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    verace1511

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    verace1511

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    潔癖症のバーボンとバーボンにやさしくしたいライのお話。
    ライに「抱きたい」と言われてからのある日の二人の話です(終始いちゃいちゃしてるだけ)

    けもののあいしかた「……それ、してて楽しいですか?」
    「なんだ、嫌か」
    「……いえ、別に嫌とかじゃないんですけど……」
     そうか、とぶっきらぼうな声を最後に、ふたたび二人の間に静寂が訪れる。バーボンが問うている間も止められる事のなかった手は、そのままやわらかな金糸を梳き続けていた。
     パーティー会場や取引の場で触れられる手は吐き気がする程嫌悪感が伴うのに、何故だか隣にいる男の手だけはそういったものを感じない。その現象に名前を付けられないまま、されるがままになっていると、ライと一緒に過ごす時間は少しずつ増えていった。
     その見た目からは想像できないほど優しい手つきは、思ったよりも悪くない。悪くないからこそやめて欲しい、とも言えず、バーボンは読みかけの本へと視線を戻した。



     けもののあいしかた



     バーボンは潔癖症だ。
     幼い頃からそういった趣味の大人に度々悪戯をされそうになった事、見た目のせいで好奇の目に晒される事が多く、物心がついた頃にはそうなってしまったのだとライが知る事になったのは少し前の事だ。
     それを知ったのは偶然であったが、いつだって気丈なバーボンが誰かに触れる事も触れられる事も苦痛を伴い、真夏であっても手のひらを覆う手袋が手放せないのだと知った時の衝撃はライにとって思った以上に大きかった。
     だがそれを知ったのが自分でよかった、とも思ったし、同時にどうにかしてやりたいと思ったと知ったらバーボンはどんな顔をするのだろう。わざわざ口にしたりはしないが、任務先から帰って来たバーボンの横にいるライを見て、彼は文句を言ったりはしなかった。
     どう思っているのかはわからないが、抱き締めたライの腕を嫌がらなかったのをいいことに、あの日から少しずつ触れ合う回数は増えていっている。
     最初は隣に腰掛けるライに身を固くしたままであったり、居心地悪そうに視線を泳がせてみたり、そんな時間の方が多かっただろう。しかしそんなバーボンに文句一つ言わない男の姿に安堵したのか、少しずつ力が抜けていくまでの時間が短くなっていくのをライは感じていた。
     頬に、手のひらに触れれば嫌がる素振りよりも褐色の肌が朱に染まる回数の方が増えていく。それを見て期待しない男などいるのだろうか。
    「ん……何ですか」
    「……なんでもない、気にするな」
     髪を梳いていた手を滑らせ、指の背で頬を撫でてやる。滑らかな肌の感触を楽しむように撫でさすっていると、擽ったそうに肩を竦めたバーボンはちらりとこちらへと視線を寄越した。
    「気にするな、って言ったって……ん、擽った……」
     ふふ、と堪え切れなくなったのかバーボンが声をあげる。それが合図かのように、二人の間の空気が先程よりもやわらかくなった気がした。
     任務中や他の組織の人間の前では気の強そうな顔で隙なんて微塵も見せないくせに、こうして触れていると時折ライの前で甘えたような表情を見せる時はまるで別人のように無防備になる。それをもっと見たくて、もっと触れたくて頬から顎のラインをすりすりと撫でていると、それを止めようとしたバーボンの手がライの手のひらを掴んだ。その手に、バーボンの心を守る手袋はない。
    「もー、ちょっと、何なんですか! くすぐったいって言っ……うわっ」
     掴まれた手を不意に引いてやると、気を抜いていたからか簡単に華奢な体はこちらへと倒れ込んできた。ライの膝に手をつくような形で倒れ込んだせいで距離が近くなり、弾かれたように見上げてきたバーボンの瞳には羞恥と戸惑いが見える。
    「……ライ……あの、スコッチは……っ、ん……!」
     言い終わらないうちに唇を塞ぐと、僅かに抵抗を見せた体が腕の中でもがく。触れ合わせるだけですぐに解放してやると、すぐにまた触れ合う事のできる距離で囁いた。
    「……今日はベルモットの護衛だから遅くなるそうだ」
    「っ……」
     ライの言葉を聞いて、ブルーグレーが期待を滲ませて揺らぐ。その瞳を見ていると何故だか嗜虐心と庇護欲とがない交ぜになって酷く高揚してしまう。初めて女を抱いた時でさえ、そんな衝動はなかったというのに不思議なものだ。
     本人にそんなつもりはないのだろうが、こういう所が男を誘うのだろう。ライも例外ではないのだが。
     視線が絡み合ってどちらからともなく瞼が閉じ、唇が重なるとライはバーボンの腰を抱き寄せた。
    「ん……っ、ふ……」
