【夏目+零】花火大会「間に合ったのう」
珍しくちょっと弾んだ声で空を見上げる零に釣られるように夏目は空を仰ぐ。
確かに花火は今ちょうど始まったところで、まずはスタートダッシュとも言うべき大輪の菊が次々と打ち上げられている。
「逆先くん見えるかえ?」
もうちょっとこっちの方がよく見えると手招きする零に近づいて、それから座ろうと促されるまま腰を下ろした。
時々花火の感想を言いつつも会話はあまり無く、ただぼんやりと綺麗だなぁと見上げる。
「なんデ、ボクだったノ?」
「ん、何がじゃ?」
今日が花火だということは知っていたが来るつもりは無かった。部屋に一人でのんびりしていたらわざわざ零が訪ねてきて言ったのだ、花火に行かぬか、と。
「UNDEADの人たちに振られタ?」
「うむ?そうじゃな、確かに彼らは今日別の仕事が入っておるが何時までかは確認しておらぬよ」
「じゃあ弟さんに断られタ?」
「りっ、凛月も今日仕事じゃし!!断られたりしておらぬし!!誘ってないんじゃから断られてもいないぞい!!」
そんな必死に否定しなくてもと思いながらじゃあと他の『にいさん』たちの名前を上げようとする前に、零が夏目の顔を微笑みながら覗き込んだ。
「他の者に断られたわけではない。我輩は逆先くんと行きたかったから逆先くんを誘ったんじゃ」
「……なんデ?」
その問いには答えることなく浮かべた笑みはそのままに、零はまた空に目を向ける。
「綺麗じゃのう」
「……まぁネ」
「空に花が咲くなんて、魔法のようじゃ」
「種も仕掛けもあるけどネ」
「仕組みなんてなんでもいいんじゃよ、その結果人々の心が救われるのが大事じゃ」
言われて、夏目は零を見つめる。零は今、花火の魔法の話をしているのだろうかそれとも自分の魔法の話をしているのだろうか。
「大変なことがあるなら一人で抱え込むなよ」
「……ボクの話だった」
空を見上げたまま、夏目には視線を向けないまま、呟く声に夏目も小さな声を零す。
尊敬する『にいさん』たちが卒業して学院では最高学年になって、Switchではリーダーで年長のつむぎは事務所の仕事にも奔走していてあまり相談も出来ず、年上に甘えるということをしばらく忘れていた。
いや、元々こうだったのだ、五奇人と一括りにされるまでは。孤高の存在を気取っていた。
それが、『にいさん』たちと出会ってしまったから。
「弱くなっちゃっタ」
「人に頼ることは弱さでは無いぞい」
「零にいさんにだけは言われたくないヨ」
「さ、最近は我輩だって人に頼りまくってるんじゃからな!!」
甘え上手の零くんとも言われるようになったなんて、信ぴょう性の欠片も無い事を言う零に夏目は笑う。
「ありがト」
「ん?」
『にいさん』たちと居ると何処からか『弟』な自分が出て来ちゃうんだよなぁと満更でも無い顔で笑えば、零も嬉しそうに笑った。