「さっきからずっとかっこいいなと思って見ていたんですけど、一人ですよね? もしよかったら、近くのカフェでお話しできませんか?」
来たくもない大昔に調査で派遣されてしまった政府職員の数少ない楽しみ、二〇〇〇年代の都市部で展開している大手コーヒーチェーン特製のオプション増増フレーバーコーヒーを両手に待ち合わせ場所に着いてみると、待ち人である山姥切長義が逆ナンにあっていた。
私が知るナンパといえば目当ての人物の端末をその場でハックしてメッセージを送ることなので彼女のように正々堂々と正面から目当ての人に声をかけてアプローチするのは激烈で大胆でドラマチックでクラシックな手段であり、それをこの目で拝めるのは知的好奇心が満たされて、面倒極まりない今回の任務の苦労なんて吹き飛んでしまうほどの異文化体験であった。
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