温泉は持ってる温泉は持ってる。
【読切ロナドラ】
その日のギルドは比較的平和で、待機のショット、ドラルク達はのんびりと話に興じていた。
因みに、ショットほどの実力ならば以前は即戦力で駆り出されていたものの、ドラルクが来てからは退治人達の平和のためにドラルクが待機の時はマスター以外に必ず害虫駆除役を当番で行っている。
今日は偶々、ショットの番だった。
「へ〜、ショットさん。日本の銭湯って本当に富士山の絵があるんだ」
「なんだよ、ドラルク。お前、行ったことないのか?」
「うん。私、ずっとお城の温泉使ってて、こっちに来てからもロナルド君のお家のお風呂だけだから…ねっ、ジョン」
「ヌー」
城に温泉って……と思ったものの、そこはまあ引きこもりだったドラルクだからとか、竜の一族だからなとショットは納得はしていた。
ロナルドの以前住んでいたタワマンも新築の洋館も風呂はかなり広かったが、流石に銭湯のサイズはないから珍しいのだろう。
日本に自分よりも長く住んでいるのに、こういう箱入りらしさというのは妙に面倒を見たくなってしまうもので、ショットは話しながらスマホで近隣の銭湯を検索する。
「ふーん、この辺にも吸血鬼や使い魔も大丈夫な銭湯があるぜ。皆で行ってみ……まずは、ロナルドに聞いてみろよ。相棒なんだろ?」
危ない、危ないとショットは言い直しながら背筋が氷る思いがした。
この無邪気なドラルクの笑顔の背後には、過去女に事欠かないが肉体関係のみ恋愛とは無関係に生きてきたのに、今や嫁溺愛超過保護束縛型イケメン彼氏(予定)と化した友人がいるのだ。
例え、仲間であっても勝手にドラルクを誘えばどうなるか分かったものではない。
それが会話の流れの口約束だとしても…である。
「そうだね!相棒には隠し事しちゃいけないもんね」
「ヌン」
そして、この吸血鬼ドラルク。
相棒のロナルドに隠し事はしてはいけないと教えられているので、即筒抜けになるのは請け合いなのも付け足しておく。
失言は死に繋がる。
「ロナルド君、お帰りなさい!怪我はしてない?」
「当たり前だろ」
「ふふ、良かった。あのね、ロナルド君にお願いしたい事があって……」
(また嘘教えてるのか、ロナルド)
相棒として退治後には、魔を祓う為にパートナーの頬に抱き付く。
唇に触れるが最も有効なのだが、人前ではドラルクは恥ずか死を引き起こしてしまうので練習中らしい。
…………流石に保護者通報案件だとショットは思う。
200超えの成人吸血鬼に保護者も何もあったものではないと思うが、ドラルクの場合は竜の一族の純粋培養過ぎる嫡孫。
変な事を吹き込み、何かあれば街の壊滅位の事はする位置感の由緒正しき血筋様である。
つまり相手が相手なだけに例外なのだ。
だが、それをあの手この手で言い訳して親族の妨害から逃げ果せてドラルクの信頼を勝ち取っているロナルド。(但し、本人が希望する恋人や伴侶には一ミリも近づけていない。)
滅多にされないドラルクのお願いに、一挙一動一言所か本人も逃すまいと抱きしめながら聞いていた。
「……銭湯ね、あの束縛男がドラルクちゃんを他の男と同じお風呂に入れるかしら?」
「は?男同士の裸の付き合いなんて普「馬鹿ね〜、それは普通の男同士ならでしょ」……あっ」
「可愛くて大切な本命ちゃんの肌を晒すなんて許すと思うの、あんた。おねだり次第で貸し切りって所じゃないかしら」
なんせ、大作家様。
シーニャ曰く、本命童貞男。
印税収入で貸し切りなんて簡単にするだろう。
だから、貸し切りの電話を尋ねようとしているロナルドの姿にショットにも余裕はあった。
「よお、貸し切りにでもしたのか?」
「いや、不動産屋に土地探させてる」
「土地!?ロ、ロナルド、土地って何の話だよ」
秒で余裕は吹き飛んだ。
何故、土地が出てくる。
話は銭湯だった筈だと思うが、聞き間違いだろうか。
シーニャはあらぁ〜っと余裕な驚きだ。
「こいつが銭湯に入りたいって………ドラルク、出来るまで待ってろよ?」
「うん、ロナルド君、富士山の壁画ある?後、私、瓶の牛乳も飲んでみたい!」
そして、言われたドラルクも楽しみそうにキャッキャしている。
それはまるで、子供が親にテーマパークに連れて行って貰うような程度だ。
その純粋な笑顔には、確かに銭湯位はショットでも連れて行ってあげたくなる。
だからって、土地からいくのか!?
