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    tukum_0

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    道四郎くんがなんで蕎麦屋やってんのかなって考えた虚構です。track2特典を視聴した内容をやや含みます(ただし内容うろ覚え)

    売られた喧嘩は全て買った。こちらから売ることもあった。正直勝ち負けはどうでもよかった。
    これが思春期特有の血気盛んな時期の延長だとしたら随分と長く引きずっていることになる。自分でもわかっていた。
    そうしているうちに何もかもがどうでも良くなってしまった。家族も生活も自分自身も。
    漠然と「逃げてしまおう」と思った。思った時にはこの身一つで家を出ていた。
    行く当てはない。それでもここではないどこかへ行きたくてひたすら歩いた。
    どのくらい歩いたか、ハッとしたのと同時に誰かに肩を掴まれ後ろに引かれた。状況を把握する間も無く目の前に無数の星が飛んだ。
    顔を上げれば以前ボコボコにした奴が「この前はどーも」と笑っていた。多勢に無勢。ズルズルと路地裏へ引き摺られ殴る蹴るのオンパレード。抵抗する気も失せた。
    気がすむだけやってくれ、もうどうでもいい、つかれた、と意識を手放しかけた時に聞こえた耳をつんざく怒号
    「テメェらァ!!俺の街で何してやがんだ全員そこに並べや根性叩き直してやる!!!」
    うるさ、と思わず溢した声に「おっ、意識はあるな?良かったよかった!あぁ!ちょっとジンちゃん!ほどほどにな〜!」と呑気な声と酒の匂い
    酒のにおい…そういえば酒飲んだことなかったな、煙草にも手を出さなかったな
    どうせなら酒飲んでみたかったな…まあいいもうどうでもいい。そう思って意識を手放した。

    賑やかな声がする。なんならうるさいぐらいの、なんだこの音は。太鼓?祭り囃子?あとは酒のにおい?
    ぱちりと目を開けると眩しいくらいの明かりが飛び込む。同時に遠くで聴こえていた音がガンガンと耳に飛び込む。
    「、るせえ」
    「んん〜?あ、やっと起きた!ジンちゃぁーん!!」
    体を起こせば全身に痛みが走る。思い出した。前にボコした奴らが復讐しにきて、それで、
    「ヨォにいちゃん、具合はどうだ?」
    これが俺と甚さんと正さんが初めて会った時の忘れもしない記憶だ。

    事切れた得体の知れない俺をおぶって連れ帰り手当てして目が覚めるのを呑みながら待っていた。そう話した2人は「で?お前はなんでサンドバッグになってたんだ?」「お前強そうなのにな〜」とどこのガキともしれない俺に構い散らかした。その圧に押し負けて全てから逃げてきたことを話したら今度は(主に甚さんが)怒鳴り散らかした挙句俺の脳天にゲンコツをお見舞いした。
    今までのどんな殴りや蹴りより痛くて涙が出た。
    「お前、アサクサに来いや」
    居場所がねえならここにいりゃいい、ついでにその根性叩き直してやる。ただし全部片付けてからこい。鬼のような顔をしてたのに最後に人の良い笑顔で俺の頭を撫でた。

    それから俺は全てにケリをつけアサクサの街に飛び込んだ。義理と人情の街。突然やってきた若造にもアサクサの皆は何も言わずに色んなことを教えてくれた。
    アサクサでの俺の住む場所は甚さんが贔屓にしている蕎麦屋の爺さんの家になった。
    ここの蕎麦はアサクサで1番美味いのだと、アサクサに来て最初に食べさせてくれたものだった。その時に「いく所がないのならウチにくるか?ちょうど部屋もあいてるぞ」と蕎麦屋の爺さんが申し出てくれた。居候はさすがに申し訳ないと言えば、出世払いで構わねえよと甚さんに似た笑顔で迎え入れてくれた。

    そんな爺さんが「そろそろ潮時かねえ」と溢した。無病息災、元気な爺さんだと思っていたが話を聞けば蕎麦の味が落ちたという。俺にはわからない、いつだって爺さんの打つ蕎麦はアサクサで1番美味いのに。
    「そんなこというなよ、いつもうまいよ」
    「いや、そう感じちまった時には店閉めようって決めてたんだ。歳も歳だしな」
    追い出したりはしねえから安心しろと、笑う爺さんに「俺が継ぐ」と反射で返していた。
    ずっと避けていた気がする言葉が簡単に自分の口から出たことに驚いた。
    アサクサに来たはいいがそう簡単にやりたい事が見つかるわけもなく、皆の手伝いばかり。「お前にしか出来ないことが絶対にある」甚さんに言われてアサクサに来ることを決めたのに、そんな俺を受け入れてくれた皆の優しさに甘えて見て見ぬ振りしていた。
    俺は爺さんの蕎麦を楽しみにしてる人たちを知っている。汗水流して働いて昼を知らせる鐘の音を聴き「爺さんとこの蕎麦食い行くか!」と笑う人を。「爺さんの蕎麦で飲む酒は格別だねえ」と笑う人を。どちらも俺の恩人だ。

    「道四郎、俺は蕎麦に関しちゃ手は抜けねんだ。同情で言ってんならやめとけ」
    「同情じゃねえよ本心だ。あと俺知ってんだよ爺さんが実は頑固でこの街で1番怖えってこと」
    「甚八に聞いたのか?アイツもまだまだだな…で、俺の後を継ぐって?それこそテメェを追い出しちまうかもしれんぞ?それでもやるってのか?」
    「…やる。甚さんや正さん、他のみんながここの蕎麦が無くなるなんて聞いたら泡吹いて倒れるだろうが。爺さんがやらねえなら俺がやる」
    「男に二言はねえな?」
    「ねえよ。この街に来るって決めた時にそういう感情は全部片付けてきた」
    甚さんと正さんに追いつきたい。並びたい。

    「俺にこの店を継がせてください。アサクサ一美味い蕎麦の打ち方を俺に教えてください」



    「よぉ道四郎!」
    「きたぜ〜!腹減ったぁ〜〜」
    「甚さん!正さん!いらっしゃい!注文は?」
    「いつもの頼むわ」
    「了解!あ、そうだ今日は良い海老仕入れたから海老天もつけときますね!」
    「まじ?!やったー!道四郎サイコー!!」
    「オイオイ勝手なことしたら爺さんに怒られるんじゃねえか?」
    「大丈夫っすよ俺の奢りなんで!祭りの準備手伝いに行けないお詫びなんで!」
    「まあお前がそういうならありがたく受け取っとくわ」
    「そうこなくちゃ!すぐ作りますね!」
    「…道四郎」
    「はい?」
    「お前も立派なアサクサの男になったな」
    「…甚さんのおかげっすね」
    「え、俺は?!」
    「正さんはー…あー……うん、正さんもか?」
    「オイオイなんで疑問系なんだよ〜〜!俺だってあんなことやこんな事、」
    「だーっ!!うるせえ!俺は腹減ってんだ!道四郎ォ!早いとこアサクサ一美味い蕎麦頼むわ!」
    「あいよ!」
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