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    白ゲコ(aktkg)

    自分用に過去の絵を見直せるように作りました。
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    @sirokaeru_ksgr

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    白ゲコ(aktkg)

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    創作小説
    男子大学生2人の話

    ##もじ
    ##オリジナル

    嫉妬に始まり 理解者がいない人生。心の内を聴いて欲しいが、独り善がりになってしまうだろうか。
     柔らかい朝日と目覚める前の静けさは孤独な自分に寄り添ってくれている空気だ。シェアハウスは至近距離に気配があっても心の内の孤独感までは慰めてくれない。たんまり膨れていた新聞も配り終え軽くなった。忙しない朝から逃げるようにバイクを走らせる。数週間前より過ごしやすい気候にはなりつつあるが、残暑でじんわり汗をかいている。そそくさと制服から着替えタイムカードを切り、バス停まで早歩きで進む。大学に入学してから2週間経過していた。先週まではシラバスとにらめっこしていたが、いざガイダンスが始まると大学生らしくなってきたと胸が躍る。

     広大な敷地内であるから目的の教室にたどり着くまで数回隅に立ち止まりキョロキョロ見回した。一体、この間だけでも何人の学生とすれ違っただろうか。授業30分前であるにも関わらず賑やかな声が校舎一帯に響く。早めに来れば好きな席に座れると思っていたが、これでも若干遅かったらしい。前も後ろも席が埋まりつつある。3人用の長机で誰も座っていない場所はどこにもなかった。一つ席を空けてぽつりぽつりと鎮座している。残念なことに身体に恵まれなかったため、あまり後ろの席に座ってしまうと前方の席の背で全く見えなくなってしまう。何よりも、その広い背に対して眺望と欲情を募らせてしまうためどうにか避けたい。左列で前から3番目右端の席を座ることにした。

    「なあ、お前ってトランスジェンダーってやつ?」
     性別に関する話題に声の先を振り向く。わざわざ聞くべきではないのに、と一瞬眉をひそめたが、聞かれた彼……いや、彼女は淡々と答えた。
    「別に?俺が気に入ってるだけ。性自認は男だよ。」
    その答えに想定外からか否定的か、周囲が再びざわつく。彼女……じゃなくて彼、でいいのか。肩幅の広さや喉の太さ、声で男性だと判断できるが、化粧もあってか顔立ちは端正な女性そのものだった。僅かに肩に届かない赤黒い髪が艶やかに輝く。軽はずみに異性になりきるのは冒涜とまくし立てる者がいれば、女だったらタイプだったのにと冷やかす者、性的少数者を支援する団体に勧誘する者が寄り付いていた。そんな懐疑や好奇の視線にも物怖じしない姿がどこか羨ましく、本当の自分を曝け出さずにいてよかった安堵を覚える。

     他者と意見を交わすと新鮮な知見を得られるといえど、個人のプライベートを言及された途端に萎縮してしまうので必要以上に疲れてしまう。自己紹介の機会があるたびに掘り下げられてボロが出ないか恐れてばかりだった。だんだん空は夕闇に染まりつつあるが、なんとなく帰りたくないため図書室の本棚をぼんやり眺めていた。卒業までに全部読み尽くす、なんて無謀な目標でも計画してみようかと数冊手に取る。自宅に持ち帰る分を貸出機に通したあと、挙動不審になりながらも席を移動し続け、入り口から離れた席に腰を落ち着けた。

     高校の図書室とは比べものにならないのは当然かもしれないが、専門的な本を好きなだけ読める環境に気兼ねなく来られただけで人生が好調になった実感が湧く。唯一の問題というと居心地の良さのあまり他者と関わる時間を更に削ぐ結果になっていることだけだ。だったら先ほどの席を移動し続ける奇行なんかせずにいればいいものを、と冷たくあしらう言葉も過ぎる。

    「奇遇だね、俺もその本探してた」
    「うひぃっ!?」

     突然後ろから話しかけられたものだから幽霊でも見たかのような悲鳴を上げてしまった。相手は悲鳴で驚いたのかうおっと小さく声が漏れた。

    「ああ、驚かしてごめん。この辺人が少ないからなおさらだよね」

     爽やかに現れたのは一限で良くも悪くも注目を集めた彼だった。誰に何と言われようと揺るぎない信条を持つ相手とはあまり関わりたくないところだったが、まさか向こうから話しかけてくるとは思わず返答に困る。

    「初回から自己紹介込みで討論するから何話せば良いか悩んだんだけど、そっちのグループはどうだった?ずいぶんと盛り上がっていなかった?」

     緊張なのか畏れなのか、冷汗三斗の状態に支配された。ただでさえ話題の的になっていたというのに、別の班の様子まで見ているとは思ってもいなかった。自己紹介は無難な内容で難を逃れたが、確かにその後の討論で過熱してしまったからだ。

    「あ、ああ……当事者と親交の深い人がいるのといないのじゃ認識の違いはかなり違うからさ……どちらかというと揉めかけたのを窘めたんだ」
    「揉めていたんだ、どんな意見言ったの?」
    「知り合いに同性愛者がいてさ……俺のグループにどうしても理解できないし少子化に繋がるから弾圧した方がいいていう過激な奴が興奮していうものだから許せなくて」

     知り合いも何も俺自身なんだけどさ、と自虐を心の内に留めた。

    「そうだったんだ、その知り合いも君みたいに理解者がいるだけで多少は気休めになっているんじゃないかな」

     自虐がむしろ墓穴を掘る結果になった。目に見て分かるくらいには顔を引きつったので俯きたくなる。

    「理解者……か……。同性愛者じゃなくたっていた方がいいに決まってる」
    「それもそうだね、何も特別なことなんてない」

     その特別にどれだけ縋りたいかお前に分かるか。次第に畏れから怒りに変わっていく。変換理由は彼に対する嫉妬に他ならない。

    「そんなに特別な奴がいるんだ?いいな、羨ましいよ普通に

    だったらその一人にでも仲間入りしたいもんだなぁ」

     遠巻きに様子見していただけでも聞くに堪えない言動をちょくちょく耳にしていたが、直に聞き続けているお前なら罵声の一つくらい流すだろう。そう、思った__

    「……へえ?それ、誘ってる?」

     爽やかな印象だった笑みから一変、目を細くなりにやついてきた。途端に嫉妬の絶頂も瓦解して畏れに戻った。

    「……なっ、何言ってんだよお前、大体性自認は男って言ってたじゃん」
    「ははっ、そうだよ。異性の方が惹かれるし。でも」

     急接近で耳元まで迫りねっとりと囁かれた。

    「抱かれるなら男性がいい」

     不本意に彼の秘密を知ってしまったが、どちらかというとこちらが言質を取られたような気分になった。事実、同性に抱かれたい彼には誘い文句と認識されてしまったのだから。

    「そうだ、忘れてた。俺の名前、マインね。君は?」

     嵐が去ったと思えば即座に振り向き、自己紹介をされた。難は逃れたと思っていたのに。

    「……ビリー」
    「よろしくね、ビリー」

     欲しいものを持つ彼に執着されようものなら、己の嫉妬と惨めさが刺激され続けるだろう。だったらいっそ、俺そのものが一番特別な存在になってしまえば優越感と安らぎを得られるようになるかもしれない。木曜日の朝、同じ120分を過ごすことに得も言われぬ緊張感が漂うことになった。
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