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    sajinage1373

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    sajinage1373

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    ちょぎさに「さっきからずっとかっこいいなと思って見ていたんですけど、一人ですよね? もしよかったら、近くのカフェでお話しできませんか?」
    私がカフェで買ったコーヒーを両手に待ち合わせ場所に向かうと、山姥切長義が逆ナンにあっていた。
     私が知るナンパといえば目当ての人物の端末をその場でハックしてメッセージを送ることだ。なので、彼女のように正々堂々と正面から目当ての人に声をかけてアプローチするのは激烈で大胆でクラシックな手段であり、それをこの目で拝めるのは知的好奇心が満たされて、面倒極まりない今回の任務の苦労なんて吹き飛んでしまうほどの異文化体験であった。
     彼女はこの時代の流行だろうレースのマキシ丈スカートの裾をふわりと揺らして足首を見せつけて長義にアピールをしている。長義はスカートから覗く白くて細いきれいな足首にも自分に向けられる爛々と輝くまなざしに眉根を寄せて渋い顔をしている。抱いた不快を隠すつもりもないくらいうんざりとしていた様子だ。
     勝ち目のない戦に彼女がどう食らいついていくのか。
     私は長義たちから離れた道の脇に足を止めて、見物することにした。けれども見学を始めてから十秒もしないうちに長義が私の姿を見つけて「早くしろ」と声もなく呼ぶのでそれを楽しむわけにはいかなくなってしまった。
     ちなみに長義がこのように逆ナンパされるのは今回の調査でこれが初めてではない。すでに十を超えている。長義は、初めのうちは自分を取り囲んでくる女性から自力で逃げ出していたが、人を使えばもっと早く逃げられるとわかってからはその手段ばかりを使うようになってしまった。つまり、今のように長義が一人でいたところに話しかけられていた時、私は長義のもとへ駆けつけて彼女らを長義から引きはなすのが長義と私の間でお約束のようになっていた。
     私は咳払いをして喉の調子を確かめてから助けに入るため長義と逆ナンの彼女の方へ歩み出た。
    「長義さん、お待たせしましたー!すみません、カフェが思ったより混んでて」
     カラオケでもなければ出さないような高い声を絞り出して私は二人の間に割って入った。逆ナンパの場に相手の恋人として登場するシンプルな作戦だ。無理のある声で飛び出してきた私に長義は一瞬目を見開いたが、逆ナンの彼女はそこらの刃物よりかはずっと鋭い目で私を睨んだ。
    「この人、私の運命の人なのかもしれないんです!私がこの人と大事な話をしてるの、見てわからない?」
    「いや、でもですね」
     刀剣男士・山姥切長義なんていくらでもいるという事実を私はグッと飲み込んだ。
    「空気も読まずに割り込んで来ないでください。」
    「…………大変失礼いたしました」
     絶対に長義をゲットしてやるという揺るぎない彼女の強い意思と(同じ姿かたちの身体が数えきれないくらいいる刀剣男士を運命だなんて!)、とりあえず声を高くして声をかければいいだろうという私の稚拙な対応への反論の余地のない指摘に屈した私は逆ナンの彼女に詫びを入れて、彼女と長義の前から退いた。
    「あなたは何をしているんだ」
     私の道化ぶりに長義は自分の分のコーヒーカップと私のカバンを奪うと逆ナンの彼女の方に一歩前に出た。
    「見ての通り彼女を待っていた。暇はない。これで失礼する」
     そう言うと長義は私の肩を掴んだ。目の前から去ろうとする長義を逆ナンの彼女は立ち塞がるように足止めし私と長義を交互に指差した。
    「でも、この人とお兄さんは恋人同士じゃないですよね」
    「えっと、そういうのでは」
     彼女の問いに答えようと口を開くと、長義は目力のみで私を制した。これ以上私が何か行動するのは良くないようだ。
    「失礼する」
     長義は逆ナンの彼女にきっぱりと言い退けると私の背を押し出すように歩き出した。
     少し歩いてもう逆ナンの彼女とも距離が開くと、私は肩の上に乗っている長義の腕を外そうとした。逆ナンの彼女が指摘したように長義と私の関係は単なる同僚だ。だから肩を抱かれるのは歩きにくくて仕方がない。おまけにスーツ越しとはいえ長義に触れられているのはいささか心地が悪く、ザワザワとして落ち着かない。
    「そろそろ離れてもらってもいいですか?」
     しばらく歩いて逆ナンの彼女と距離も十分離れただろう。私は肩の上にある長義の手を軽く叩いた。だが長義はどういうわけか私の肩を自分の懐にさらに寄せて、こともあろうに腕を私の腰に回してきた。
    「ちょっと!」
     思わず声を上げると、長義はシッと私を黙らせて早く私の首元に顔まで寄せてきた。コーヒーにトッピングした生クリームの甘ったるい匂いに混じって、嗅ぎなれない澄んだ香りが鼻腔に入ってきてまた首筋に痺れのようなものが走った。慣れない感覚に息をのんで肩を強張らせる私に構わず長義はそのまま言葉を吹き込んだ。
    「さっきの、俺たちの後をついてきている。まだ離れない方がいい」
     長義の視線を追うように後ろを少し振り返ってみると人に紛れて逆ナンの彼女の姿があった。ここからは彼女の表情は見えないが耳につくほど怒らせている肩や細いヒールにも関わらず強く踏み出し歩いている様子だけでも彼女の怒りの念はこちらに伝わってくる。
    「だからってこんな体勢で歩かなくたっていいじゃないですか」
    「でも、今離れたら彼女は間違いなくこちらにやって来るだろう。それにあの様子だと追いついた時に詰め寄られるのは俺じゃなくてあなただ。試しに離れてみるか?」
     長義は意地の悪いことを言って離れようとしたので私は慌てて長義の背中に手を回した。
    「勘弁してくださいよ。……あーあ、下手な芝居なんて打たなきゃよかった」
     後悔を口にすれば、乾いた笑いが長義の口の端から漏れた。
    「それにしてもさっきはひどかったな。一体、何がしたかったんだ?」
    「テンションの低い女よりフレンドリーな女性があの場に現れたほうがいいと思ったんです」
    「どうして?」
     長義から質問されると思わなかった私は驚いてえっと声を上げてから少し考えて答えた。
    「逆ナンパしているところに彼女が出てきたら、長義さんのことを諦めるじゃないですか」
     長義は形のいい眉毛を吊り上げた。
    「アレで俺の恋人のフリだったのか」
    「そのつもりでしたけど」
    「下手すぎるだろう。どうやったらああなるんだ」
     長義のごもっともな指摘に、私の身体は汗が浮くほど一気に体が熱くなった。思い返してみれば、あの時の私はコーヒーを手に甲高い大声で登場しただけだ。逆ナンの彼女から見た私はさぞかし痛々しい女であっただろう。しばらくはこのときのことを布団の中で思い出しては羞恥で眠れそうにない。
    「不勉強ですみませんね! この時代の女性が恋人にどんな振る舞いをするか知らなかったんです」
    「恋人らしさは時代で変わらないだろう。
     無茶をしないで、普通に呼んでくれるだけでよかったんだ。そうしたら俺がどうにでもできたんだ」
     私は長義の背に回していた手の指先にグッと力を込めた。もう長義に返す言葉もない、悔しいからせめてもの抵抗である。しかし、この調査でストレスが溜まっているらしい長義の口は止まらなかった。
    「それに君は弁が立たないにも程がある。彼女に言い返しもしないで引き下がっていたじゃないか」
    「……グウ」
     長義め、まだ言うか。
    「仕事の時は刀剣男士のわがままに臆せずはっきりとした物言いできるんだから、さっきのも軽くいなせるだろう。それとも、まさかこの俺が任務を放棄して誘われるがままあの女性に着いていくと?」
     逆ナンパについていく山姥切長義。そんな姿は想像もつかないほどありえない出来事だ。もし、女性の誘いにまんまとついていく長義を目にすることがあったらそれは地球が平面であることが証明されたときだ。
    「長義さんがそんなことするわけないじゃないですか」
     怖気を振り払うように首を横に振って否定する。
    「わかってるじゃないか」
     私の答えでいくらか満足したのか長義の眉間にあった皺がなくなった。それを確認してから私はもう一度背後を見た。逆ナンの彼女は長義のことを諦めたのだろう。姿を消していた。長義の機嫌も戻りようやく一難が去ったのがわかると、私は胸に詰まっていた緊張を吐き出すように大きく息をついた。
    少し冷めてしまったコーヒーを飲もうとカップに口をつけた時だった。
     外れてもいいはずの長義の腕がなぜか外れず、私の身体を長義の身体に預けるように傾けさせた。
    「俺がこうしてあなたの隣に立つまでどれだけの手間と時間がかかったと思ってるんだ。仕事以前にこの座から退くなんて絶対にあるわけないだろ」
    今の訊いてよかったこと?
    私はきこえない

