多分貧乳デ♀ちゃんに思いを馳せて書いていたブツ幼馴染に対する恐怖が少しずつ取り攫われた結果見えてきたのは強烈な憧憬だった。
勝利への固執。それを現実にする有言実行ぶり。そしてそれを自負する自信。平たく言えば強くてかっこいいと思っているってこと。かっこいいなと思う憧れがそれだけで済むわけがなく、かっこいいの次に好きが付くと気づくまでそう時間はかからなかった。
と、前置きが長くなってしまった。つまり何が言いたいかっていうと、好きになった人の脈がゼロで心が死にそうということである。
「はぁー……」
いや、わかっていた。かっちゃんが僕のことをどう思っているかなんて、九九の一の段並にベリーイージーな問題だ。だって嫌われてなきゃあんなに邪険に扱われるわけがないんだもの。はーあ、自分でそう考えておいて辛くなってきた。
他のクラスの女子にならクソがとかうぜえとか言いながらもちゃんと受け答えしているのに、僕が聞けば第一声が だ。 て。どう考えても僕を威嚇していて、完全に会話を拒否している。
淡い恋心を自覚した瞬間に無謀な恋だと理解するなんてどんな初恋だよ。もっと可能性がある人に惹かれればよかったのに、僕のバカ。そう自分自身を何度も野次って他の男の子にも目を向けようと試みるのに、勝気な笑顔を見た、当てられればスラスラ問題を解く、こっちを見はしないもののちゃんとプリントを回してくれた、そんな何の変哲もない姿にキュンとしては好きだと思ってしまう。重症だ。重篤患者だ。僕の恋心が危篤状態なので帰らせてください。いややっぱり授業はちゃんと受けたいから帰りません。
「いやーやっぱ純愛でしょ!」
「わかってねーなあ、恋だの愛だのなくてもチンコは反応するもんなんだよ!」
そんな声が聞こえてきたのは談話室からで、隠れつつこっそり覗いた先には上鳴くんと峰田くん、瀬呂くんがいた。
「男たるものおっぱいに反応するだろ!」
「いやだとしてもさあ、やっぱ好きな子とじゃなきゃ意味なくね? なー瀬呂?」
「どっちも一概には言えないと思うけど、俺は胸より尻派かな」
「マジ 俺は胸派かなあ」
「尻も捨てがたい、が! やはりおっぱいだろ! たわわに実ったおっぱい!」
盛り上がる三人に気づかれないよう抜き足差し足で来た道を戻る。そうして辿り着いた部屋のベッドにダイブして充電していたスマホを手にとった。
【男の子 胸派 尻派】
すいすいスクロールしていき情報を頭に入れていった結果、僕は一縷の望みを見つけた。
僕の内面をよく知っているかっちゃんが今更僕の為人に対して好きになることはまず無理だから、かっちゃん好みの体になればいいんだ! いくら僕でもかっちゃん好みのプロポーションならグッとくるに違いない。だって人間の三大欲求に性欲ってあるくらいだし。
上機嫌でお風呂に入って翌朝姿見の前に立ったタイミングのことだ。鏡に映る自分をまじまじ見た。
「……はっ!」
大事なことが抜けていた。かっちゃんが胸派なのか尻派なのか知らないじゃないか! かっちゃんに好きになってもらえるチャンスだと思って浮かれていた。
姿見に映る僕の体は、上はつるぺた、下はボンっと出ている。つまり貧乳なのにお尻はしっかり育っている。
「ま、不味いぞ僕。これでかっちゃんが尻派ならチャンスはあるかもしれないけど、もし胸派でかつ巨乳好きだったら……」
見下ろす自分の胸はすとーんとしていて、かろうじて胸部が盛り上がっている気がするレベルである。しかも激しく動くことを免罪符に万年スポブラだ。色気のいの字もない。
「ま、待て、待つんだ僕。まだ胸派だと決まったわけじゃない。尻派の可能性だって十分あるんだから、落ち着くんだ」
ぶつぶつ自分に言い聞かせて平静を取り戻し一日をやり遂げたが、やることがなくなると途端に湧いてくるのが胸派尻派論争だ。どちらかわからない限りこの脳内会議は永遠に続きそうなので、僕の脳内の平穏を取り戻すために解明することに決めた。
……のはいいんだけど、どうすればいいんだ、これ。切島くんに聞いてみてって頼む? いやなんて頼むんだ。ストレートに「かっちゃんが胸派か尻派か聞いてみてくれないかな?」って? いやいくら何でも怪しすぎる。何故仲の悪い幼馴染の好みを気にしているんだってなるに違いない。じゃあ他の、上鳴くんとか? いや、聞く前にクラス全員に広がりそうな気がする。というかそうなったら流石にバレるよね。それはダメだ。居た堪れない。
誰に聞いてもらうか小一時間考えた結果、僕はLINEでかっちゃんにメッセージを送っていた。考えた末の最善策だと思ったからだ。
さすがにLINEで胸派か尻派か聞くのは憚れたので「話したいことがあるんだけど、いつなら空いていますか?」と送った。そもそもLINEを無視される可能性も十分にあったので、「21時 部屋」という返信があったことにホッとした。単語だけだけど21時に部屋に来いって意味だろうから、時間ぴったりに部屋の扉をノックした。