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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    渡英前 甘酒屋にて。

    アダバナ「明神様にお参りしたら、これを飲まないと」

    「むしろこれが目当てなんだろう」

    「ちゃんとお参りはしているんだから、いいじゃないか」

    ここは神田明神の参道沿いにある甘酒屋。
    店内は参拝客でにぎわっており、成歩堂龍ノ介と亜双義一真は
    ぎりぎり二人掛けられる椅子に詰まるように座っていた。
    優しい味でありながら、飲みごたえも感じさせる甘酒は
    看板に掲げるだけの品である。

    「このお店の由来、知ってる?」

    「いや、知らん。そもそも初めてきた」

    「前来た時に常連っぽいおじいさんから聞いたんだけど……
     仇討のため、なんだって」

    龍ノ介が口に残っていた甘酒を飲み込みながら亜双義を見ると、
    一瞬目を見ひらいた後、いつもの不遜な笑顔に戻った。

    「仇討とは、まるで浪曲か講談の世界だな」

    話半分しか信じていなそうな亜双義に、龍ノ介は聞いた話を続ける。
    暗殺された弟の仇を見つけるため、江戸へ行く人が通る道沿いである
    この場所に店を開き機会を待っていたという。

    「結局、仇は見つからなかったらしいけど」

    話し終えると器を傾け、まだ少し底に残っている甘酒を飲み切って
    ぺろりと口まわりをなめる。

    「そのおかげでこの店が続いて、今こうして
     美味しい甘酒が飲めるってわけだ」

    「お前にとっては、ありがたいな」

    箸休めに添えられている沢庵をかじりながら亜双義が言う。
    ボリボリといい音を立てながら何か思案顔だ。

    「多くの人にとっては、仇討などそんなものなんだろう。
     本懐を遂げて、少しばかり話題になるかもしれないが
     それまでだ。日々の生活に何も変化もない。
     そして当人に待っているのは刑死か牢屋暮らし、か」

    「それでもやらなきゃいけないことなのかなあ、仇討なんて」

    江戸は遠くなりにけり。
    龍ノ介にとって、仇討話はたしかに物語の中の出来事だ。
    討った後の彼らのことまでは語られない。
    それは、亜双義の言うようなものだからだろう。

    「この店を始めた人は仇を討てなくて悔しかっただろうけど
     きっとどこかで諦めをつけて、新しい人生を選んだんだろうね」

    仇討の成功と、堅実な生活、どちらがいいかなど簡単には言えない。
    龍ノ介の言葉を聞いた亜双義はそれに何も返さずに、
    甘酒の器を一気に煽って飲み下す。
    それはまるで、苦い薬を無理やり飲んでいるような姿だった。

    -完-

    天野屋の逸話を元にしています。
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