     やわらかな唇の感触は何度触れ合わせても飽きる事なく、何度でも啄んで離せなくなってしまいそうだ。角度を変えて何度も触れる唇の狭間であえかな声が漏れる。その声を聞いているだけで下半身に熱が集中してしまうというのに、性急にならないようセーブするのが段々と難しくなってきているのをライは感じていた。
     やさしくしたい、大事にしてやりたいと願っている筈なのに、ついもっと、と求めてしまう。
    「は……ッ、バーボン……」
    「んんっ、んぅ……ぁ、」
     腰を抱いていた手のひらが背を撫で、太腿を撫で上げると、先程よりも感じ入ったような声が漏れ聞こえて手のひらの動きが止まる。これ以上触れてしまえば我慢する事はできないだろう。
     先程から太腿に当たっている熱の存在にも気付いていたライは、濡れた唇を首筋に落とすと背をポンポン、と軽く叩いてやった。
    「ライ……?」
    「……今日はここまでだ」
    「え………なんで、しないんですか……?」
    「バーボン……?」
     控えめに絞り出された声の方を向けば、戸惑った視線と目が合った。言わなければよかった、とでも言いたげな様子のバーボンをじっと見つめ返す。その先を促すような男の視線に負けたのか、一度視線を泳がせた後、おずおずと重そうな口を開いた。
    「……抱きたいって、言ってたから……この前……」
    「………」
     ライの双眸が驚きで見開かれる。
     バーボンが時折見せる脆さに触れるようになってから暫くが経った頃、確かにライはそうバーボンに告げた。それはすべて嘘偽りのないものであり、間違いなく本心だ。バーボンに何かを偽った事など一度たりともない。
     バーボンに対して強い庇護欲のようなものを感じて一緒に過ごすうち、いつしか彼にもっと触れたい、抱きたいという劣情を感じるようになった。だがそれは同時に、パーティーや任務先でバーボンに下卑た視線を向ける男達と自分が、何ら変わらないという事を物語っていた。自覚したのは、任務を終えて酷く疲れ切って憔悴していた彼を慰める為に触れるようになってすぐの事だった。
     怖い事は何もしない、と宥めておきながら、実は男達と同じように汚い視線を向けているのだと知ればこの子は怖がってしまうのだろうか。半ば試すように『抱きたい』と告げたライを、バーボンが拒む事はなかった。
     拒みはしなかったが、それからずっと、ライには何も言わず抱かれる為の心づもりをしていたのだと思うといじらしくて堪らない。
    「……無理しなくていいんだ、バーボン。俺は怖がってる子に無理を強いてまで抱くような趣味はない」
    「っ……怖いわけじゃ……!」
     心外だとでも言いたげにバーボンが頬を膨らませる。だが口では強がった風な事を口にしてみても、恐らく僅かな恐怖は拭い切れていない筈だ。
     抱きたい、だが無理を強いたくはない。どれも本心だ。
     しかし少し強情なところがあるバーボンにどう説き伏せたところで、きっと一度言い出した事は引っ込めないだろう。なんとなくこの後の展開が読めてしまったライは、小さな溜息をつくと吸いかけの煙草を灰皿に押し付けた。
    「……わかった……途中で後悔したら言うんだぞ」
    「だからしないって……ッ」
     まだ言い返そうとする唇に己のものを触れ合わせ、出かかった言葉が二人の間に消えていく。あんなに威勢がよかったのに、いざ触れてみればバーボンはすぐにさっと頬を朱に染めた。
     軽く触れ合わせるだけの口付けが段々と深いものになり、縋りついてくる指先に力が籠る。背を撫で、頭を撫でて角度を変えると、自然と開いた唇の隙間から舌を潜り込ませた。
     一瞬怯えたように震えた肩を撫でて腰を抱き寄せてやれば、強張りかけた体から少しずつ力が抜けていく。本当にこんな状態でセックスなどできるのだろうかと心配になってしまうが、本人は本気でそのつもりなのだろう。舌先で小さな舌を擽っていると、ライのそれに合わせるようにして舌を絡ませてきた。稚拙な動きではあるが、ライの興奮を煽るには十分だ。
    「っふ……ん、……ぁ……ッ」
    「……っ……そうだ、うまくなったじゃないか」
    「んんっ、ん……」
     鼻にかかったような甘い声が洩れる。それに煽られるがままに組み敷いてしまいそうな衝動を押し込めると、できるだけ怖がらせないようにそっとやさしくバーボンの体をソファに倒した。
     性急に事を進めるのもよくない事はわかっている筈なのに、その先を強引に求めてしまいそうになる自分が常に隣にいる。口では無理をしなくていい、なんて言いながらもそれに気付かされて、思わずライは噛み殺せなかった笑みを洩らした。
    「……ライ……?」
    「……いや、なんでもない」
    「ん……んん、ッ……っあ、」
     訝しげな視線を寄越すバーボンに悟られぬよう、頬を撫で再び口づける。艶やかな唇に誘われるように再び舌を差し入れ上顎を擽ってやると、感じ入ったような声が響いた。そこが弱いのか、何度も舌先で擦り上げるようにしてやるとびくびくと背が跳ねるのに合わせて抑えきれなかった声が洩れ出る。冷静に考えれば同じ男の喘ぎ声を聞いたところで何も感じない筈なのに、確実に下半身に熱が集中していくのを感じた。
