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    jp_tea_111

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    0.67Herzのボツ話

    お子のお世話をする上鳴&切島爆豪から結婚すると聞き驚いた後その相手がイズクちゃんだと知って泣き、イズクちゃんとの間に子供ができたと聞いて泣き、子供が無事産まれたと聞いて泣いた。今では同業者でもあるただの友達の吉報に喜びすぎではと思われるかもしれないが、高校生の時の爆豪を知ってる身からすれば感慨深くなってしまう。
    爆豪とイズクちゃんの子供は、二人のいいとこ取りをしたような容姿と、主に父親に愛でられ育てられことにより、そりゃあもう明るくてめちゃめちゃ可愛い子供になった。爆豪が事務所に子供を連れてきた暁には、特に用のないヒーローが集まり、耐えかねた爆豪が爆ギレするほどには人気だ。
    俺は今そんな大人気なちびちゃんにめちゃくちゃ手を焼いている。

    「う゛ぅぅぅぅぅ……」

    イズクちゃん譲りの大きな目をこれでもかというほど潤ませてお気に入りのぬいぐるみを抱きしめている。切島に懸命にあやしてもらって、俺はこの子の父親に電話をかけている。
    なんでこんなことになっているかというと、話は数時間前に遡る。
    ちびちゃんが俺と切島と遊びたがっている、と苦虫を嚙みつぶしたような顔で言ってきた爆豪がちびちゃんを俺の家に連れてきた。なんでも、イズクちゃんが連日の残業明けで寝ているかららしい。他人に気を遣える爆豪に感動したのは言うまでもないし、それを口にして爆破されたのも言うまでもない。

    「そろそろ帰んねえと」

    そう言った爆豪がちびちゃんを抱えようとしたら、ちびちゃんは大の字になって「や!」と抵抗し始めた。爆豪がいくら言っても「や!」の一点張り。これにはパパ豪も手を焼いているようだったので、俺らも参戦して説得を試みたものの。

    「まだぱちぱちするもん! かみちゃんときぃちゃんとあそぶもん!」

    と言って頑として譲らなかった。ちなみにかみちゃんが俺できぃちゃんは切島のことである。
    困り果てた爆豪がイズクちゃんと電話し始めたところでちびちゃんはむくっと起きて、俺たちにだけ駄々をこねた理由を話してくれた。なんでも、二人がずっとすれ違う生活を送っていたから二人きりにしてあがたかったそうだ。それを聞いた俺らの考えることは一つな訳だ。

    「ホントに大丈夫かよ」
    「大丈夫大丈夫! なー」
    「なー!」

    何度も確認してくるパパ豪をなんとか帰し、パパ豪に口すっぱく言われた工程を全てこなし、いざ寝ようと布団に入った。そこまではよかったのだが、それから数分後にはちびちゃんが泣き出し、今に至る。

    「ゔぅ……かとちゃ……」
    「え? かとちゃん? えーっと、かとちゃんぺっ」
    「ゔゔゔぅぅぅぅぅ」
    「あー! ごめんな! 面白くなかったな! ごめんごめん!」

    硬化して見せてなんとか気を紛らわせているらしいが、ちびちゃんは決壊寸前ってレベルの涙を瞳に溜めている。泣かせたらあの鬼神がブチ切れるのは言わずもがな、ちびちゃんにも嫌われてしまうかもしれない。それは嫌だ。せっかく名前で呼ばれるくらい親密になったのだ、それだけは嫌だ。

    『……ンだよ』
    「あー! 爆豪ー! やっと繋がった!」

    ずっと鳴らしまくっていた電話がようやく繋がった。それにちびちゃんも気づいたようで「かとちゃん」と言いながら俺のスマホにぽてぽて近づいてくる。

    「かとち゛ゃぁぁぁ、う゛ぁぁぁぁぁぁ」
    『ア? ……ああ、やっぱりか』
    「いかち゛ゃぁぁぁぁぁ、ぁぁぁぁぁぁ」

    パパ豪の声が聞こえたことで堪えが効かなくなったらしい。ギャン泣きしながら俺の腕ごとスマホを握っていて、これじゃ喋れそうにないのでスピーカーに切り替える。

    『もしもし、上鳴くん? 聞こえる?』
    「あ、イズクちゃ」
    『ァ』

    俺のちゃん呼びに目敏く反応しないでくれ。『ちょっとかっちゃん』と嗜める声も聞こえてきたが謝る素振りは一切ない。

    『ごめんね。今から迎えに行くから、それまでお願いしてもいい?』
    「おっけーおっけー。悪いな、こんな時間に」
    『大丈夫。それより、申し訳ないけど到着するまでその子のことよろしくね』

    びゃああああと泣きじゃくるちびちゃんは切島をばすばす叩いている。硬化したらゼロダメージだろうがちびちゃんが怪我するといけないから生身で受けているらしい。小さい子なんだから元々ゼロダメージだって思うだろ? 侮るなかれ。手の甲を抓る等的確に攻めていて、「いっ」と呻く切島の声が聞こえてくる。

