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    sajinage1373

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    現代遠征で逆ナンパされる長義と政府職員のラブコメ

    「さっきからずっとかっこいいなと思って見ていたんですけど、一人ですよね? もしよかったら、近くのカフェでお話しできませんか?」
     来たくもない大昔に調査で派遣されてしまった政府職員の数少ない楽しみ、二〇〇〇年代の都市部で展開している大手コーヒーチェーン特製のオプション増増フレーバーコーヒーを両手に待ち合わせ場所に着いてみると、待ち人である山姥切長義が逆ナンにあっていた。
     私が知るナンパといえば目当ての人物の端末をその場でハックしてメッセージを送ることなので彼女のように正々堂々と正面から目当ての人に声をかけてアプローチするのは激烈で大胆でドラマチックでクラシックな手段であり、それをこの目で拝めるのは知的好奇心が満たされて、面倒極まりない今回の任務の苦労なんて吹き飛んでしまうほどの異文化体験であった。
     逆ナンパを断るつもりでいる長義に彼女がどうアピールし食らいついていくのか見物しようと私はわざと長義たちから離れた道の脇に足を止めててコーヒーにこれでもかと盛り付けてもらった蜂蜜がけホイップクリームを味わっていた時だった。長義が人混みに紛れて隠れているはずの私の姿をしっかりと見つけて「早くしろ」と声もなく呼びつけてくるので、逆ナンパの光景を楽しむわけにはいかなくなってしまった。
     実は長義がこのように逆ナンパされるのは今回の調査でこれが初めてではない。その数はすでに十を超えている。長義は、初めのうちは自分を取り囲んでくる女性から自力で逃げ出していたが、人を使えばもっと早く逃げられるとわかってからはその手段ばかりを使うようになってしまった。つまり、長義が逆ナンパに遭う度にそのお助け要員として私が駆り出されている。今のように長義が一人でいたところに話しかけられていた時、私は長義のもとへ駆けつけて彼女らを長義から引きはなすのが長義と私の間で約束のようになっていた。
     私は咳払いをして喉の調子を確かめてから役目を果たすべく長義と逆ナンの彼女の方へ歩み出た。
    「長義さん、お待たせしましたー!すみません、カフェが思ったより混んでて」
     カラオケでもなければ出さないとっておきの一オクターブ高い声を絞り出して私は二人の間に割って入った。逆ナンパの場に男と親しい女である私が現れれば女性は気まずさからその場を辞するだろうというシンプルな作戦だ。無理のあるキャラで飛び出してきた私に一瞬目を見開いたが、逆ナンの彼女はそこらの刃物よりかはずっと鋭い目で私を睨んだ。
    「私、この人と大事な話をしてるのが見てわからない? 空気も読まずに割り込んで来ないでください。この人、私の運命の人なのかもしれないんです!」
     たいへん失礼いたしました。
     言葉の圧に(同じ姿かたちの身体が数えきれないくらいいる刀剣男士を運命だなんて!)、とりあえず声を高くして声をかければいいだろうという私の稚拙な対応への反論の余地のない指摘に屈した私は逆ナンの彼女に詫びを入れて、彼女と長義の前から退いた。
    「あなたは何してるんだ」
     私の道化ぶりに長義は自分の分のコーヒーカップと私のカバンを奪うと逆ナンの彼女の方に一歩前に出た。
    「見ての通り彼女を待っていた。暇はない。これで失礼する」
     そう言うと長義は私の肩を掴んだ。目の前から去ろうとする長義を逆ナンの彼女は立ち塞がるように足止めし私と長義を交互に指差した。
    「でも、この人とは恋人同士じゃないんですよね」
    「えっと、」
    「失礼する」
     長義は逆ナンの彼女にきっぱりと言い退けると私の背を押し出すように歩き出した。
     少し歩いてもう逆ナンの彼女とも距離が開くと、私は肩の上に乗っている長義の腕を外そうとした。逆ナンの彼女が指摘したように長義と私の関係は恋人にあらず単なる同僚である。肩を抱かれるようにして歩くことなんてしないから歩きにくくて仕方がないし、スーツ越しとはいえ長義に触れられているのはいささか心地が悪く、ザワザワと痒い感覚が首筋を伝って気持ちのいいものではない。
    「そろそろ離れてもらってもいいですか?」
     しばらく歩いて逆ナンの彼女と距離も十分離れただろう。私は肩の上にある長義の手を軽く叩いた。だが長義はどういうわけか私の肩を自分の懐にさらに寄せて、こともあろうに腕を私の腰に回してきた。
    「ちょっと!」
     思わず声を上げると、長義はシッと私を黙らせて早く私の首元に顔まで寄せてきた。コーヒーのクリームの匂いに混じって、嗅ぎなれない澄んだ香りが鼻腔に入ってきてまた首筋に痺れのようなものが走った。慣れない感覚に息をのんで肩を強張らせる私に構わず長義はそのまま言葉を吹き込んだ。
    「さっきの、俺たちの後をついてきている。見てみろ」
     長義の視線を追うように後ろを少し振り返ってみると人に紛れて逆ナンの彼女の姿があった。ここからは彼女の表情は見えないが耳につくほど怒らせている肩や細いヒールにも関わらず強く踏み出し歩いている様子だけでも彼女の怒りの念はこちらに伝わってくる。
    「だからってこんな体勢で歩かなくたっていいじゃないですか」
    「でも、今離れたら彼女は間違いなくこちらに全速力で走ってくるだろう。それにあの様子だと追いついた時に詰め寄られるのは俺じゃなくてあなただろう。試しに離れてみるか?」
     長義は意地の悪いことを言って離れようとしたので私は慌てて長義の背中に手を回した。
    「勘弁してくださいよ。……あーあ、下手な芝居なんて打たなきゃよかった」
     後悔を口にすれば、乾いた笑いが長義の口の端から漏れた。
    「大根役者ってああいうのを言うんだな。パソコンで検索するよりずっとわかりやすかった」
    「テンションの低い女よりフレンドリーな女性があの場に現れたほうがあの人が長義さんのことを諦めてくれると思ったんですよ」
    「どうして?」
     長義から質問されると思わなかった私は驚いてえっと声を上げてから少し考えて答えた。
    「逆ナンパしている方からしたら、声をかけている最中にその人の恋人が出てきたらそれ以上なにも出来なくなりますよね。それを狙ったんですけど」
    「アレが俺の恋人のフリだったのか」
    「そのつもりでしたけど」
    「それにしたって下手すぎるだろう。どうやったらああなるんだ」
     長義のごもっともな指摘に、私の身体は汗が浮くほど一気に体が熱くなった。あの時の私はてんこ盛りのクリームにオプションをこれでもかとつけた都会的なコーヒーに舞い上がっているただの田舎者である。しばらくはこのときのことを布団の中で思い出しては羞恥で眠れなくなるだろう。
    「不勉強ですみませんね! この時代の女性が恋人にどんな振る舞いをするかなんて知らないんですよ」
    「恋人らしい振る舞いとやらはいつの時代だって同じだろう。
     あなたは無茶をしないで、普通に呼んでくれるだけでよかったんだ。そうしたら俺がどうにでもできたんだ」
     私は長義の背に回していた手の指先にグッと力を込めた。もう長義に返す言葉もない、悔しいからせめてもの抵抗である。しかし、この調査でストレスが溜まっているらしい長義の口は止まらなかった。
    「それに君は弁が立たないにも程がある。彼女に言い返しもしないで引き下がっていたじゃないか」
     グウ
     まだ言うか。私は呻いた。
    「仕事の時は刀剣男士のわがままに臆せずはっきりと否と言っているじゃないか。さっきのも軽くいなせるだろう。それとも、まさかこの俺が任務を放棄して誘われるがままあの女性に着いていくと?」
    「そんなこと長義さんがするわけないでしょう」
     ここまで答えるといつの間にか力を入れて強張っていた長義の腕がふと弛んで、長義はほどけるように微笑んだ。
    「」
    「是非そうしてくれ」
    「それに、」
    まだ続くのか。小言はこりごりだ。意識を飛ばそうとした時だった
    「俺がこうしてあなたの隣に立つまでどれだけの手間と時間がかかったと思ってるんだ。仕事以前にこの座から退くなんて絶対にあるわけないだろ」
    今の聞いてよかったこと?
    私はきこえない
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    sajinage1373

