諦「やっちまったあ〜〜〜…」
勢いよく後ろに倒れ声を上げた。
こんなに情けない声をあげたのは久しぶりだった。
世話になっている蕎麦屋を継ぐと決めた。何がなんでも、俺の大好きな人たちのため、そして俺自身のために、俺が初めて見つけた俺にしかできないことだと思ったから。
だがしかし、継ぐと決めて翌日からはいどうぞと蕎麦屋になれるわけもなく、料理もろくにしない俺はゼロどころかマイナスからのスタートだった。
師であり住まいの面倒を見てくれてる爺さんは普段はとても温厚で朗らかな人なのだが、蕎麦のことになるとそれはそれは厳しい人だった。
修行することになったと甚さんと正さんに伝えたあの日、「道四郎…爺さんのことぜったい怒らせんじゃねえぞ?」「おいマサ余計な事言うんじゃねえ!だ、大丈夫だ滅多に怒りゃしねえよ!」と正さんはともかく、初めてみた怯えた甚さんを思い出し納得した。
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