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    fkstrike_yoi

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    プレカンでヴィクトルのことを語りだしたら止まらない勇利くん

    プレスカンファレンスはこ用心!「勝生選手、グランプリファイナル優勝おめでとうございます。このトリノのリンクはコーチであるヴィクトル・ニキフォロフ氏も若き日に栄冠を手にした場所でもありますが、コーチの演技で好きなナンバーは?」
     その記者の問いに、俺を含め、プレスカンファレンスの会場中が溜め息をついたことだろう。
     あまりフィギュアの会見場で見かけたことのない記者だ。
     地元メディアの記者なのかもしれない。
     なぜなら、彼女と、会見の真ん中にいる選手を除き、ここにいるほとんどの人間がその質問がタブーなものであることを知っているからだ。
     あー……勇利の瞳がキラキラ輝いているよ。
     これは、覚悟しないといけないな。

    「ありがとうございます!……コーチの演技ですか……。そうですね、まず挙げるとすると、ここトリノで行われたあの大会!シニア一年目での栄冠という奇跡を田舎のテレビで夢中になってみていた日のことを思い出します。まだ少年から青年に変わるくらいの危うげな中性的魅力。あの頃はまだ髪が長かった頃で、滑る度に揺れてそれがリンクにまた映えるんですよね。あの頃は四回転だって跳べるだけで凄かったのに四回転トゥループ、三回転トゥループ、二回転ループの三連続のコンビネーションを決めて、しかも若手選手にありがちなジャンプは跳べるけれどスピンやステップ、スケーティングそのものが稚拙な感じも全然なくて、ああ、その前の年の世界ジュニア!あの時の演技も忘れられません。今みたいに気軽にネットで配信を見られる時代じゃなかったので僕のホームリンクが手に入れてくれたビデオテープを擦りきれるまで何度も何度も見ました。あれからずっとヴィクトルは僕の憧れてあり続けて……。そうそう、髪を切ってはじめてのシーズン、少年の香りが消え去って、体つきも男!って感じで、正直、ヴィクトルが髪を切ったって知ってショックをうけたこともあったんですが、ヴィクトルみたいにしたい!って髪を伸ばしたがる僕の家族はほっとしたようです。まあ、こんな平凡などこにてもいる日本人顔の僕がヴィクトルの真似するなんておこがましいことなんであの頃の僕を殴りにいきたいとも思いますが。あ、そんなことはどうでもよくてヴィクトルのプログラム!これくらいの頃からコレオグラファーに任せっきりじゃなくて、徐々に自分の、ヴィクトルの色になってきたというか、無論その前の振り付けも最高だったんですが、コレオグラファーにヴィクトル・ニキフォロフと連名ではいってたのを見てすっごく感動しました。そうそう忘れちゃいけないのは四回転フリップをはじめて跳んだあの試合ですよね。世界初なのに、ほんと軽々、回転もエッジもなんのエラーもない加点のついた完璧なフリップ……あの頃僕はトゥループすら苦戦していてヴィクトルとの遠さを思い知らされたものです。さらには、「離れずにそばにいて」あれはもう一生忘れられないでしょう。いやどのプロも凄いんですよ!ヴィクトルは!いっこたりとも忘れられないけれど、あれだけは別格です。切ないほどの激情を歌い上げたアリアに乗せたスケートはもはや物語ですよね!ヴィクトルのつくるプロはどれも素晴らしいんですが、胸を締め付けるようなアリアの中で次々に決めていく超絶技巧ですよ!ジャンプが凄いのなんてもう僕があげなくてもご存知だと思いますが、すべての要素を演技の中に流れるように自然に落としこんでいるところが……」
     そろそろ止めるべきだろう。
     勇利が俺のプロをずっと好きでいてくれたのも、これだけ熱心に見てくれていたのも、ずっと記憶にとどめ続けてくれていたのも、すっごく嬉しい。
     しかしこれはグランプリファイナルのメダリスト記者会見なのだ。
    「オーケイ、勇利。君が俺のプログラムを愛してくれていることがよく伝わってきたよ」
     普段の取材対応だってこれくらい話せればいいのに、シャイな勇利がこんなにマシンガンのように話すのは俺のことを、まあ選手としての俺のことだけど、話す時だけだからね。
    「君のコーチの歴史は、あとで個人レッスンをしよう。いいね?」
     ウインクをひとつかましてあげれば、不本意だがすっかり「ヴィクトルのファン」モードになっている勇利はイチコロだ。
    「ひゃっ、ひゃいっ!」
     身体のすみずみまで知る中になった今でも、こうした反応をしちゃってくれるのは、まあ元選手の俺にとっては光栄で、コーチの俺としては厄介で、恋人の俺としてはちょっと面白くない。
     だってこの勇利は目の前の俺じゃなくて、過去の俺を追っているから。

     さあて、個人レッスンを楽しみにしておくんだね。




    「だーかーら、違うでしょ!ヴィクトルの二十二歳の時の演技は、それじゃなくて、こっち!!もう、ヴィクトルならヴィクトルの演技まちがえちゃだめでしょーよ!」
     数時間後、たっぷりと「ヴィクトル・ニキフォロフの歴史」を個人レッスンされるヴィクトル・ニキフォロフがいたことは、まあ、少し予想はついていたけど。
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