スパイダースパイダー高層ビルの谷間から、朝日が昇ってくる。透明なグラスに注がれる水のように、その陽光は足元からゆっくりと迫り上がり、宵闇を散らしてビルの輪郭を明確にしていく。まるで、白日から逃れられる闇などないとでも言うような、眩い朝だった。
……やってしまった。
警視庁の窓辺から美しい朝の情景を見下ろしながら、工藤新一はそんな事を思う。
「いやぁ、流石だよ工藤くん~!」
「まさかあんな些細な手がかりから、犯人を特定するだなんて!」
新一の心情など知る由もなく、高木と佐藤が熱っぽく賛辞をおくってくる。目元に刻まれた濃い隈が彼等の捜査疲れを物語っていたが、その表情は事件解決の喜びに満ち溢れていた。
東都全域で起こった、連続殺人事件。尻尾すら掴ませない犯人に匙を投げかけた捜査本部は、いつものワイルドカードを切った。つまり、私立探偵である新一に有識者としての助言を求めたのである。そうして事件は、新一の類まれなる推理力をもって解決へと導かれたのであった。
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