    「ぁぁぁぁ」

    すげーな、子供って。この小さい体のどこにそんな力を隠していたんだと思うレベルの絶叫だ。耳がキーンとする泣き声をあげるちびちゃんをなんとか泣きやませようと抱っこしたり背中をさすってあげるが、これ意味ある? ってくらい一向に泣き止まない。もう一生泣きっぱなしなんじゃないかと思い始めた頃、ピンポーンと鳴った。ちびちゃんの攻撃を切島に耐えてもらっているうちに玄関のドアを開けに行く。

    「ごめんね上鳴くん! 切島くん!」
    「み、みどりやぁぁぁ」

    急いでやってきたイズクちゃんに髪を引っ張られていた切島が涙ぐむ。わかる、泣きそうになるよな。俺も泣きそうだもの。
    ちびちゃんがドダダダダっと走っていく。びえんびえん泣きながらイズクちゃんの足にしがみついていたちびちゃんは、遅れてやってきた爆豪に抱き上げられた。

    「ほらな、やっぱお泊まりできねえじゃねーか」

    呆れたように言いつつもずびずび鼻を鳴らす我が子の背中をぽんぽん叩く様は立派な父親だ。その傍でびちゃびちゃのちびちゃんの顔を拭くイズクちゃんも言わずもがなである。
    大好きなパパとママが来たことで安心したのだろう、ちびちゃんは緊張の糸が切れたようにすこんと寝始めた。睫毛を涙で濡らしたままだけど、すやすや眠る姿にホッと胸を撫で下ろす。

    「はー……、一生泣かれるんじゃないかと思った」
    「わかる」

    ちびちゃんの扱いにも慣れてきたし、俺がパパになるのもスムーズにいけるのでは、なんて考えた俺が浅はかだった。ちびちゃんはいつもニコニコしていて泣かないので、ちょっと泣かれただけでこんなに疲れるとは知らなかった。

    「本当にごめんね、二人とも。早く迎えにいったほうがいいって言ったんだけど、いい機会だからって全く聞く耳を持ってもらえなくて」
    「ハッ、子守くれェ簡単だって勘違いしてたバカ共に現実を見せてやったんだわ、寛大だろ」
    「もう、そんなこと言って」

    ドヤ顔の爆豪を見てそういやコイツこんなんだったなと思い出す。ちびちゃんの面倒を見る時の爆豪が立派なパパだったから忘れていた。

    「あ。そういやさ、なんでかとちゃんにいかちゃんなん?」
    「あ、それ俺も気になってた」

    俺たちの至極真っ当な疑問に対して二人はキョトンとした。アレかな、言われすぎて違和感もなくなってたのかな。顔を見合わせた後「ああ」と言ったイズクちゃんが苦笑しながら説明してくれた。

    「元々は父さん母さん呼びでいこうって二人で話してたんだけど、僕ら同士がかっちゃんと出久呼びでしょ? かつ僕と一緒の時間が長いから、ちゃんづけが定着しちゃって」
    「……ああ! かっちゃんの“か”と父さんの“と”、出久の“い”と母さんの“か”から!」
    「仰るとおりです」

    なんとも可愛らしい理由で生まれた別称だ。「俺はやめろっつってっけどな」と言う爆豪も本気で嫌がっているわけではないのだろう。その証拠がかとちゃん呼びだ。

    「こんな時間だし、そろそろお暇しよっか」
    「おー、そうだな」

    イズクちゃんがちびちゃんを預ろうかと手を差し出したのには首を横に振ってみせた爆豪が振り返る。手はしっかり我が子を抱えていて、その様子に不安定さは微塵もない。

    「邪魔したな」

    そう話す爆豪は足音を殺すように玄関まで歩いていく。靴を履く時も体を揺らさないように気をつけているのだから、父親ってすげえなと感慨深く思う。

    「何度も言っちゃってるけど、本当にごめんね、二人とも。後日改めてお詫びしに来るね」

    終始眉を下げたままのイズクちゃんに手を振って見送る。さっきまでの喧騒はなんだったのかと思うほど静かで、どっと疲れが押し寄せてくる。

    「……なー、切島。俺ら嫌われてないよな?」
    「………」
    「ちょ、黙らないでくれよ! 不安になるじゃん!」
    「いやだってさあ、あんなに泣かれちゃったらよぉ」
    「わかるけどさぁ〜」

    欠伸をしながら各々横になる。せっかく名前で呼んでくれるようになったのに、この一回でゼロに戻ったのかもしれない。そう思うと枕がしっとり濡れた。
    そんな不安は杞憂だったどころか一層好かれていたとわかり、その場にいなかった瀬呂へドヤ顔をするのは、これから二週間後のことだった。
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