【薫零】付き合うための理由「零くん俺と付き合って」
「嫌じゃ」
「即答!なんか返事までの時間どんどん早くなってない?」
「薫くんこそどんどん軽くなっておらんかえ?」
それに合わせているだけじゃと胡乱な目で見やって、零は溜息を吐く。
数か月前から幾度となく繰り返されているやりとり。
1度目は真剣な目をして緊張した面持ちで言ってきたから零も言葉を選びながら断った。
2度目は少し泣きそうな顔で言われたので罪悪感にかられながら断った。
3度目辺りも確かまだこちらの様子を伺うように、なんとかYESの答えをもらおうという必死さがあったので少し絆されそうになりながら断った。
のに。
今はランチをしながら世間話のような軽さで、これだ。
「最初の頃の殊勝さはどこに行ったんじゃ」
「えーだってあの頃は零くんの気持ちがわからなくて一生懸命だったから」
「今は?」
「今はわかってるし。零くん俺のこと好きでしょ?」
「どっから出てくるんじゃその自信……」
「でも好きでしょ?だから後はうっかりでも"うん"って言わせるだけだと思って」
「どっから出てくるんじゃその自信…………」
思わず全く同じセリフを二度繰り返し、食後のコーヒーを一口。
それからにこにこした顔のまま向かいで頬杖をついている薫の顔をじっと見つめた。
「なに?付き合う気になった?」
「いや……なんでそんなに付き合いたいんじゃ」
「零くんのことが好きだから」
「薫くんによると我輩も薫くんのことが好きらしいが、我輩は薫くんと付き合いたいと思っとらん」
「なんで?」
「なんでって」
いつの間にか自分の方が質問されていることに眉を顰めつつ零は少し考える素振りを見せた。
「薫くんとは相棒じゃし」
「そだね」
「仕事もプライベートもだいたいいつも一緒におるし」
「うん」
「"恋人"という枠でなくとも特に変わりは無いじゃろ」
「でも恋人じゃなきゃ出来ないこともあるでしょ?」
「……そういうのが望みなら別にそれくらいはよいが」
「ちょっと!!絶対俺が考えてるのと違うこと思い浮かべてるでしょ!!」
だいたいそれくらいいいとか言わないで安売りしないでと俄かに動揺を表して声を荒げる薫に、そういう話じゃないのかと零は困惑を深くする。
「そうじゃなくて!……零くんが誰かと出かけるって言う時に誰と出かけるのって質問する権利とか、相手によっては行かないでってお願いする権利とか、そういうの!!」
「お、乙女じゃのう薫くん……」
「悪かったね!……でもほんとにそういうの。零くんの隣にいて、零くんを束縛して、零くんにワガママ言って、零くんにワガママ言われる権利を、誰にもあげたくないの。友達とも仲間とも家族とも違って、"恋人"は"唯一"だから」
だから付き合って、と。
まるで3度目の時と同じような顔で薫が言うから。
「……少し時間をおくれ」
通算で恐らく17度目にして初めて、零は違う答えを返した。
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朔間先輩もちゃんと自覚済みです。ただ付き合ったら別れる未来があるから付き合いたくないだけです。