    「……口の中が気持ちいいのか?」
    「っ……やだ、見ないで……」
    「そういう顔もできるんじゃないか……見せろ」
     普段の彼からは想像もできない、恥じらいを隠しきれない頬はしっかりと朱に染まっている。それを必死に隠そうとする手のひらにさえ興奮を隠せないと知ったら、ようやくライの手を怖がらなくなったバーボンはまた怯えてしまうのだろうか。
     それなのに、何故だか彼を見ていると酷くして泣かせてしまいたくなるような衝動をふたたび感じて、かさついた手のひらに唇を落とした。濡れたリップ音に手のひらから力が抜ける。それをいいことに自分よりも細い手首を掴むとソファに縫いつけてやった。
    「や、だめ……っん……んんっ、ぁ」
    「何が駄目なんだ? 抱くならもっと泣いてぐちゃぐちゃになった顔も見る事になるんだぞ」
    「っ、な……」
     明け透けな物言いにバーボンの唇がわなわなと震える。それがおかしくてクツクツと笑いながら首筋に舌を這わせると、シャツの裾から手を滑り込ませた。吸い付くような肌の感触を楽しみながら徐々に手の位置を上げていくと、指先が既に立ち上がっていた乳首へと触れる。周辺をぐるりと撫でて少し意地悪く乳首を爪弾いてやると、びくりとバーボンの背が跳ねて眼前に両手が飛び出した。
    「っ、やぁ、待っ……!」
     思わず、といった様子の手のひらはべちっと音がしそうな勢いでライの頬を叩き、その衝撃で反射的に手を止めた男は指の隙間からバーボンを見下ろす。二人の間に僅かな沈黙が生まれ、ライは小さく息を吐いた。
    「……ほら見ろ、言っただろ」
    「あっ、ちがっ、ごめんなさい……」
    「何が違うんだ。怖いんだろう?」
     違う、とバーボンは首を振ったが僅かな手の震えが隠せていない。深い溜息を吐き出すと、何かを勘違いしたのか怯えたように肩が小さく震えた。
    「……違う、怒ってもいないし呆れてもいない」
    「っ、だって……」
    「手が震えてる。無理しなくていい」
     衣服が乱れたままのバーボンを引き起こし、宥めるように頭を撫でてやる。ムキになる子供をあやしているみたいだな、と思ったのはライだけではなかったようで、バーボンはすぐに不服そうな表情で押し黙ってしまった。
     納得してはいなさそうなバーボンの額に口付けを落とす。ちゅっと可愛らしい音がしたのが気に食わなかったのだろうか。ふたたび頬を膨らませたバーボンは、ライのシャツを掴むと思いの外強い力で引いた。
    「あの……縛ってください」
    「……は?」
     予想もしていなかった言葉が飛び出したせいで、ライは思わず間の抜けた声を洩らす。
    「先に進もうとしたら反射的にあなたを拒んでしまうかもしれません……だから、拒めないように縛って欲しいんです」
    「…………」
     だめですか? と問われてどう答えるのが正解なのか、ライの脳内は混乱を極めた。確かに一理あるのかもしれないが、自分が何を言っているのかわかっていなさそうなバーボンの言われるがままにしてしまうのも何だか騙しているようで気が咎める。
     そもそも性に疎そうなバーボンに誰がこんな事を教えたのだろうかと、ライは頭を悩ませた。大方ベルモットかジンのどちらかのような気もするが、これが任務先で知り合った男のどれかだとしたら腸が煮えくり返る思いで撃ち殺してしまうかもしれない。そんな物騒な事を考えていると、手の甲に少し高い体温が触れた。
    「ライ……?」
     触れた指先と何の迷いもなく見上げてくる瞳にハニートラップの類を匂わせる雰囲気はない。寧ろ曇り一つない瞳に見つめられると何も言い返す事ができず、ライは深い溜息を吐いた。このまま求められた通りに彼を縛ったまま抱いてしまえば、開きたくはない扉を開いてしまいそうな気がしたからだ。
    「………」
    「……しないんですか?」
     投げかけられる言葉に頭は痛いが、目の前でこちらを覗き込んでくるバーボンの姿は可愛くて今すぐにでも組み敷いてやりたくなる。これが計画的なものでないと言うのなら、ある意味たちが悪いし尚の事心配ばかりが募ってしまう。
     よくこれまでこの組織の中で無事でいられたものだ。
    「……おまえ、他の奴にそれ言うなよ」
    「え……? ライ以外にこんな事言うわけがないでしょう? 変な人」
    「………」
     ライの放った言葉の意味はやはり伝わっていなかったらしい。あっけらかんとした様子のバーボンの言葉は、更にライの頭痛を酷くするばかりだった。
    「……おまえは俺をどうしたいんだ……」
    「……?」
     首を傾げたバーボンの顔に、先ほどまでの怯えたような表情は見えない。今のうちに進めてしまえばバーボンを縛らずに抱く事ができるのだろうか、などと思いながら、ライは罪作りな可愛い子の唇をふたたび貪った。

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