出来るまでって簡単に言うが、幾ら売れっ子作家でもそこまでいくかとショットは心でだけツッコむ。
「お、おい、ロナルド」
「流石に一回の銭湯にそれは…甘やかし過ぎてないか」
「ああ、こいつが微笑んで楽しみにしてる姿を見た俺の方が甘やかされ過ぎてるよな。本当に欲がないよな、彼奴は」
「……そうか」
駄目だ、人語が通じてない。
本来なら人間界の文化や金銭感覚を教えてやるべきではないかと思うが、まだ恋人になれていなくて必死な過去盛大なるモテ男のロナルドの行動や言動はモテないショットには理解出来ない。
いや、これは余程のドラルク推しでないと理解は難しいだろう。
竜の一族とかなら理解されそうだが…。
「ヌーヌー」
「ん?どうしたんだい、ジョン。………ロナルド君、お父様が銭湯持ってるって!明日完成するから皆で入りに来なさいって」
「は?」
その時、ジョンがスマホを持って親指を立ててドラルクやロナルドに話し掛けた。
そう、ドラルクの親族、事に父親のドラウスという吸血鬼は、ロナルドの溺愛濃度で忘れがちだが年数的に上をいく甘やかしと財力持ちだった。
ドラルクが友達とお出掛けとなれば、純粋に大喜びして親友に連絡を取り、安全と記念を考慮して観察と成長の記念撮影出来る環境を整えてくるなんて造作もない。
「ヌーヌヌっ!」
「そ、そうだね、ジョン。確かにロナルド君は相棒だけど、身内でないのに銭湯を建てさたら悪いよね。ごめんね、我儘を言ってしまって…」
「いや、お前は悪くねえよ」
身内でない………ジョンに叱られた内容に、身内になるつもりでいるロナルドは一気に青くなる。
鉄壁の過保護ガーディアンが下心しかないロナルドが建設した銭湯に入れるなんてNG案件だった上に、それは図星だったらしい。
「あら、じゃあ、私達も招待して貰えるのね」
「ええ、お父様が師匠とバーベキューの用意をしてくれるそうです」
「バーベキュー!」
「マジかよ。なら、手土産に熊かダチョウ持っていくぜ」
「ちっ………あの過保護マジロ」
ロナルドだけを来させないように、上手くドラウスの全身全霊の善意を誘導した大家ノースディンと嫌いなのにそれと組んでまで下心を潰しにした腹黒い顔がロナルドの目に浮かび悔しそうに歯噛みする。
(お前にだけは、あの氷笑卿も言われたくないだろうよ。)
「ヌー、ヌヌヌヌヌン、ヌニヌ?」
「何でもねえよ」
一瞬、怖い顔をマジロがした気がしたが逆光で見えない振りをした皆。
「ジョン、明日、楽しみだね!」
「ヌーーーーー!!」
天使のように可愛い顔して、一番の過保護策士はこのアルマジロだろうなと思い、クリームソーダのアイスを口にしたショットであった。