命日と誕生日俺の行いが善であると表面上だけを掬えばそう見えるだろうがやっていることといえば正義もクソもないというのは自分でもよく理解している。ただ、他人にとってはそうでも俺にとってはどんなことをしても成し得なければならないものなのだ。たとえそれが自分の命と引き換えであったとしても。
かの有名な聖女のように神のお告げが来たわけではない。俺自身で決めた揺るぎない信念であり確固たる意志だ。
今まで裏切られたことが無いわけじゃない。こちらも相応のことをしていたのだから当然だ。その度にどうにか生きてきた。我ながらよくここまで生き延びているなと感心する。驚くことに最近じゃそんなことも減った。
「裏切られて謂れのない罪を着せられて最後には火炙り、ってな」
「あ?ンだそれ」「…俺の未来の話、ですかね」「火炙りっていつの時代だよ」「海に沈める方がいいってか?」「その方が楽じゃね?」「違いないな」
深夜のヨコハマ、波の音が微かに聞こえる駐車場に蛍が2匹、煙を燻らせる。
「しかしジュートがそのような結末を辿ることはないのでは?」「おや、そう思いますか?」
「以前までのことはわからないが、今のジュートは誰に裏切られるんだ?」
「はい?」
「小官たちに裏切りは無いのだろ?サマトキ」「…ああ、そうだな」
簡単に言ってのけるコイツらだって、各々に確固たる意志があり目標がありその為なら自分は二の次にするくせに、仲間に対してになるとこれだ。頭が痛くなる。
そういう俺もいつの間にかこの2人に絆されているんだろうなと、気づかれないように煙にため息を混ぜ吐き出した。
何度も警報は鳴っていた。それ以上はやめておけと。わかっていたのに厄介な奴らと手を組んでしまった。
「…そう言われてしまうと何も言えないですね」「ッハ!照れんなよ」「そっくりそのままお返ししますよ」
善行だけでは俺の目標がこの命のあるうちに達成できないと悟った。リスクを取れないなら何も達成できないのだと気づいた。善と悪の違いがわからないほど落ちぶれちゃいない。それをわかった上で俺は目的のために悪を選んできた。だから俺に謂れのない罪は無い。きっと全て本物だろう。
「我々の行いが罰せられたとしても、目的が達成していれば皆悔いはないだろう。それに史実と同様ならば500年後には貴殿の功績として讃えられるはずだ」「…私はジャンヌダルクではないですよ」「ジュートが言い出したことだ」「ふふっ、失礼。そうでしたね」
「つーか何で俺様たちが罰せられんだよふざけんな」
火の海で十字架に祈りを捧げるような潔さは生憎持ち合わせていないが、最後まで足掻いてもがいていたらコイツらがありったけの水をかけてくれるんじゃないかと夢を見てしまう。
または煙草の火付けにでもされるかもしれないし、俺が炭になるのを静かに見届けるのかもしれない。
いや、今のお前らなら水も被らずに火の海へ飛び込んできそうだ。ああ、想像に容易い。
きっと俺ならそうしてしまうだろう。
でももし理鶯の言う通りなのだとしたら。
倒れる時は3人揃って、お前らとならば毒も皿まで、
火の海の中、3人で目的達成を祝している姿が思い浮かんで笑いが止まらなかったことは、私だけの秘密にしておこう。