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    ちかし

    うすゆうのこと団地妻だと思っている
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    ちかし

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    できてない水臼で中秋の名月ネタ。久しぶりの小説

     うだるような夏の暑さが落ち着き、とりわけ夜は色濃く秋の気配で満ちている。臼井は足早に部室の戸締りを確認して、校門へ向かっていた。時刻はすでに21時近く、寮の門限ギリギリだ。監督の中澤と次の練習試合の作戦でつい話し込んでしまい、遅くなってしまった。
    「臼井」
     すると突然、門の脇にしゃがみ込んでいた影に苗字を呼ばれた。すくっと立ち上がり、街灯に浮かび上がった見慣れた顔。水樹だった。とっくに帰ったと思っていたのにどうしたのかと、臼井は脚を止める。
    「忘れ物か?……まさかお前、駅までたどり着けなかったのか?」
     水樹は聖蹟サッカー部の全員が認める方向音痴だ。さすがに利用して三年目の最寄り駅までの道がわからないことはないだろうと思うが、万が一もある。ピッチで相手ゴールを間違ったり、後輩の名前をいつまでも間違えて覚えていたり。
     彼はいつだって『歩く予想外』なのだ。
     しかし、今日の『予想外』はさすがに考え過ぎなようだった。水樹がゆっくりと首を横に振って口を開く。
    「月が」
    ポツリと呟いて、水樹は空を仰いだ。つられて顔を上げると、雲一つない夜空が広がっていて、煌々と輝く月が目に止まる。
    「ああ、月を見ていたのか? そういえば今日は中秋の名月だったか」
    忙しくて月を見上げる余裕も、暦を数える暇もなかったが、一年で最も美しいと言われる時期だ。確かにくっきりと浮かび上がった満月は息をのむほどの美しさだった。
    思わず綺麗だなと言いかけて、臼井は口をつぐむ。『月が綺麗ですね』というセリフに秘められた告白の意味があまりにも広まり過ぎて、変に意識してしまう。アイラブユーを月が綺麗ですねと訳す奥ゆかしさなど、水樹が持ち合わせているはずないのに。そもそも今の自分たちには必要もない言葉だ。そんなことを考えて黙り込む臼井の変化には全く気づかない様子で、水樹が先ほど言いかけた言葉を続ける。
    「月が、肉まんみたいだなと思って」
    「………なんだよ、それ」
     あまりにも予想外の感想に、思わず笑みを浮かべてしまう。さすがミスター予想外だ。風流には疎いだろうと思っていたが、肉まんが出てくるとは。花より団子、月より肉まんかとひとしきり笑った後、臼井は歩き出した。
    「それじゃ、ちょっとそこまで月でも買いに行こうか」
    「うん」
    二人で肩を並べてコンビニへ向かう。満月が肉まんに見えるほど腹を空かしているのにどうして待っていてくれたのかは、聞かない。おおよそ予想がつくからだ。きっと、臼井が中澤と打ち合わせしているのに気づいたのだろう。話に入ってこれないにしても精一杯の気遣いが嬉しかったし、これで十分だった。
     キャプテンを託した時に足りないところは補うと誓ったから、水樹の代わりに中澤と話をしてきた。代わりといっても、影のつもりはない。押し付けがましい気も優越感もない。
     人はそれぞれに足りないものがあると思う。たとえ一人ではどこか欠けていても、合わさって、この月のように満ちていたいと思う。
    「あっ」
     並んで入ったコンビニで、水樹が大きな声を上げた。何かと思えば、駆け寄ったパンコーナーで彼が商品を手にする。黄色い砂糖でコーティングされた丸いパン、メロンパンだ。
    「そういえばメロンパンにも見えた。満月メロンパンだ」
    「お前は本当に……」
    食い意地がはっているなと言いかけたところで急に強烈な空腹を覚えて、臼井は目を細めた。確かに、輝く月は好物に似ている。肉まんでもメロンパンでも、月でもいいから早く齧りたい。結局部活帰りの男子高校生なんてこんなものだ。
     肉まんとメロンパンをそれぞれ買って、コンビニを後にする。特に示し合わしたわけではないけど、その半分を分け合って帰路に就いた。


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    eyeaifukamaki

    PROGRESS愛をみつける
    ②と③の間のケイside
    タイトルたまに見つけるになってる
    “みつける”が正解です
    ケイ君も深津さん大好きだけど、さぁきたや、ノアにはまだまだ魅力が及ばない、という感じで書いてます。
    これも誤字脱字確認用
    大好きな人がアメリカに来る。その通訳に俺が任命された。爺ちゃんから頼まれて、断る理由はなかった。ずっと憧れてた人。俺の高校時代にバスケで有名な山王工高のキャプテンだった一つ上の深津一成さん。バスケ好きの爺ちゃんのお陰で、俺も漏れなくバスケが好きだ。うちの爺ちゃんは、NBAの凄いプレーを見るよりは日本の高校生が切磋琢磨して頑張る姿が好きらしい。俺は爺ちゃんの娘である俺の母親とアメリカ人の父親の間にできた子だから、基本的にはアメリカに住んでるけど、爺ちゃんの影響と俺自身バスケをやってる事もあって、日本の高校生のプレーを見るのは好きだった。その中でも唯一、プレーは勿論、見た目もドストライクな人がいた。それが深津さんだ。俺はゲイかというとそうではない。好きな子はずっと女の子だった。深津さんは好きという言葉で表現していいのか分からない。最初から手の届かない人で、雲の上の存在。アイドルとかスーパースターを好きになるのと同じ。ファンや推しみたいな、そういう漠然とした感じの好きだった。会えるなんて思ってなかったし、せいぜい試合を見に行って出待ちして、姿が見れたら超ラッキー。話しかけて手を振ってくれたら大喜び。サインをもらえたら昇天するくらいの存在だ。深津さんを初めて見た時は、プレーじゃなく深津さん自身に惹かれた、目を奪われた、釘付けになった。どの言葉もしっくりくるし、当て嵌まる。それからはもう、虜だ。爺ちゃんもどうやらタイプは同じらしい。高校を卒業しても追いかけて、深津さんが大学に入ってすぐに、卒業したらうちの実業団にと既に声をかけていた。気に入ったら行動が早い。条件もあるが良い選手は早い者勝ちだ。アプローチするのは当然。その甲斐あってか、深津さんは爺ちゃんの会社を選んでくれた。深津さんのプレーを間近で見れるようになった俺は、もっと深津さんに心酔していった。一つ上なのになぜかすごく色気があって、でもどこかほっとけない雰囲気も醸し出していて、それがまた堪らない。深津さんのアメリカ行きの話が出て通訳を任された時は、そんなに長くない人生だけど、生きてきて一番喜んだ瞬間だった。こんな事があるなんて。爺ちゃんがお偉いさんでよかった。爺ちゃんの孫でよかった。俺は深津さんとは面識がない。ただ俺が一方的に心酔してるだけ。だから、深津さんの語尾がピョンというのも爺ちゃんから聞いた。深津さんは高校の時
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