    MAIKING流川の姉で仙道の高嶺の花
    「流川さんのお父さんって怖い人?」
    「お父さん? お父さんが怖いってことはないと思うけど」
     隣の席の仙道君からの質問に私は思わず聞き返してしまった。
     父をはじめ家族のことなんて仙道くんはもちろんこの学校の誰にも自分から家族について話したことはない。
     どうして父のことを尋ねて授業もそっちのけで仙道くんに聞いてみると事のあらましはこうだった。
     夜、私の家に電話をかけると男の人が出て、私の名前を出すと「いない」という不機嫌な一言とともに電話を切られてしまう。それが一度のみならず二度三度と続いている。
     不可解な出来事に私は首を傾げるしか出来なかった。
     なぜなら私の父はほとんど家にいることがない。平日は仕事のために私より早く家を出て、私が布団に入るかどうかの遅い時間に帰ってくる。仕事のない土日も接待のゴルフや麻雀だの何かしらの用事があってでかけている。同じ家で暮らしていながら顔を見るのは一週間で片手で足りるぐらいだ。そんな調子なので私の友達付き合いについて何か言われたこともない。きっと私の友達の名前を一人でも覚えていることもないだろう。だから仙道君が言うように、父が家にかかってきた電話を切る理由もないし出来るはずもないのだ。しかし、起きていることの原因に思い当たるものはなにもなかった。それならやることは一つしかない。私は先生にバレないように仙道君の方に椅子をずらして、彼にだけ聞こえるように声をひそめた。
    1911

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