Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    verace1511

    @verace1511

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    verace1511

    ☆quiet follow

    凪茨新刊の冒頭。卒業後同居中の二人

    #凪茨
    Nagibara

    新刊進捗 火照る体に冷えた水が染み渡る。長湯でのぼせかけた体が欲するがままにごくごくとそれを飲み干していると、カウンター越しに恨みがましい視線と目が合った。長湯となった原因である彼の視線はできれば気づかなかったふりをしたいが、もはやこのやり取りも日課になりつつある事からそうもいかないだろう。彼――自分の敬愛する乱凪砂はすこぶる不機嫌だ。
     彼の言いたいことはなんとなくわかっている。だがそれには触れず「どうかされましたか?」と白々しくも問えば、頬の一つでも膨らましそうな凪砂が拗ねたような表情を浮かべた。
    「……乾かしちゃったんだ。やってあげるっていつも言ってるのに」
    「いえいえ、とんでもない! 閣下のお手を煩わせるわけにはいきません! お気持ちだけ有難く頂戴致します!」
    「私がしたいからさせてって言ったのに……ねぇ、茨……」
     駄々っ子のような表情をしていた凪砂の声が甘やかな音を含ませる。それに気づいた茨が僅かに肩を強張らせると、両手を広げた凪砂がソファーに座ったまま見上げてきた。
    「……おいで」
    「………」
     ぐっと茨が何かを堪えるような表情を浮かべる。だが再度求めるような眼差しを向けられ、抵抗する事は無駄である事を悟ったらしい。おずおずと凪砂に近づくと優しく腕を引かれた。心臓の音が少しずつ早くなっているような気がして気が気じゃないが、この男に誤魔化しは通用しないだろう。素数を数えながらじっとしていると、後ろで凪砂が柔らかな笑みを浮かべているのが空気で伝わってきた。すぐに逞しい胸に背後から抱き竦められて、心臓が跳ねた事に気づかれない事だけを願う。いつもするみたいに肩口に擦り寄って腕に力を込められると、まるで心臓でも握られたみたいに、ぎゅっと、胸が苦しくなった。
    (なんでこんな事に……)
     いつだったか『人と人との触れ合いはオキシトシンっていう幸せホルモンを分泌させる効果があるみたいでね』と凪砂が唐突に言い出し、茨を腕の中に収めた事がはじまりだった。彼の言動が突飛でこちらの想像しえない方向からやってくる事はいつもの事である。だが毎度毎度その突飛さに磨きがかかるので、いくらわかっていても茨ですらうまく対応ができない事もしばしばあるのだ。その日もうまく反応できないでいる間に、彼の腕の中に巧みに招かれてしまったというわけである。
     その時の驚きと衝撃は、今でもうまくあらわせる自信がない。これまでもライブの時の高揚感に任せて抱き合ったり撮影等で必要であれば触れ合う事はあったものの、あんな風に優しく抱き締められるなんて事はなかったからだ。
     まるで、そう……愛されているみたいで全身が痒くなるような感覚に包まれた事だけは鮮明に覚えている。
     最初こそ抵抗を見せた茨だったが、今ではすっかりと彼のやりたいようにさせているしされるがままになってしまっている。正直なところ他人との触れ合いに慣れていない茨にとって、他人のぬくもりに包まれるという行為はストレスにこそなれど幸せホルモンだなんてとんでもない……と思っていた。筈だった。
     それがどうだろう。あんなにも躊躇した筈の最終兵器様の腕の中は意外と、いや、茨の想像を打ち砕くくらいには心地のいいものだったのである。
    (くっそ、相変わらず顔がいい……)
     ちらりと背後を窺えば、今日も世界一美しい最終兵器様はとてもとてもご満悦そうな顔で己の背に顔を埋めていらっしゃるではないか。それが少しおかしくて、愛おしいななんて思ってしまってはた、と気づいた。
    (……愛おしい……?)
     自問して頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。本当に目の前に鈍器でもあったなら殴って欲しい位だ。ここ最近、まるで次々と機械に欠陥が見つかるかのように、茨の中で浮かび上がる凪砂への感情や衝動はおかしなものでしかない。
     今だって背後からふわりと自分と同じシャンプーの香りが鼻腔を擽って、むず痒いような感覚に包まれる。茨だって年頃の男の子なのだ。有り体に言ってしまえばムラムラしているというやつで、そういう欲求が人より薄いがないわけではない。だがそう感じている相手が相棒である凪砂で、更には自分も彼も同じ男なわけで……アダムとイブでEdenなどと謳っているアイドルが何をしているんだと頭を抱えたくなった。
     きっと疲れてるんだ、なんて思おうともした。だがぐっすりと眠れた日にすらお風呂上がりで濡れ髪の凪砂にムラムラとしてしまい、もはや言い逃れをできる状況ではなかったのである。その辺のAV女優にムラムラした方が、よっぽど健全だったかもしれない。
     さて、どうしたものか。これまで軍事施設であらゆる試練に耐えてきた茨ですら、頭を抱えたくなる程の難関だ。ひたすら耐えればいいだけの話だが、そう簡単な話にさせてはくれないのが凪砂である。
     抱き込まれている背からじわりと凪砂の体温が伝わってくる。いつだって涼やかな表情をしているくせに、意外と体温は高いんだよな、なんて思っているとまるで同じ事を思っていたかのような言葉が降って来た。
    「……茨はあたたかいね」
    「っ……今、風呂に入ったばかりですから」
    「そっか。うん、そうだね……いい匂いがする」
     スン、と旋毛のあたりで息を吸い込まれて頬に熱が集まるのを感じる。風呂上がりだからよかったものの、これが風呂に入る前なら引き剝がしてでもやめさせているところだ。
    (本当にもうどうにかしてくれ……寧ろいっそ殺してくれ)
     まるで拷問かのような時間が刻一刻と過ぎていくなかで、軍事施設にいた頃の拷問訓練の方がよほど耐えられたと茨は思った。大袈裟な話ではなく本心だ。ムラムラする相手に抱き締められたままどうする事もできずに耐えるだなんて、所謂生殺しというやつで。
    (頼むから何も気づかないでくれ……)
     そう。何の間違いが起きたのか、茨は相棒で同居人である凪砂に抱いてはいけない欲を抱いてしまっているのだ。病は気からとはよく言ったもの。それを自覚してからというもの、気のせいでした~! なんて言い逃れができない程に凪砂の事を意識してしまっているのだ。状況は更に最悪である。
     ご満悦そうな顔を再度見咎めると、どうにも振り解く事ができないのだがそういうわけにもいかない。この優しくて力強い腕をどうやって引きはがそうかと思いながら、茨は小さく息を吐き出した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕💕☺❤🌠
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works