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    カルデアの金綱なれそめ話②

    #金綱
    goldenRope

    特異点や異聞帯の攻略を抱えていなくとも、有事に備えた戦力強化のため、シミュレータや短期的なレイシフトを用いた資源収集はほぼ毎日行われる。これだけ長く大規模になった戦いの中では、日課といえども危険は常にすぐ傍らにある。
    立香がかつて旅した特異点へレイシフトし、魔術素材を探していた金時は、遺跡らしき洞穴の中で四つ足の獣と会敵していた。
    (まずいな)
    主なエネミーは女のような姿をした大蛇だと聞いていた。キャスタークラスに分類されるそれを狩るために編成されたとも。それが、先頭の最中に乱入してきたアサシンクラス、それもそれなりの強敵に強襲されたのだ。損傷は中程度か。しかしこれ以上長引かせれば危うい。背後には立香。敵が増えたことでサポート役のキャスターたちとも分断されてしまった。事態がこれ以上悪化する前に、なんとか乗り切るしかない、と金時は腹を括る。
    「悪ィな大将、ちっと多めに魔力回してくれよ」
    「……ごめんゴールデン、頼んだ」
    令呪を以て命ずる、と少女の声が届く。手負いの獲物を仕留めようと獣の爪が閃く。拳を握りしめ、地を蹴る。たちまち喉笛目掛けて食らいついてくる牙を間一髪躱し、突き出した左腕を敢えて噛ませ、諸共に地に転がる。そのまま勢いで身を引き剥がせば鮮血が滴り落ちた。
    「喰らえッ……!!」
    振りかぶった拳が雷を帯びる。全身を駆け巡る魔力の奔流が視界を赤く染める。生きて帰る。それだけが脳裏を満たす。正確に言えば生きて帰すのだ、大将を、カルデアへ。


    這う這うの体で帰還後すぐに医務室に放り込まれ、アスクレピオスに小言を言われながらも、すぐに修復を終える。立香には予定が狂ったことを平謝りされたが、イレギュラーは承知の上だ。マスターが無事なら言うことはない。
    それにしてもなんだか腹が減ったな、と食堂に足を向けた金時を迎えたのは、人もまばらなテーブル席にひとりぽつんと座っている綱の姿だった。
    「兄ィ!なんでこんなとこに」
    「怪我をしたと聞いた。大事ないのか」
    座ったままの、常より低い位置から見上げられ、心臓が波打った。
    現界したばかりの綱にはサーヴァントとしての身体が魔力で修復できることをまだ飲み込めていないのか、それともわかった上で旧知のよしみで気遣ってくれているのか。
    黒曜石の瞳は揺らぐことなくこちらを見つめている。機微はわかりにくいが、裏や偽りのないことはわかる。
    「……兄ィ」
    子どもの頃。まだ御山を下りて間もない金時に稽古を付けてくれた綱を思い出す。表情ひとつ変えず、完膚なきまでに叩きのめされたあとで、やはり変わらぬ顔色のまま、差し出された掌。大事ないか。そこには確かに温かいものを感じたのだ。
    思わず抱きしめてしまいたくなって、金時は拳を握った。己と同じ、エーテルで編まれた仮初の身体、人として生きていた頃とは違うけれど。この人は間違いなく、かけがえのない、オレの兄貴で。
    「好きだぜ、兄ィ」
    言葉が、堪えきれずに零れる。
    「どうしたんだ改まって」
    「……言いたくなったからよ」
    「そうか。俺もお前のことは好きだ」
    こともなげに言われて顔面が熱くなった。この好きは多分意味が違うな、とわかっていても、嬉しい、と騒ぎ出す心は鎮まらない。
    「……ああ、……兄ィ、サンキューな」
    「うん」
    本来の意味では伝わっていなくとも、まあいいや、と金時は思った。影法師になってまで、また会えた。こうして親しく過ごすことができる。それだけで、奇跡みたいなもんだ。
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