ゼウスの憂鬱「ひっ、ぁ……あぁッ、ん……!」
「っ、は……ぁ、茨……」
どうしてこうなってしまったのだろう
もう何度目かわからない自問を、茨は今日も繰り返している。勿論セックスの最中なので、胸の内で、だが。
「ぁっ、そこ、ばっか……んぁあ、ア……ッ!」
「ふふ、茨はここが好きだよね……とんとんしてあげると、私のに絡みついてくるよ」
「やぁっ、言わなくていい……ッあ!」
何でもできる万能神。まさにその名を欲しいままにする凪砂は、色事においても優秀で完璧だった。最初こそインターネットや文献で見聞きしたものを真似て試している素振りはあったものの、すぐに茨の体の悦いところを覚え込んでしまったのだ。
今では抵抗も逃げる事も許されず、毎度高みへと導かれてしまう。男同士のセックスなんていいものではないだろう、などとタカを括っていた自分を過去に戻れるならぶん殴ってやりたい程だ。
(こんな、毎度毎度おかしくなる程気持ちいいセックスがあってたまるもんか……!!!)
恐らく体の相性は相当いいのだろう。それは受け入れている茨だからこそわかる事だ。
「はぁっ、ぁ、ん……かっか、ア……も、だめです……イっちゃ……!」
淫猥な水音と二人の荒い呼吸、肌のぶつかる音が鼓膜を支配してもう気持ちがいい事しかわからなくなってくる。先程まで繰り返していた自問は頭の中から消え去っていて、シーツを握り締める指に力がこもった。
内壁がぐねぐねと揺動して凪砂のペニスに絡みつき、吐精を促すように締め上げる。その締め付けから限界が近い事を悟った凪砂も、先程より余裕のなさそうな笑みを浮かべると突き上げる速度を早め、汗ばんだ頬に口付けて耳元で囁いた。
「ん……私も、そろそろ出ちゃいそう……茨の中で出していい?」
「っあ、ァっ、あ……ん、ぁっ、だしてくださ……ひあぁ――っ!」
「っ、く……」
ぎゅっと閉じた瞳の奥が明滅する。弛緩する体の奥底に叩きつけられる熱を感じながら、茨も二人の体の狭間で熱い飛沫を飛ばした。荒い呼吸が整わないままにじっとりと汗ばんだ体を抱き締められ、口付けられる。燃えるように熱い体温が茨を包み込んで、熱い筈の体がすーっと冷えていくような心地がした。
(なんでこんな事になったんだっけ……)
自分と、あくまでビジネスライクな関係にあった筈の凪砂がセックスするようになってしまったのは。
覚えているのは、いつもの好奇心と疑問に満ちた瞳。
そして、酷く求められたこと――。
ゼウスの憂鬱
「えっ、茨とナギ先輩って付き合ってないんすか?!」
「えぇ、当たり前でしょう。閣下と自分はあくまでビジネスライクな関係ですから」
「……ビジネスライクな関係ってセックスするんすか?」
「………」
そう言われてしまうともうぐうの音も出ない。
だがどう言われたところで凪砂と茨の関係が同じユニットのメンバーであり、仕事上での契約関係である事には何ら変わりはないのだ。
ただ、ひょんな事がきっかけで体を重ねるようになってしまっただけ。その一項目が足されただけだと、茨は認識している。
「じゃあセフレ?」
「……自分と閣下はお友達じゃありません」
「言葉のあやっすよぉ……でもキスもするならセフレって言わないよなぁ~」
重厚な皮張りのソファーで仰け反りながら、ジュンが一人気の抜けたような声をあげた。気持ちがないとキスはできないとでも言いたいのだろうが、生憎茨からすればキスもセックスも結局のところ『急所を相手に晒す』という行為であり、程度はあまり変わらない。じゃあ恋人でもない人間に急所を晒すのかと問われれば、それはそれで返答に困ってしまうのだが。
(契約者が望んだから差し出した、じゃ理由にならないですかねぇ……)
「……キスしてセックスしたら恋人だとでも? 随分と恋愛脳なんですねぇ、ジュンは。意外ですよ。その様子じゃ殿下との関係も良好なようで」
「なっ……! おひいさんは関係ねぇでしょうよ」