるか分からない、その現状に身を任せるように、私は何も言えずに彼の頭を撫で続けた。
     「大いなる厄災」を無事に倒し、エレベーターに乗って元の世界に帰ってきたのは、それから本当にすぐの話だ。
     そっと手紙を残して、私はさようなら、と彼に手を振った。


     目を開ける。そして、「オーエン」、と彼の名前を呼んだ。
     忘れられないヒト。忘れたくないヒト。今もこれからもずっと、残り続ける恋心。
     本当は私は彼を、本当の意味で救いたかったけれど、自分程度の人間では何も出来なかった。
     私は短くため息をついて、窓を開けては空を見上げた。透き通るような青い色が、視界いっぱいに広がっている。

     もしも恋に温度があったなら。
     しんしんと、雪のように彼に降り積もる不幸を、今すぐ溶かしてあげられればいいのにと、そんなことさえ思うのだ。
     私は静かに微笑んだ。

     ────拝啓、冬のような貴方へ。

    「……貴方を、愛しています」
     囁くように、呟くように、私はこの言葉を捧げ続ける。

     ────もしもあの手紙を見つけ、そして読んだなら、返事は紙飛行機にして、空にでも飛ばしてください。
     そうしていつかその紙飛行機が届く日が来るのかも、なんてことを思いながら、私は今日も、窓を開けて待っている。
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