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    sajinage1373

    MAIKING流川の姉で仙道の高嶺の花
    「流川さんのお父さんって怖い人?」
    「お父さん? お父さんが怖いってことはないと思うけど」
     隣の席の仙道君からの質問に私は思わず聞き返してしまった。
     父をはじめ家族のことなんて仙道くんはもちろんこの学校の誰にも自分から家族について話したことはない。
     どうして父のことを尋ねて授業もそっちのけで仙道くんに聞いてみると事のあらましはこうだった。
     夜、私の家に電話をかけると男の人が出て、私の名前を出すと「いない」という不機嫌な一言とともに電話を切られてしまう。それが一度のみならず二度三度と続いている。
     不可解な出来事に私は首を傾げるしか出来なかった。
     なぜなら私の父はほとんど家にいることがない。平日は仕事のために私より早く家を出て、私が布団に入るかどうかの遅い時間に帰ってくる。仕事のない土日も接待のゴルフや麻雀だの何かしらの用事があってでかけている。同じ家で暮らしていながら顔を見るのは一週間で片手で足りるぐらいだ。そんな調子なので私の友達付き合いについて何か言われたこともない。きっと私の友達の名前を一人でも覚えていることもないだろう。だから仙道君が言うように、父が家にかかってきた電話を切る理由もないし出来るはずもないのだ。しかし、起きていることの原因に思い当たるものはなにもなかった。それならやることは一つしかない。私は先生にバレないように仙道君の方に椅子をずらして、彼にだけ聞こえるように声をひそめた。
    1911